受付嬢二年目編・7
「ウォールへルヌスに出るわ」
「はい?」
椅子から立ち上がりそう宣言した所長に、ハーレの職員達が瞼を瞬かせる。
月に一度行われるハーレの近況会議。
最近はどんな依頼が多いだとか、破魔士の人数がどのくらい増えたか、また引退した人数は何人だとか、建物内で治したほうが良い所、食事を提供している場所から新しい料理の提案など、様々なことを話し合っている。
此処は資料室の隣の部屋だ。
この部屋は本来そんなに広さはなく、私の部屋より幾分か小さいのだが、空間拡張魔法を使い室内を広くして、今はそこを使っていた。
大きな丸い机を囲んで座るのは、所長、アルケスさん、ハリス姉さん、夜勤ですれ違うことの多い先輩や食事処の人など、二十人くらいのハーレの職員。
「ウォールへルヌスにですか?」
「踏み切ったわね」
ゾゾさんが横でコソコソと私に耳打ちをしてくる。
ウォールへルヌスとは、火、水、地、雷、風、氷の力を持った魔法使い六人が一組となって、他の出場組と魔法で戦うという、いわば五年生のときにやった技術対戦の大人版みたいなものである。
「名を挙げようと?」
「そうよ。あの大会で優勝すれば有名になること間違いなし。新人もガッポガッポよ」
「安直な」
以前新人を増やすにはどうしたら良いのかと所長に意見を集めるみたいなことを言われていたが、まさかそんな所に落ち着くことになるとは全く想像していなかった。
ウォールヘルヌス。
五年に一度、大陸に属する国が順番で開催国となる大きな競技祭。
優勝組には賞金があり、開催国外からも参加者が集まってくる。お金は参加国に加盟していない国以外はドーランのお金だけになり、加盟している国の人が優勝をすれば、ドーランの金額に値するその国の金額で賞金が支払われる。
舞台は地上だとそれに相当する場所の確保が出来ないため、空中に作ることと毎度なっているらしい。王の島の隣に作るのが決まりで、中には地上に城がある国もあるらしいが、基本はみんな空に会場を作っていると以前破魔士のおじさんから聞いた。
作る人は国中から集めた、建築に重要な知恵と魔法を学んでいる建築士と、第三騎士団を筆頭に作っていくらしい。
大陸中の魔法使いが集まるその場所は、前に行われた時すでに決められていて、五年後となる来年はドーランの番となっていた。
「これはほぼ決定だと思ってちょうだいね」
しかしそんな事はせずとも、今のままでも十分有名な場所である。
ただ何が問題かと言うと、そこで働こうと思わせる何かが足りていないということだ。ハーレの魅力的な内容を世間に晒さなければ、誰も関心を持ってくれない。
私のように、ハーレのお姉さんに憧れて目指すなんていうのは、ごくまれであるのだと所長は言っていた。
ちなみに憧れのお姉さんが所長だったという事実は未だ本人には言えていない。
「これから一、二年先このままやっていけたとしても、いつか限界はくるわ」
「ですがロクティス所長。何もそこまでやる必要はないのでは」
「色々なものを先送りにしてきた結果、今の状態になっているのよ。ここで早めに手を打っておかなければ、来年は0人。引退する人間も出てくるだろうし、減る一方じゃない。そんなのは絶対駄目」
「七日間に渡って行われる大きな競技ですよ。そんなに長い間、そこへ人員を割けと申されますか」
「異議があるのなら、他の案を出して頂戴。その時期はハーレも毎年暇になっているでしょう?」
ロクティス所長へ返す言葉がなくなったのか、このハーレで一番の年長者であるモルロ爺さんが、年甲斐もなく頬を膨らませて彼女を見た。
今のところそれに代わる案を出す人もいなく、所長の案の内容をよく考えて良いのか悪いのかを皆考えているようだった。
「出場してもらう人間は、後日、また決めるから」
その所長の言葉で、会議は終わった。