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受付嬢三年目編・2

 カラン、とまた魔導所の扉が開く。


「へぇールちゃあん、しーごと終わり暇~?」


 金髪の髪をなびかせて、顔を赤くしでろんでろんに酔っ払った男がカウンターに詰め寄ってきた。


「コルさん飲んできたんですか?」

「まぁくいっと、何杯か」

「酔ったままの仕事は危険なので、酔いが醒めたらまたいらしてください」

「そうじゃなくて~ヘルちゃん暇だったら遊んでよ~」


 ねー? と首を傾けて受付台越しに見つめられる。


 最近はやたらと誘われがちだが、色々とやりたいこともあるので応えている暇もない。魔導所内の装飾も新しく任されたばかりであるし、ウォールヘルヌスが終わったあとは、西のハーレへ応援に行くことにもなっている。今はそこまで多忙というわけではないし、そのような誘いがあるのも嬉しいことだけれども、今は集中したいことが山ほどあるので時間をとってなどいられない。とは言っても友達や同僚たちとあそんだり食事に行ったりするのは別なのだが。

 大会前に皆浮足立っている感じがするので、その延長でこうして異性に話しかけたりしてしまうのだろうと軽く流している。

  

 夜中に来る人は三つに分けられて、だいたいが依頼を完了させた破魔士、夜の職業についていて昼に起きられない人、酔っ払い、だ。破魔士と依頼人はともかく、酔っ払いはただここに話をしに来ているので、どこかの酒場でも行けばいいのにと毎度思うものの、夜中はそこまで人が来ないのも事実なので、結局皆相手をしているのらしい。どうしようもない。門前払いも出来るのにしないのはみんなの優しさのたまものである。


「まずは酔いを醒ましてきてください。さっき見回りしてきましたけど、帰り道は気を付けてくださいね、危ないですから」


 夜はいつあるかも分からない魔物の襲撃や賊避けの為、一時間に一度建物の周りの結界を張り直し、見回りもしている。以前南の方の魔導所が襲撃を受けたときに、一応対策ということで、どこの魔導所でもこの見回りは徹底されていた。


「掲示板の地図が古くなってきたから、新しくしといてって所長言ってたわね」

「今やります?」


 酔っ払いの人が「じゃあ俺おっぱいのデカいねーちゃんに癒されてくるもん!」とたいへん不躾な言葉を残して出て行った以降、誰も来る気配はなくシーンと静まり返っている魔導所内を見て言う。空き時間を有効に使うのも良い。

 そうと決めたら掲示板に貼ってある地図を剥がして、いつもアルケスさんや事務処理をしている職員が使っている机を借りて、地図用にと所長が買ってきてくれた大きな用紙を広げた。掲示板に貼っていた地図は三十年くらい使っていたと言っていたのでだいぶ古い。今度は向こう六十年くらい使っても損傷しないような高級紙を買ってきたのだ、と誇らしげに背中を仰け反らせて所長が言っていたのを思い出す。


「ナナリー、私生活のほうで何かいい事あった?」

「え?」


 紙に元の地図を転写させながら、ハリス姉さんが口を開く。


「最近すごく綺麗になったって、破魔士達も言ってるのよ」

「え……いや……そんなことないです。むしろなんでそう言われるのか分からないといいますか」


 この前ベンジャミンにも言われたが、どこがどう変わったのかまったく分からない。髪の毛は前髪しか切っていないので、後ろも横もだいぶ長くなっているが、そのぐらいだ。

 むしろハリス姉さんや他の職員の女性達のほうが美人だし。


「あの貴族のかっこいい隊長さんと何かあったり?」

「なんでそうなるんで」

「あー! ちょっと顔赤くなって」

「ません。……あっここ」

「どうしたの?」


 私は地図に記されている場所を指差した。


「母が今、調査に行っている所です」


 大陸全体の地図。そこには母が遺跡の調査で滞在中の国があった。


「遺跡……ってもしかして、火型の始祖の墓が新しく見つかったところ!?」

「そうです」

「えー!? お母様もほんと動くわねぇ! さすが親子!」


 私達魔法使いには、始祖、と呼ばれるこの世界において最初に誕生した六人の魔法使いがいるとされている。魔法の源を造った人達でもあるので、崇める意味で精霊と呼ぶこともある。

 とくに守護精の呪文というのは、その始祖の力を自分の身体から最大限に引き出す魔法だ。祖先の名前を使い盾にすることによって、一時的に魂がそちらに宿るため、失敗してはいけない超魔法や、万が一己の身に害が及びそうになっても身代わりになってくれる。


 それに守護精の呪文を使うと、なんでも、うっすらとだが祖先の姿が出てくるのらしい。以前使った時はまったく見る余裕もなかったが、そもそも出てきたのかもあやしいのだけれど、どうなのだろう。

 ベンジャミンは一度見たことがあるらしい。綺麗な女の人が二人いたのだと言っていた。


「今現在六つあるとされている墓のうち、火と氷だけ見つかっていなかったようで。やっと見つけられて母も大喜びだったそうです」

「考古学者だっけ?」


 新聞の記事にもなっていた。


「冒険好きなんです。そういえば遺跡調査に人手が足りないとかで、古代文字が読める破魔士をと依頼が入ってきてましたね」

「今は調査に出ているどころじゃない破魔士ばかりだから誰も受けたがらないわよ」

「そうで……ふぁ、……あっ、すみません」

「寝不足?」


 ハリス姉さんの言葉に、口に手を当てたまま固まる。

 きっちり睡眠はしているのだけれど、実は最近は寝ている気が全くしていない。

 それもこれも最近見る夢のせいである。

 『こっちへおいで』と何度も正体の分からない怪物だかも分からないやからに呼ばれ続け、こっちは寝たいんだ後にしろと聞こえないふりをしても朝起きるまでずっとその声が耳についている。

 ゾゾさんに相談したら夢占いの本を貸してくれたので、該当する夢の項目を開いて読んでみると、『誰かに呼ばれる夢は、あなたを必要としている人がいるか、あなたを邪魔しようとしている人がいるという知らせ』とあった。

 必要ならまだいいが、邪魔とはなんだ。怖いじゃないか。

 

「今日は帰ったらよく寝ます」


 そんなわけで近頃の私はたいへん寝不足なのであった。

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