*創造物語集・第一章『六つの精霊と罪(デラキュソス)』
*飛ばして読んで頂いても差し支えありません。
むかしむかし。
そのむかし。
まだ人の形も、魔物の形もなかった頃。
六つの精霊が、仲良くこの地上で暮らしていました。
「この原っぱで遊ぼう!」
元気いっぱいな火の精霊が、広い草原で駆け。
「そんなに走ったら、君の身体が熱くなって草が焦げるよ!」
水の精霊がそのあとを追い。
「あ~! 私の草を燃やさないで~」
地の精霊が泣き。
「泣くな地。燃やされたら僕がやり返してやろう」
雷の精霊が慰め。
「火なんか追い越してあげるわ」
風の精霊は思いのままに飛び。
「みんな元気いっぱいだなぁ」
氷の精霊は、静かにみんなを見守っていました。
六つは喧嘩もしますが、すぐに仲直りもします。
だからいつもいつも笑顔で溢れていました。
けれど地上に六つだけの存在。
みんなで遊ぶのも楽しいですが、それ以上に仲間が欲しくなりました。
「僕達以外に、何かいないのかな?」
そんなある日、水の精霊がみんなに言いました。
いつも集まっている木の木陰で、みんなでお昼寝をしているときのことでした。
「何かって?」
火の精霊が首を傾げます。
「火とか地とか、私達以外の精霊ってこと?」
水の言うことを理解できていなかった火に、風がそう説明をしました。
「僕達だけでもいいけど、仲間がいれば、もっと楽しいんじゃないかな!」
ちゃぷちゃぷの透明の手を広げて、もっともっと楽しいことをしたい、と水の精霊ははしゃいで言います。
みんなは考えました。
どうやったら仲間が増えるのだろうと。
すると雷がパチパチと光る眩しい手を上げました。
「そういえば、俺達は、どうやって生まれたんだ?」
雷の言葉に、みんなはう~んと考えました。
「そうだ! 私達は、神様が生んでくれたんだよ」
「でも見えないよ?」
「神様は見えないんだよ!」
地の精霊は、空に向かって両手をあげました。
「ねぇねぇ僕達には力があるから、合わせてみようよ。新しい仲間がつくれるかもしれないよ?」
「いいね、それ!」
「楽しそう!」
「ま、待って」
水の言うことに賛成する雷、火、地、風に対し、氷が声をあげました。
「私は、みんなとずっと一緒が良い」
「増やさなくたって、大好きなみんなといれれば、毎日楽しいもの」
いつもはみんなを温かいまなざしで見守っていた氷が、泣きそうな顔でそう言いました。
いつもと違う氷の様子に、他の五つの精霊は戸惑いました。
「で、でも氷。もっといれば、もっと楽しいんだよ?」
「水は、今がつまらないの?」
「そうじゃないけど……」
次の日のあさ。
氷はいつもと違う雰囲気にカチカチの身体が震えました。
何故なら、あさのはずなのに、太陽が見えないのです。
月も太陽もそらにはなく、ただ赤い雲が空をおおっていました。さらに遠くには渦を巻いた赤黒い雲が見えます。
氷はみんなを探しました。
けれどいつもの木陰へ行っても、草原へ行っても、みんなはどこにもいませんでした。
そしてほうぼう探し回り、ひときわ赤黒い雲の下へと行くと、そこには氷が初めて見る者がいました。
黒くて大きくて、ぐちゃぐちゃしていて、手が何本もあって、でも足は一つだけ。
「氷! 助けて!」
みんなは氷の精霊に内緒で、仲間を作ってしまいました。五つは反対する氷をびっくりさせたくて、好奇心のままに仲間を生み出したのです。
そしてそれは見事氷をびっくりさせ、新しい存在を作ることには成功しましたが、けれどその新しい仲間は、みんなを食べようとしています。
黒くて、大きくて、歩くたびに草が枯れて、聞いたこともないような声でゴーゴーと鳴いている、新しい仲間。
「食べられちゃう!」
「嫌だ!」
……いいえ、これは仲間などではありませんでした。
その黒い精霊は、火の精霊の炎をものともしません。
水の精霊の水をも弾き、地の精霊の蔓も腐らせてしまいます。
雷の精霊の電撃はまったく歯が立たず、風の竜巻も逆に吹き飛ばされてしまいました。
なんと五つの精霊が作ってしまった黒い精霊は、五つの力を持ってしまったのです。
(創造物語集第一章・一部抜粋)