受付嬢二年目編・14
「そういえばナナリーは、今度の魔女祭で成人になるのよね」
休憩中、所長から頂いた資料に目を通していると、ハリス姉さんがお昼ご飯をもって私の前の席に座った。
彼女の今日のご飯を見るに野菜が大半をしめているのがうかがえるが、最近太ったかもしれないと時折こぼしていたのを聞いていたので、減量でも考えての食事なのだろうかと目を瞬かせる。そんなに気にしなくても太っていないのに、太っていない人ほど体重を気にするから不思議なものだ。いや、太らないように気を付けているから太っていないのであって体型に敏感になっているだけなのかもしれない。なんて目の前で野菜を頬張り出したハリス姉さんを見て、私は資料の上に上品たらしく手を置いた。
「もうとっくに18歳なんですけどね。19歳で成人の儀式って面白いですよね。この間、父がドレスとローブを持ってきてくれました」
父がこの前私の職場に訪れたのも、その成人の儀式で着る衣装を届けるために来たようなものである。母はこの国での成人の儀には参加していなかったようで、お下がりというものは持っていない。大抵の女の子達は母親や親せきが来ていたローブやドレスを使いまわしていたり姉のお下がりを着たりしているのだが、私に姉はいないし、親せきには従兄の兄しかいないのでそんなものは用意しないと着られない。母は今外の国へ仕事に行っているので代わりに父が持ってきてくれたのだけど見立ては母なのらしい。
本当は私と選びたかったそうなのだが、休日がなかなか合わないというのだから仕方がない。親にわざわざ買ってもらわなくとも自分で買うぐらいできると手紙では話したが、いかんせん母も母で頑固なところがあり「それはお母さんの仕事です」ときっぱり言い放たれてしまったため、もうそこは母の趣味に任せた。母と私は驚くぐらい味の好みや服の趣味がぴったりと合う。もう一人の自分なのではないのかと思うくらいに、母の選んだものに反抗したことは一度も、これまた人生の中でないのである。
母親というものに対して反抗期があまりなかったのも、そのせいだろうと今では感慨深く思う。
「もういっそのこと19歳を成人にしたらどうでしょうか」
「そうよねぇ。ややこしいわ」
うんうんと二人して首を頷ける。
「それ何?」
「夜間の業務一覧です」
「ほぉ~!」
私達が住んでいる寮の寮母さんが驚いた時に発する口癖を真似しながら、姉さんは大口を開けてニッコリと笑った。
いやはやとても似ている。
「これからは夜の女になるってことね」
「言い方あれですけどそう言うことにならせていただくことになりまして」
いつからだとかはまだ具体的には聞かされていないが、資料もいただいた事なのでそう遠くないうちにやることになるだろう。
「そうだ、今度の会議で誰が出るか決まるらしいわよ」
決まるとは、この前の会議で議題に出た大会に出て認知度を上げようというやつのだろうか。誰がどう選出されるのか立候補制なのかはたまた推薦制なのかは知らないが、その会議で決めるというのだからそこで確実に決めるのだろう。誰が出ることになるのか少し楽しみである。私はもう受付という役割を与えられているので(おそらくたぶん)名前が出ないことは確かである。所長やアルケスさんが揃って出られれば確実に良い所まで、もしくは優勝なんて文字が浮かび上がるが、二人が同時にこの魔導所から居なくなることはまずないと思うのでそれは期待するだけ無駄だろう。出て欲しいけれど。
ここに来て二年目になるのに、所長が魔法を使ったところをよくそこまではっきりと見たことがない。仕事に行くのは下の私達であり、責任者である所長は大抵事務処理、書類整理に追われているので、そんな姿を見たことがないというのもしょうがない話なのである。
私もそろそろ手つかずにいた自分の昼ご飯でも食べようと、組んでいた手をほどいて食器に手をだしお肉を頬張る。ちらと時計を見れば昼休憩もあとわずかなため急いで食べた。ムシャムシャと一心不乱に食べる。口に広がる香辛料の香りを味わいよく感じながらも、さて今日は寮に帰ったら何から手を付けようかとただ黙々と料理を平らげていく私をハリス姉さんが目を点にしながら見ている事に気づくことなく、私の昼休憩は終わった。
次話更新→1月11日