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受付嬢二年目・海の国編


 待ちに待った旅行当日。

 早朝に国境の入口で待ち合わせていた私達は、約束の時間をだいぶ過ぎてからの出発となった。


「おっそい!」

「しょーがねーじゃん、整髪剤切れてたんだよ」

「言っておくけど誰も気にしてないからその頭」


 私とニケは頭クルクルパー男に軽蔑した視線を送る。


 旅行に参加するのは私と友人三人。

 その友人三人の内の一人は、急遽この旅行に行くこととなったサタナースであった。

 時間がかかったわりに髪の毛の癖の具合いはいつもと変わりはない。


 私達はそれぞれ自分の外套を羽織り、旅立つ準備をしていた。ベンジャミンは茶色い外套を、サタナースは黒い外套を、ニケは水色の外套を、私は昔から使っている白い外套を着用している。


「罰として何かあったらナナリーやベンジャミンの盾になりなさいよ盾に」


 ニケが親指を立てて下に向けた。


「ベンジャミンの親に頼まれたからな、いざとなったらこいつだけ助ける」

「格好いいんだか最低なんだか分かんないんだけど」


 ベンジャミンの両親は娘のことが心配だったのか、仕事の相棒でもありベンジャミンの想い人でもあるサタナースに旅行の付き添いを頼んだ。

 そうじゃないとベンジャミンが旅行に行けないと言うならばと、もちろんそれは私達の了承を取っている。

 しかし普通女三人の旅行に付いていくなんて嫌だろうに、そこはやはりこの男、ひとつ返事で了解したらしい。

 断りにくいのもあっただろうがサタナースいわく、


「だってお前ら女じゃね――ブフッ」

「あんたのことは今日からナルちゃんって呼ばせてもらうから」


 ニケの素早い拳が頬にめり込んだ彼の顔は、とてもじゃないが見れたものではない。どうもサタナースは私とニケを女じゃないと認識しているらしい。私は構わないがニケは女としての体裁が許さないのか、顔がパンパンに腫れたサタナースにこれから出発だというのに小一時間男と女の違いについて生物学的なところから説明をしていた。ただひと言友達だからと言えば、さらに言えばベンジャミンが心配だからだとか言えば良いものを。事態を悪化させる天才である。


「ねぇねぇ今ナルくん私を助けるって言った? 言ったわよねナナリー!」

「うん言ってた」


 ちなみにベンジャミンはサタナースが殴られたというのに嬉しそうにそれを見ていた。

 たぶんさっき自分を守ってくれると言ったサタナースの言葉が頭の中で酷く反芻しているのか、今は何が起きようがサタナースがぶっ飛ばされようが世界が滅びようが、ふわふわしてボーッとして甘い世界に浸っているのだろう。

 まったく無駄に罪作りな男である。


「んで? 国境の門通ったらどっちに行くんだ?」

「まずシーラに入って旅輪を貰って、それからヤード、ハニア、ダルドリ王国の順番に行く」


 旅行誌に載っている地図をほらと見せる。


「……遠回りじゃね?」


 うるさいクルクルパー。

 文句があるなら貴様は歩いていけ。


「他国から来た魔法使いが使い魔で空を飛んでもいい国が、道順近いところでその三つなんだから仕方ないじゃん」

「めんどくせー」

「相乗り馬車で行きたいなら一人でどうぞナルちゃん」


 文句をたれる男はさておき、国境の森の門番に町の役場でもらった青い小さな国民証を見せて、行き先の国の名前を記入する。そこまでに通る国の名前は書かなくてもいいので、セレイナ王国の名前だけ書いて門番に手渡した。私達は初めて王国から出るということで、いくつかの諸注意を受ける。

 そして荷物の確認をされたあとは、鉄でできたその隣にある木よりも遥かに高い重厚な門がゴゴゴと開かれ「どうぞ」と門番の人に手で促された。











「ねぇー! 今どこらへーん?」

「えーっと、ちょっと待ってねー! ララこれ咥えてもらってていい?」


 現在ダルドリ王国の上空。

 空高くから見る王国は古きオモチャ職人が長年かけて手掛けた模型のように小さく細々と家々が建っているのが見えた。ドーランの模型はこの前文化館で見たのでよけいそれっぽく見えてくる。

 王国の上に浮かんでいる王の島も国ごとに特徴があり、縦長だったり四角だったり丸かったり見ごたえがあった。お城の造形も色も違い(当然だが)ドーランの城は白亜だけれどシーラは青だったり、このダルドリ王国の城は黄色だったりで、目的地の王国の城の色はどんな色をしているのだろうと思いを馳せて地図を見た。


「ニケー赤くて丸い門見えないー?」

「見えないわー!」

「ベンジャミンのほうはー?」

「見えなーい!」


 旅行誌にはキードルマニ大陸の地図が載っていて、全体図や国ごとの地図が見られるようになっていた。しかもコープスという方位を指してくれる文字盤付きでとても便利。お値段は高かったが背に腹は代えられないので一生に一度の買い物をするつもりで本屋のお姉さんにお金を渡した。渡すときに手がめちゃくちゃ震えたとベンジャミンに話したら家でも買ったのかと馬鹿にされたが。

 当然のことだが、私が張り切って個人的に買ってしまったので割り勘ではない。けれど何がベンジャミンのツボに入ったのか知らないが、その話をしたあと腹を抱えるくらいの大笑いをされたと思えば飲み物と果実のお菓子を貰った。超楽しいわ、とまだ旅行にも行っていないのに行ったような笑い顔を見せられて、ベンジャミンも旅行前は寝られない質なのかもしれないと感じた三日前。


「王の島過ぎたから、もう少しのはずなんだけど」


 セレイナ王国へと続く国境の門を目指して半日、日が暮れ出すような淡い赤が空に見え始めた頃、隣を飛んでいたベンジャミンが「あ!」と声を上げた。彼女の使い魔であるフェニクスのベニータもピュルルルと鳴く。


「あれよ、ほらほら見てー!」


 空をけっこうな速さで飛んでいるので大声で話さないと相手に聞こえないのだけれど、その彼女のはしゃぎようと指をさす方向を見て、私達の目も一気にキラキラと輝いた。


「海? 海だ!」


 誰よりも早くそれを口にしたサタナースを横目に、はやる気持ちをおさえてこの付近にあるはずの門を探す。目を凝らして赤い丸い屋根を探していると、今度は確実にそれらしきものを発見した。


「降りるよー!」


 皆に声をかけて、一斉に急降下した。

本日2話更新。

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