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王流論議会と騎士の円卓会議


「最終会議を始める」


 ヴェスタヌ王国、バーツェン城の一室。

 広い床には煌めく銀狼の毛皮の絨毯が敷かれ、硝子細工で作られた照明は緋色の光を放っている。上質な色石(しきいし)を組み込み魔法で練られて完成させられた巨大な薄青色のテーブルを囲っているのは、二十席もの銀の玉座。

 その一つ一つの椅子の装飾は違っており、雄々しい獅子の姿が彫られた背凭れの玉座もあれば、今にも芳しい花の香りが立ちこめてきそうな、鮮やかな装飾が施されている玉座もある。


 個性溢れる二十の玉座は、この部屋へと入ってきた、同じく二十人の王達の腰の下に構えられた。

 そのうちの一人、目尻のシワをより一層深くし黒ひげをたくわえたヴェスタヌ王国の国王が、獅子の玉座に腰をかける。


「今大会について、主催国であるドーラン王はどうお考えか」


 両手の指を顎の下で組ませて口を開いた、今回の王流論議会(バッチェス)の開催国であるヴェスタヌ王国の王、マリーファ王は、鮮やかな花の装飾が施されている玉座に腰を下ろしている、ドーランの王、ゼロライト王へと意見を促した。


「考える間もない。明後日にはその日が来るのだ」

 

 ゼロライトはこの重苦しい部屋の空気を持ち上げるように、己を奮い立たせるような、比較的大きな声で言い放つ。しかし玉座の手すりを親指で撫でながら城にいる妃や子供である王子達の顔を思い浮かべては、はやく国へ帰りたいものだと溜め息を吐きそうになった。

 自国が花の王国と呼ばれているとは言え、この女性的な装飾もどうにかならないものかと、この玉座を手ずから用意してくれたのであろうマリーファを恨めしげに見る。


 友好のためにと称して隣接する国の王だけでの話し合いの場、王流論議会(バッチェス)

 招集はひと月に一度、ふた月に一度のこともあれど、ここ半年ほどは月に二度行われるなどして、頻繁にこの議会は開かれている。


 今回の開催国はヴェスタヌ王国であるが、その半月前は大陸北西部にあるハルルク公国にて開催されている。

 ハルルク公国はドーラン王国ヴェスタヌ王国ともに距離は遠く、間には六つもの国を跨ぐ。ドーランやヴェスタヌとは近隣諸国でもなければ、交流も比較的薄い国。


 つまり、以前までは隣接する国の王だけで行われていたこの王流論議会だが、いまやなんとそれは、大陸中の王を招集しての大規模な話し合いの場となっていた。

 ここまで大きくなるとは当初予想もしていなかった、いや、予想はできていたが、実際にそうなるとなればやはりどうにも溜め息を吐かずにはいられないとゼロライトは頭を悩ませる。

 王国内に増えた魔物。

 大会開催を中止にしたくとも、できないそれぞれの思惑。

 新たな場所で出現した正体不明の魔物。

 他にも問題は山積みにあるが、それをどう裁きどう決断をしていくかが、王としての責務である。


 二日後にはウォールヘルヌスだ。

 そして王達が懸念しているのは、まさにその大会のことであった。


 正体不明の魔物が今まで現れているのは、きまって王も含めた貴族達が集まる場であり、今大会ではその王や貴族達が来賓として会場にも来る。歴代の開催国でもそれは同じであるが、大陸中の王族が一ヶ所に集まるのだ。

 ついに国民の前にも魔物が現れてしまうという危険な事態は、今からでも十分に予測できる。


「逆に捉えてはどうでしょうか。襲撃があれば、その場には数多の魔法使いがいる。戦力には申し分ない」

 

 大蛇(オピス)が描かれた銀の玉座に腰をかけた、オルキニスの若き王が意見を述べる。その声はこの一室にいる誰よりも年齢のいかない青年らしく高く、けれど堂々としていた。

 オルキニス王の言葉に、過去の騒動の一端を知り得ているゼロライトやマリーファ、シーラの国王は、対等な王の立場として、しっかりと声をあげて述べたオルキニス王を真剣な眼差しで見つめた。


 今回の話し合いはオルキニスも深く関わっていた内容なだけに慎重にいかなければならない。

 そもそも大陸中の王が集まるような事態になってしまったのは、各国で見られるようになってしまった正体不明の魔物が原因である。

 内陸部だけならまだしも、大陸の端であるハルルク公国まで現れ始めたという知らせがあっては、各地方で集まるよりは大陸が一体になったほうがよりよい。その魔物による被害は実際のところ無いにも等しく、やはりどの国でも脅し程度の奇襲を仕掛けているとのことだったが、大陸全体で年々魔物が増えてきているのも事実であり、油断をしてはいられない。


 そうしてドーランを発端に各地方に使者を出し、こうして集まったのがこの二十人の王なのであった。

 

「変に大会を中止しては、みなの不安を煽るだけだろう」


「危険があるなかで戦うのであれば、知らせねばならないと思いますがね。隠し立てすれば、のちに大ごと、また大勢の国民を失うことになりかねる。信頼という意味でね」


「それに大陸の外に新たな大陸が見つかったとの情報があがっている。そのうえその大陸には生き物の大半が魔物であり、生息数が予想を越えるほどいるということも、いずれは大陸全体に認識を広めなければならないのでは」


「一気に情報を拡散しては収集がつかないぞ」



――――ごほん。



 会話を繰り広げていた王達は、咳払いをした男に視線を集めた。


「わたしが当日の式典で知らせる」


 ゼロライトは二度目の咳払いをしたのち、一日目の式典で今の情勢について語ることを決めていると話す。


「魔物の増加、それに伴う危険性、その中で大会を開催する意義、全ての国が団結する意味でも必要な大会だということを」


 



 





「ヴェスタヌの騎士が到着しました」

「ゼノン殿下、グロウブ殿、遅くなってすまない」

 

 ゼノンとグロウブは、島の着地場でフェニクスの背にまたがる男を見上げた。


 ヴェスタヌ王国の騎士であるサレンジャ・ボリズリーが、使い魔である青いフェニクスの背中から降りて地に足をつける。

 黄土色の髪に端整な顔立ち、緑の騎士服に包まれた長い足を惜しむことなくさらして、足取り軽やかに隊舎への道を歩く。

 何度もここを訪れたことがあるせいか、歩きに迷いはない。

 並びはゼノンを先頭に、右肩後ろにボリズリーがいる形だった。ゼノンは横にいるグロウブに話しかける彼を見ながら、真剣な表情になる。

 しかしその眼差しの奥に映っているのは、王の島の横に出来た巨大な競技場だった。



 王流論議会の翌日。

 各国の騎士達も一ヶ所に集まり、王が持ち帰った情報をもとに話し合いが行われていた。

 大会中にもしものことが起こった時のための交流であり、実質大陸を巻き込んだ作戦会議とも言える。

 もちろん場所は、開催国であるドーラン王国だった。


「よりによって何故氷なんだ」


 ドーラン王国騎士団隊舎。灰色の要塞のような宿舎の隣には、騎士が鍛練の場として使っている広大な練習場、隊長室、会議室兼講堂と全てがそろう隊舎があった。

 今その隊舎の講堂には、それぞれの国の騎士の長を担う人物達が集まっている。その数はざっと40ほど。緑の騎士服、青の騎士服、赤の騎士服、茶色の騎士服を見にまとった、精鋭な顔つきをした男達が揃っていた。こうして集まるのはふた月前に会議を(おこな)ってから二度目になるので、全員一度顔見知っているせいか滑らかに話しは進んでいく。


 大きなテーブルを囲んでの話し合いだが、そこに椅子は一つもない。

 大陸の地図を広げて話し合いの中心に立っているのはドーラン王国の騎士団長であるグロウブだった。そして大陸中の騎士が集まるということで少々警戒もしているのか、数人の大臣が後ろでことのなり行きを見守っていた。その中の一人にはキャロマインズ侯爵もいる。赤い髪は騎士達の服のせいか、普段より目立ってはいなかった。赤い髪もそれほどたくさんいるわけではないので、このような集まりではいつも自然と目につくものの、それだけ今回は国、所属、毛色も随分違う者達が集まっているのだろうとゼノンはグロウブの隣で腕を組み、飛び交う会話の音を一つ一つ拾っていた。


 海の向こう側まで続いていた魔力の痕跡は、もうなくなっている。

 そして新たに隣国にあの魔物が現れたのだと、王の会議バッチェスで話が上がったのだという。

 また情報によると、どうやらその魔物は氷の魔法使いの技に弱いということが分かったようだった。


 この合同作戦会議。

 議題にあげられたのは、勿論そのことについてだった。


「我々の国で確認されている氷型は、僅か七人です」

「まだ七人いるだけいい。モロンド王国はそれより遥かに少ないんだぞ」


 その数は他の型と比べるととても少ない。ましてや一年前に起きたオルキニスの件で、貴重な氷型の魔法使いが何人も死んでいる。更に数は減ったというのに、何故対抗する術を氷が持っているのか。

 話はオルキニス女王の事件についてまで進む。


「オルキニス現王、王太子であられたコーズクリン王によれば、収監されている元側近の証言に『足りない』という言葉があったと言います」

「足りない?」


 後ろにいた大臣が眉を顰めて声をあげる。


「血を集めていたならば、そのことでは?」


 ボリズリーは氷型の血のことではないのかと大臣に投げかけた。


「氷に弱いから、氷型の魔法使いを消すことに必死だったという可能性もある」

「対抗馬が氷だというのならば、大陸中の氷の魔法使いを集めて、協力をさせてはいかがだろうか」

「それは」


 黒い騎士服に身を包んだアルウェスが手を上げる。

 騒がしい講堂。その中で一際冷静に、けれど会議室中に響く声で会話を渡った。


「得策ではないかと」


 それからゆったりとした口調で、手元にある魔物が出現した場所を示してある地図を眺めて、大臣達に視線をやる。


「アルウェス?」


 朝から姿を見せていなかった彼がこの場にいたことに、ゼノンは驚く。

 確かアルウェスは城の魔術師長として、これから先被害が及んでは困る島の箇所を探しては魔法陣を敷き、また島の横に出来た競技場の耐性や欠陥を調べる為にと部下をあっちこっちへ引き連れ回していたはずだった。

 いつの間に来たのだろうか。


「欲している者達を一か所に集めれば、それこそあちら側の思うつぼです」

「しかしなぁ」


 しれっと向かいに立っている彼は、大臣の言葉に少々苛立っているようであった。

 伸びてきた髪をまとめることもせずに胸元へ流している金の髪は、メラメラと炎のように揺らめいているようにも見える。


 それもそうだろう。

 遠回しに氷の魔法使いを囮に使おうと言われているようなものなのだから。


 けれどそもそも、この大会自体が囮のようなものだ。

 ようはさっさと魔物をおびき寄せて一網打尽にしたいというのが、他国らの狙いである。

 ウォールヘルヌスの中止には半数以上の参加国の同意がなければ動けない。そしてゼノンの父であるゼロライトが他国に一度は同意を求めたものの、それに賛同してくれる国はヴェスタヌやシーラなどの近隣諸国のみだけだった。中止にしたくてもできない。

 そうでなければ名誉と賞金以外なんの取り柄もない大会を、王が強行して行うわけがないのだ。


 それにドーランを囮にしているということを他国も自覚しているのだろう。こんな作戦会議を立てさせ、わざわざ好意的に騎士を寄越してくるのだから。


「まぁまぁ、始祖級の力を持った魔法使いが二人もこの場に揃っていることは、非常に心強いことだがね」

「願わくば、その力を持つ氷型の魔法使いが現れてくれれば、もっと心強い」

「ウォールヘルヌスに期待をしましょう」


 完全に他人任せになっている大臣達を見て、アルウェスは呆れ顔も隠さずにこめかみに手をあてていた。

次話3月9日更新予定


「魔法世界の受付嬢になりたいです」第二巻

アリアンローズ様のサイトにて書影公開されて

います。

またコミカライズも決定いたしました。

詳細は後ほど活動報告にて載せさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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◎魔法世界の受付嬢になりたいです第3巻2020年1月11日発売 i432806
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