受付嬢二年目編・15
それから一週間後。
「やっぱりアルケスさんが駆り出されてるのね」
「想像通りじゃないの」
本日の就業後の会議で書記という位置に付かされていた私は(なんでも二年目の人間の仕事らしい)、今は資料室をハーレのお偉いさん方が使っているということなので、中庭の休憩所にて用紙へと今日の会議内容をまとめていた。休憩所には私の他にも会議に出席していた職員達が、休日の出勤ってもうこれ休日じゃなくね? など会議後に暇を持て余してなのか椅子の上で愚痴をこぼしながら寝ていたり、設備されている簡易な寝具で横になっていたりしている。
「ケルンに、ゾゾにモルディナ? 何よほんとに皆の予想通りじゃない~」
私が黙々と作業をしていると、テーブルに女性陣が集まってくる。彼女達は今日の会議に出た人達ではなく夜間勤務の人達で、夜間の人間が軽くお休みをとるこのちょっとした休憩時間と被さっていたようだった。
また仮眠をとるための休憩時間などは真夜中に取るため、この時間にご飯などを食べてしまう人が多い。
ハーレのお姉様方は白い制服をはためかせながら椅子に座り込み、私の書いている物を覗き込んでは話に花を咲かせていた。
「ナナリーは受付につくって聞いてたから除外だし、氷の型でやり手って言ったらディーンとかそこらへんになるしね」
今日は大会へ出場する人間が発表された日だった。
大会に出場する人間は、アルケスさんやゾゾさんを含めた北のハーレから三人、南のハーレから一人、西のハーレからは二人が選ばれている。同じ氷型の女性で先輩にあたるディーンさんは南のハーレに所属している人で、以前そっちの魔導所へ行った時に話したことがあった。気さくでお話好きな人で、結婚もしており子供も一人娘がいるという働くお母さんだ。寮ではなく町の一軒家に住んでいるので話す機会はあまりないのだが、外仕事もてきぱきとこなしていたディーンさんを思い出すと納得の人選だなと、決まった6人の名前を用紙に記入しながら思う。ゾゾさんが選ばれているという点に関しても、何故か私が誇らしく思ってしまっている。何様なんだ私は。
アルケスさんもゾゾさんも今日の仕事は終わっているが、今は選ばれた職員達と資料室でお偉いさん方も含めて話し合いをしているのでこの場にはいない。
「東の地方の人間は一人も入っていないみたいだけど、まぁ正解ってとこかしら」
「私も受付一緒だから、当日は一緒に行こうねナナリー」
ついついよだれを垂らしてしまいそうな美味しそうな匂いを漂わせながら、お姉様方は私を囲み話す。
所長から聞いた話では、当日私を含めた受付の三人が選手の到着入場確認と、見物客の観覧切符を集めたり、また会場の中で参加選手たちの点呼を取るのらしい。最後の仕事内容に関してはもはや受付でなく完全に運営の仕事じゃないのかと思ったが、突っ込まないようにしよう。
またロックマンが以前に言っていたことも気になっていたのでそれとなく所長に「大会に関して防衛要請を出されたみたいなことを、少し小耳にはさんだのですが」と聞いてみると、一応この大会に関わる人は、何かあった時にいつでも誰でも対応できるような者をとのことで、平均能力以上の魔法使いを配置させたいということを希望されたようだった。何か危険の事態があれば協力をするようにとのことらしい。
「ナナリー、明後日に当日の内容について城で説明があるらしいから、それも一緒に行こっか」
「え? 説明会みたいなのがあるんですか?」
「言い忘れていたから伝えておいてって、所長から」
お城で説明会。確かに当日になってから説明されるより、あらかじめどんな仕事でどんな段取りなのか運営のほうから直接教えてもらった方がいい。
手引のようなものは所長からこの前貰ったものがある。中身は半分以上が開催する予定地の空に作る大会の会場の設計図、どのあたりに何があるのか、参加国一覧、など当たり障りない内容で、これでどう当日に臨んで行けばよいのか謎だったので、説明があるのなら非常にありがたい。
会場の運営と指揮は城の人間がやる決まりになっており、建築・設計士の手配から何から何まで王も交えた話し合いになるそうで、王国全体で盛り上げていく形となっている。その一部に私達ハーレの人間も関わっていくということなので、任されたからには全力で臨んでいきたい。
「ねぇねぇ、せっかくお城へ行くんなら、騎士の中で良さそうな男の人見つけといてくれない? なるべく貴族じゃなさそうな人で」
「私も~」
話しながらも書記の仕事がひと段落したので片付けに入っていれば、城に行く予定の私と先輩の肩をガシッと掴んで、姉さん達が顔を詰めてくる。
「えっ」
いやそんなことを言われても。
出会いに行くわけではないし声をかけるのも私では無理ですと真剣に返せば、え~お願い~と両手を合わせて頼み込まれた。
いやいや、何も騎士でなくとも良いじゃないか。
別に騎士に偏見を持っているわけではなく、むしろゼノン王子やニケも騎士として働いているし、ハーレが無かったら騎士として働いていたかもしれないと思うくらい尊敬をしている業種である。
ただその一部にとんでもなく女にだらしない奴がいるので、なんとも言えないのだ。
「ここは男日照りだし、いても既婚者ばっかりだし、毎日仕事と寮の行き来でつまんないんだもん」
「アルケスさんにちょっと色仕掛けかけてみても惨敗だったしさ~」
ちょっとは靡いてくれてもいいのになぁ~、と先輩の一人が唇をツンと突き出して不満そうにつぶやく。
そう。
実はあのアルケスさんだが、結構ハーレ内の女性達にモテモテなのである。
「あのだらしなさそうでしっかりしてるところがなんとも言えないっていうか、好みっていうか」
「やめといた方が良いって~。なんだかんだあの人一生独身そうじゃない?」
顏が良い、背も高い、魔法は一流、仕事もできる、独身、恋人なし。
良い所を上げたらきりがないと言う人もいるほど、アルケスさんを狙っている女性は少なくはない。特に仕事に関しては本当に頼れる人なので、そこの点に関しては好きまではいかなくとも憧れたりする気持ちは私も分からないワケではないので、納得と言えば納得である。年齢は私の父と同じ年なのでそういう対象に見たことはないが、父とは違い、年上のお兄さん、という感じで私も慕っていた。
「あっ、もう仕事に戻る時間じゃない」
「じゃあね~」
そうこうしている内に、夜間の人達は仕事のため手を振って中庭から出ていく。
私は先輩達のお願い事を頭の隅に置きながら、帰り支度をして寮へと帰っていった。