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ハーレ就業編・8-3


 美しき偉大なる水の魔女でありオルキニス王国の女王、ヴランティナ・ダル・べナ・オルキニスは、シーラ、ヴェスタヌ、ドーラン三ヵ国の策略により、国民にその経緯が知られることなく崩御した。

 表向きは病死として発表され、残された王が国の上に立つこととなる。


「殺し……ですか?」

「ええ、そうよ」


 ヴランティナ女王は国中から氷の魔女を集めては(詳しいことは濁されたけれど)その魔女達を自分の手中に入れて皆殺しにしていたのだという。女王は氷の魔女の何かを集めていたみたいだけれど、そのかも所長に濁されたので詳しくは分からなかった。

 前に騎士の人が『竜の血や人魚の生き血を集めて若さを保とうとしている』という噂があるのだと聞かせてくれたことはあるが、もしかして魔女の生き血を集めていたり?……なんて物騒なことを考えてしまう。

 ええい野蛮だ。自分の思考が野蛮だ。考えるのはよそう。



 女王の命令と魔法に逆らえなかった城の人達は、国にはもういない氷の乙女を探しに国外に出て、他の国から氷の乙女を拐い女王に捧げていたのだと所長は言った。

 少ないとされていた氷の魔女の人口は更に少なくなったに違いない。


「女王自身魔力が高い方だったのと、身近に忠実でとても厄介な側近がいたせいね」


  またその中には変身魔法に長けた者が何人かいて、ドーランの城にも入り込んでいたらしく、城の中ではもはや誰が化けているのかと手探り状態だったらしい。しかもただ外見を変える魔法ではなく、記憶、仕草、魔法型まで完全に偽装できる魔法使いだったことから、見つけるのは容易ではなかったそうだ。まことさえずりという魔法をかけても、それを魔法でねじ曲げるほどの強さを持つ魔法使い。

 しかも相手方には、


「貴女が氷型だと、もうとっくにバレていたらしくて」


 どんなに急いで口封じをしたところで、漏れるものは漏れる。特に私みたいな人間は特徴がありすぎるとかで、騎士団の人達はかなり手をかけてくれていたらしい。それも私は何度か襲われかけていたことがあったそうで、その度に騎士団が私に気づかれないように、相手に気づかれないようにと慎重に守ってくれていたのだそうだ。

 なんてことだ。言われるまで見事に気づかなかった。さすが騎士団だと思うのと同時に、もし気づいていたら色々協力ができたかも知れないのにと余計なお世話かつ危ない方向に考えがいく。やめよう、やっぱり野蛮だ。


 しかし……氷の乙女となると、あいつ乙女なんだと恥ずかしいことを敵方に知られていたということになるが、それと同時に騎士団の大半がそれを知っていることについては目を瞑って意識はしないようにしようと思う。


「でも敵方にも気づかれなくて本当に良かったわ」


 気づかれないようにしていたのは私が知ってしまえば余計に危ない事態に陥ってしまうためと、相手の正体を探るためという二つの理由があったかららしい。それならやっぱり私は気づかないほうが良かったんだと安堵する。

 オルキニスに入れていた間者との連絡も途絶え、オルキニス王国にかけられた強力な防御の膜を解くにも、あちらの国民に害を与えることは良しとしなかったために、ドーランは相手の間者を逃げられないうちに引っ掻けるか捕まえる必要があったのだ。

 

 そして昨晩、途中で私を倒れさせたのも騎士団の人間なのだという。なんでも意識を落とさないと私が魔法にかけられる恐れがあったらしく、やむを得なかったらしい。

 そんな状態だったとは露知らず過ごしていた私だが、どういうわけかその間者に接触できたのがその夜のことらしく、間者と共にオルキニスの中へ入り込むことができ、そして入り込んだ騎士の人が中から防御の膜を破って外部からの侵入を可能にしたのだという。

 そしてシーラ、ヴェスタヌ、ドーランの部隊がそれぞれ動きだし、城の内部での戦闘へと至った。

 

「オルキニスは大丈夫なんでしょうか」

「そうね。でも王太子殿下が思いの外、王よりしっかりしていたそうだから」


 女王はギリギリまで足掻いていたらしいが、最後は息子である王子によって手をかけられたのだという。


「殺されてしまった魔女達の身内には?」

「残念だけど、事実を伝えることは出来ないの。一生ね」

「……」


 なんだか……世界の裏側を覗いちゃったみたいな、いけない話を聞いちゃったような、後ろめたい気持ちになる。

 それに遺族にも話せない大事な話を、いち国民である私が知ってしまっても良いのだろうか。所長は騎士団長に頼まれて私の身の回りを守ってくれていたそうなので、詳しい話を知っているのは当然だとは思うのだけれど、どうしようかと一人勝手にソワソワしてしまう。


「そろそろ返してあげましょうか」

「何をです?」


 所長が何かの呪文を呟き私の首もとに手をやると、パチッと銀の首飾りが取れた。

 あんなに力を込めても外れなかったのに、どうやって外れたんだと首飾りを凝視する。


「その、貴女を眠らせた騎士がね、これに自分の半身の力を込めていたそうよ。これから実行する作戦によって、もし貴女に害が及びそうになったら守ってくれるようにって。その人酷い怪我を負ったらしいから、力を返してあげなきゃね」

「だ、大丈夫なんですか!? 私、その、知らなくて今からでも」

「行ってもどうにもならないわ。もう王の島に帰還しているようだけど、行くのはこの首飾りだけよ」

「そんな……」


 この首飾りではなくても、最初から私に何かしら理由をつけて魔具をつけさせようとしていたらしい。たまたまあのとき首飾りが目に入ったからそれに魔法をかけたらしいが、いくら守るためとはいえ、自分の力を削るような魔法でなくとも、と私は拳を握る。

 足臭の呪いをかけようと息巻いていた自分を殴り付けたい。

 足臭になるのはお前だナナリー。ついでに水虫にもなってしまえ。


「作戦ってなんですか」

「それは……まぁいいでしょう」


 暫し悩んだ素振りを見せたあと、所長はまた窓の外を見る。


「貴女とすりかわって、騎士団の人間が囮になったのよ。ある意味、餌ね」

「すりかわる?」

「昨日の夜、貴女は倒れた……のよね? そのあと、貴女の着ていたドレスを剥いで、貴女に変身した騎士の人間がそれを着て囮になったらしいわ。変身魔法が得意みたいでね、そちらはバレなかったみたいよ。まぁそれが功をなしたってわけね」


 囮の人が作戦通りに拐われて、城に入り込めた。

 偶然か必然か、私があの晩あの城に行かなかったらなし得なかったその作戦は、話を聞く限り見事成功したというように聞こえる。

 けれど酷い怪我を負ったということは、オルキニスの城での戦闘の中、私に力を預けていたせいでうまく戦えなかったのか、もしくはオルキニスで酷い扱いを受けたか、どちらかだ。


 どちらにせよ、私が、私のせいでその人が重傷を負ったことには変わりない。


「ちょ、こらナナリー」

「私も連れて行ってくださいっ、重傷なら、重傷なら早く行かなきゃです」


 所長の傍に駆け寄って抱きつく。絶対に離さないし、足蹴にされても離さない。

 こんなことをしているうちにもその騎士の人は苦しんでいて、もしかしたら死んでしまうなんてこともあるかもしれない。

 離さないとばかりに必死にしがみつく私の頭に、所長はポンと手を置く。


「ん~、よし!」

「所長?」

「一緒に行きましょ。グロウヴには連れて来るなって言われてたけど、約束って破るためにあるんだもの。あいつに関してはね」


 それに明日から気持ちを切り替えて仕事に挑んでほしいし、と言われた。


「破ったほうが良い約束も、世の中にはあるもの」


 どこか悲しげにそう言った所長の心中は分からないまま、私は彼女と共に王の島へ向かうことになったのだった。

次話明日21時更新。

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