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受付嬢二年目編・16

「ナナリーって、受付の仕事以外にやりたい仕事とかある?」

「受付以外ですか?」


 久しぶりの外仕事。しかしあいにくの雨模様で気分はいつもより下がり気味。どんなに人間や魔法が進化をしようとも、天候に関しては誰の手にも自由には出来ないのだ。


 今回の外仕事は裁判院からの依頼だった。最近東の森周辺でテトラという悪戯好きの小さなあばれ馬とも言われる魔法動物が出没しているらしく、そのテトラが電撃で森の木に雷を落としてはなぎ倒したり、近くの民家に入って中を荒らしたり、藁を燃やしては周辺にばらまいたりと随分好き勝手にやっているので、実際の現場を見に行って確かめてくるようにとの所長からのお達しだ。

 そして今はそのテトラの痕跡を辿っている最中。

 記憶探知で探っているけれど、これがなかなか見つからない。

 すばしっこい奴だ。


「急にどうしたんです?」


 事前調査の紙を片手に筆を浮かせながらゾゾさんと並んで森の脇の細道を歩いていると、隣にいた彼女からそんな質問が飛んで来た。


 受付以外の仕事?

 急な質問である。


「私はずっとハーレで働けたらなって思っているので、お婆さんになるまで頑張っていけたらなと、そんな感じです」


 私がそう言えば、そうよねーとゾゾさんは笑った。


 何か仕事に対して思うところがあるのだろうか。そしてその言いよう、もしかしてハーレ以外の所で働きたいとか言うんじゃ……?

 やだやだそんなこと突然過ぎて受け入れられない。やめてゾゾさんまだ傍にいてくださいいかないで。


 想像して顔を青くしだした私に対して何を思ったのか溜め息を吐いたゾゾさんは、歩きながら腕を組んで首を横に倒した。


「それもいいんだけどね。でも私一生仕事だけして終わるのかなって思うと憂鬱で仕方ないのよ最近」


 仕事中でも中々見せないような、深刻な表情をしている。


「ゆくゆくは永久就職したいんだけど、どうしたら良いと思うナナリー」

「誰かのお嫁さんになるってことですか」


 そう返しながら、私はテトラがいたらしき場所で指をクルクルと回し、ふたたび記憶探知をやる。


「ナナリーは案外誰かに押し倒されちゃいそうだから心配ないけどさ。まぁでもそしたら全力で押し返しそうだからどっこいどっこいか」

「真面目に何言ってんですか」


 なるほど、そっち方面の心配だったのか。いいのか悪いのか突っ込みづらい話題になってきた。

 そういえば最近その手についての話をゾゾさんから聞いていない。


「切実な願いよ。この年になって恋人の一人も出来やしない私をどうか嘲笑ってちょうだい」


 ゾゾさんはそう言うが、私もできそうにないので(そもそも興味はない)人様を笑うことは出来ない。そうじゃなくてもそんなことで笑う気にもなれないのだが。

 彼女は私が持っていた調査書をひょいと取り、胸に抱え込む。


「とりあえず大会頑張るから応援よろしく」

「受付が終わったら観客席で旗振って名前さけびます」


 ウォールヘルヌスの出場者として選ばれているゾゾさんは、選ばれたことにビックリする様子もなく、当たり前じゃない、と会議があった日は自信たっぷりに親指を立てていた。

 実力もさることながら魔法での戦いもけっこう好きなようで、もしも選ばれたら思う存分魔法を使って暴れてみたいとこぼしていたほど。

 出場する人間にはハーレの中でも実力のある魔法使いが選ばれたので、ゾゾさんもアルケスさん同様抜きん出て優秀な魔女なのである。

 普段からそういう面を見せることはなく、むしろ私はこれが出来ないあれが出来ないと自分を下げがちであるが、それ以上に人よりできることはあるし、学校やハーレに来ている破魔士達の中でも色んな地の魔法使いを見てきたが、過去一度だけ外仕事中に見せてくれた、雲まで届くくらいの巨大な土人形はゾゾさんにしか操れない代物だ。他にも100体を越えるほどの土人形の軍隊を操れるゾゾさんだが、馬力が違う。


「ゾゾさんちょっと」

「どうしたの?」


 記憶探知していた手を止めた。


「テトラいましたよ」

 

 なぎ倒されていた木にしがみつくテトラの姿があった。

 尖った長い耳をもった小動物並みの大きさの、人に近い見た目をした生きもの。背中には鳥の羽根のような綺麗な翼がある。


「このテトラ、変じゃないですか」

「体が黒くて目が赤いのね。そういう種類?」

「でも、わかります? 見た目が」

「魔物に近いって?」


 テトラの毛並みは通常茶色い。瞳も黒く、大きくてつぶらな瞳が特徴だった。

 けれど記憶探知で現れたこのテトラは、なぜか毛がどす黒く、瞳も赤く光っている。それに様子もちょっとおかしい。

 テトラという生き物はそもそも凶暴性などなく、確かにいたずら好きな面もあるけれど、人に直接害のあることはしないことで知られていた。


「テトラが魔物になったのか、魔物がテトラに似ているのか」

「これはまた王国に報告かしら」


 人間が魔物になるという衝撃的な論文を目にしたのは三年も前のこと。人間が魔物になる可能性があるのなら、動物も魔物になる可能性はなくない。

 『また王国に』とゾゾさんが言ったが、他にも何件かこういう異常が見られる動物が発見されている。ちくいち騎士団や城に報告はしているが、どう対処しているのかは私達まで届いておらず、こうして異常を見つけては調査書へと様子を記して所長へ提出するのみだった。所長ならどうなっているのか分かっていると思うので、私達に言わなくていいことならば余計なことは話さないだろう。

 それに依頼を受ける破魔士達にも協力をしてもらい、異常動物の確保をしたら王国側に引き渡すという、原因解明のための手伝いもしてもらっているので、今はただ見守るのみである。


「間違った情報を破魔士達に与えるわけにはいかないもの」


 一年前に見た、三つ目の魔物。

 今回目にした、魔物のようなテトラ。


『金色の蝶の君と言ってくれれば、喜んで門を開けよう』


 あのアリスト博士なら、何か分かるだろうか。

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◎魔法世界の受付嬢になりたいです第3巻2020年1月11日発売 i432806
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