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受付嬢二年目編・11

「なにそれ!! 私聞いてないわよ!!」


 ベンジャミンが真っ赤な顔で私に詰め寄ってきた。

 フンフンとものすごく鼻息が荒い。


「ろ、ロックマンが言うに、サタナースにも言えない事情があるんじゃないか、って、ベンジャミン、べ、ちょっやめ」

「でも良かったじゃない。あの隊長がそう言うんだから、サタナースが言い出すまで待ってみたら?」


 ニケが揚げ菓子をつまみながら頬杖をつく。

 可愛らしいレースの窓掛けや桃色のふかふかの枕、小さなお月様の間接照明に子馬の蝋燭立て。キャンベル作の真っ白な寝巻き。

 店に戻り無事営業を終えたのち、キャンベルの部屋で泊まらせてもらうことになっていた私達は、四つに並べられた寝台の上にそれぞれ転がって話をしていた。


「ロックマンとベタベタくっついて路地裏で話してたと思えばそぉんな話をしてたなんてえぇええ!」

「言い方!!」


 結局ロックマンの言う通りサタナースが店に現れることなく、ベンジャミンの落ち込みようが半端なかった為よかれと思い部屋について早々に奴から聞かされた話をすれば、彼女は絶叫とともに私の肩を鷲掴みして前後に振ってきた。

 ううぎもぢわるい。


 実はロックマンが去り際に『フェルティーナにはサタナースのことを伝えておいてあげて。丁度良い機会を伺うのは分かるが、サタナースにはまず彼女の不安を除く義務がある』なんて閉店間際になり裏へ行こうとする私の腕をいちいち引っ張ってまでそう言ってきていたのだ。サタナースが話さないのなら無暗やたらと話すべきではないと反論したが、ここに来てやはり奴の言い分も一理あるかと思ってしまった私がアホウだった。

 さっさと部下達を引き連れて帰ればいいものを、今度はカウンター席ではなく騎士団長も交えた奥の席に座り閉店ギリギリまでいたので文句も言えず、胃がキリキリとする思いで接客をしていたというのに。帰り際に騎士の人達からジロジロ見られて居心地が悪いったらありゃしなかった。

 サタナースがベンジャミンに言わない理由は知ったところではないが、私が話してしまったことによって二人の仲が拗れてしまうのだけは避けたい。

 とりあえずベンジャミンが心配しているようなことは無いみたいだと伝えたかったのに、けれど言えば言うほどベンジャミンの熱は上がっていく。


「そんな大きな大会に出るなら私も一緒に出たいもん!! なぁんで他の女と出るのよぉおおお!!」

「ぐほっ」


 死ぬ。


「こらこらナナリーの肩から手を離してあげて」


 ベンジャミンが分身して見えるほどまでに揺らされていれば、キャンベルが私の肩を掴んでいる手をおさえて揺れを止めてくれた。

 ありがとう助かった。

 目がグルグルと回り吐きそうである。

 恋する、いや愛する男の所業を聞かされた彼女の心の傷に比べたらへでもないが、つい話してしまった私も悪いのでおあいこだ。

 友人三人からたしなめられたのちベンジャミンは落ち着きを取り戻すも、悶々とした気持ちはやはり消えないのか眉間にしわを寄せながらだんまりになってしまっていた。


「私が話したばっかりに」


 神様王様お母様。私はなんて浅はかな女だったのでしょう。

 今の惨状を作り出した張本人、つまりベンジャミンにサタナースのことをチクった私は、友人達に向かってごめんと頭を垂れた。

 深く深く反省をしている。人の色恋沙汰に軽々しく口を突っ込むものではないと重々と身をもって知った。


「いいのよあれで。じゃなきゃ私達いつまでたってもサタナースのせいで振り回されっぱなしよ。ほらベンジャミンもメソメソしない! これはもう直接話せってことなの!」


 ニケはそうは思わないのか、むしろこれで良かったのだと場を納める。艶やかなブロンドの髪を一つ纏めている仕草を見て、こんな時だがこの友人のこういうサッパリした所が私達友人間の良い円滑剤になっているのかもしれないとしみじみとありがたみを感じる。


「ああもう私行ってくる!」

「え?」


 一方、気配りのない余計なことを友人から聞かされたベンジャミンはというと、前を見据えて勢いよく寝台から立ち上がり。両手に拳を作ると荒々しく息を吸いはじめた。

 どこへ行くつもりだと聞き返した私に彼女はもちろんナル君のところに決まってるじゃないと鼻息を荒くして興奮ぎみに答える。

 ニケが直接話せと言ってからわずか十秒。

 深夜の今行くつもりなのか、少し冷静になれとニケに言われるものの、ベンジャミンはブンブンと首を横に振った。

 おいおいまてまて私が悪かったさっきの話はあくまで人づてだから思い直してくれと、思い立ったら吉日という勢いの彼女を私達は様々な理由を駆使して留まらせようとするも、一向に首を縦に振らない。

 とても強情な友人だ。そのとても強情な友人をさらに強情にした私にはもう手も足も出ない。

 桃色の枕をぎゅっと腕の中で抱き締める。

 

「ナル君が何を考えているのか知らないけど、仮にも仕事仲間、ううん、仕事の相棒である私に、仕事へ一緒に行けない『理由』を聞かなくっちゃ」

「でも今じゃなくても」

「ナナリーなら分かってくれるでしょう? これは仕事上の問題なのよ、仕事仲間に無断で仕事を休まれているのと同じだわ!」


 その例えがはたして的をえているのかということは別にして、ベンジャミンにとってはそういう捉え方になっているのだろう。一人でやる分には通常より報酬が減ることなく丸々貰えて良さそうなものの、彼女にとってその辺はどうでもよいのだと伺える。


「それに私、やらないで後悔するより、やって後悔したほうが良い派なんだから!」


 ベンジャミンは急いで身仕度を整えると、意気揚々と部屋の窓を開けてそこへその綺麗なおみ足を掛けた。

 何をするつもりだと私が心配して駆け寄ると、くるりと首だけを後ろに向けてこちらを見る。


「話してくれてありがとナナリー、じゃあね!」


 口をポカーンと開けている私たちに向かい歯を見せながら笑うと、ベンジャミンは使い魔を召喚して夜空へと羽ばたいて行った。


「粋ね」


 キャンベルが呟いた。


 そしてそれから数時間後、ナル君に白状させて無事に仲間に加わりました、と飛んで帰ってきたのだった。

次話明日更新。

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