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受付嬢二年目編・8

本日二話更新


 会議の内容を書きとめた大量の用紙を持って、ゾゾさんと資料室に入る。

 部屋の中にはちらほらとまばらに人がいた。仕事で使っている人もいれば、読書感覚で気軽に使っている人もいる。

 私もここはもっぱら趣味暇つぶし勉強で使っており、受付、寮の部屋に次いで長くいる場所だった。

 勘違いしないでほしいが、別に私は暇人ではない。


「あっち座りましょ」

「はい……あ」


 扉の前でいったん止まり手に持つ用紙を持ち直していると、資料室の本がフワフワと飛んで、ゆっくりと本棚へ戻っていくのが見えた。


 チーナと資料室の整理をして以来、ありがたいことに苦情もなく、貸出帳や重石など皆不自由なく使ってくれているようでホッとする。「なんか、おもしろいね」と本が戻っていく過程を笑って楽しんでくれた先輩もいたので、まぁまぁ成功だと思いたい。前向きな思い込みは大事である。


 私とゾゾさんは二人で額に汗をかきながら、二人ほどで使える比較的小さめな机にその大量の用紙を置いた。

 資料室の窓からのぞく空には、夕暮れの赤が見える。

 魔法で運びたかったと肩を揉むゾゾさんは、机にしまってあった椅子を引き出して、ドスンとそこに座った。


「今日お休みだったのに~。会議って嫌いだわ」

「ご飯どうします?」

「あー。ナナリーに料理でも教わろうかしら」


 両腕をあげて伸びをしながら欠伸をするゾゾさん。艶やかな黒髪がくしゃりと肩の上で揺れている。


「また料理で良いんですか?」

「うーんでも、ん~。やっぱり考えとく」


 最近、ゾゾさんにはある変化が訪れていた。

 前までは頑なに手料理などしてはいられないと外食一択だったのに、何故だか急に料理を作る姿勢を見せだしたのである。かと言って外食をやめたというわけではないのだが、その心境の変化を聞こうにも毎度『私も大人になったのよ』と言って理由は教えてくれなかった。


 料理に自信がある程私も上手くはないのだが、人からのお願いをきっぱり断れる性格でもない。頼られるのは嬉しいし、はっきり言って頼られるのは好きだ。だからといって押しに弱いわけではないが。

 野菜を切る、焼く、煮る、など基本なら母に叩き込まれていたので大丈夫なのだけれども、教えると言ってもその基本ぐらいでたいしたことはない。

 しかしそれでもいいから教えてと言われたので、この前も寮の部屋で二人料理を作って食べたばかりである。今日教えるとなれば、今回で三回目の料理勉強会だ。


 一度、私に教わるよりハーレのお食事処で働いている人や、お料理教室とかに通ったりしてみたら良いのではと勧めたことがあるけれど、それは嫌だと言われたことがある。

 なんでも、そこまで本気を出して作りたいということではないのらしい。気軽に、ちょっとは出来るくらいの腕になりたいのだと、包丁を片手に語っていた。

 とりあえず危なっかしかった。


 ますます理由が分からなくなった私だったが、ゾゾさんのため今日も包丁をよく磨いておこうと心に決めることにする。


「ウォールヘルヌスって空離れの季節一月目だっけ?」

「そうですね。所長の資料に書いてあったと思います」


 机に置いた資料へ目を向ける。

 今日はお休みだったので制服ではなく、いつもの一枚着。袖の広がっている部分を腕まくりして、一枚の用紙を束の中から取り出した。枚数が多すぎて必要のない紙まで引っ付いてくる。ええい、ままよ。


 紙には来年のウォールヘルヌスの日程、競技資格条件、賞金についての詳細が書かれている。

 机を挟み、二人でその資料に目を通す。


「五年前は、まだナナリーは学生よね」

「ゾゾさんはちょうど卒業したくらいですかね」

「七日間やってるから、お休みの日にヴェスタヌ王国まで行って入場料金払って見に行ったのよ~。ちょおっと高めの料金だったけど」

「でもそれが賞金の一部になるんですよね。良い商売です」

「現実的だわ。はたしてこれで新人が来てくれるかが問題よねぇ。来てくれたら嬉しいけど」

「書類仕事ばかりだと思われてるんですかね」

「受付の後ろで堂々と書類仕事をしてる姿見てたら無理ないわ」


 アルケスさん達が黙々と書類をさばいている姿を思い浮かべた。

 確かに、と思わざるをえなかった。

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