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受付嬢三年目編

『こっちへおいで』


『こっちへおいで』


『たりない』

『たりない』


『みたしておくれ』






 緋色の光が窓辺に射す。


「んん」


 目を擦って寝台から起きれば、もう夕暮れ。

 のそのそと床に足を着けて洗面台に向かう。鏡に映っただらしない顔をした自分の顔を、冷たい水で洗いさっぱりとさせた。

 もうそろそろ出勤の時間だった。


 受付のお姉さんになって早三年目。


「おはようございます。お疲れ様です」

「おはようナナリー」


 制服の裾をととのえ、欠伸を噛みしめてハーレの扉を開く。

 ふわりと木造特有の建物の香りが私の鼻先をくすぐった。まだご飯も食べていないので、食堂から香る良い匂いによだれが垂れそうになる。

 よし、今日の休憩時間はお肉を食べよう。はやめに食事処のおじさんに頼んでおかなければ。


「ゾゾさんは明日から休みですよね」

「そーよ~。足腰鍛えとかないと」


 みんなに挨拶をしながら、私はゾゾさんがいた席に座るので、申し送りをうけたあとは彼女の席に向かった。

 ゾゾさんは大会前から数日間休みをとると言っていたので、すれ違いがてら今度お食事でも行きましょうかと話をする。


「チーナもお疲れ様」

「先輩~今日もたくさん来てますよ~」

「追い込みって感じだね」


 チーナも今年から破魔士専用の受付についていて、ゾゾさんの隣に座っていた。クリクリの可愛い茶色の瞳を目一杯広げて、魔導所内を埋め尽くす破魔士達を見ている。


「ねーちゃん、この二つの依頼うけてもいーか?」

「大丈夫ですよ。終わりましたらすぐにこちらへ来ていただければ」

「俺は南の魔物退治のやつよろしくー!」


 数日後に迫ったウォールヘルヌスの前に仕事をしてお金をためておこうと、皆考えていることは同じなのか、魔導所内はわいわいガチャガチャしていた。

 それに魔物の量も相変わらず減っていないので、あちこちで破魔士が戦っている姿を見かける。もはや日常茶飯事というか、破魔士達のお蔭で大ごとにはなっていないけれど、町の人達も「最近多くなったわねぇ」と確実に変化に気づいていた。

 それでもここ一カ月は新たに出没した魔物の情報はないので、少し治まって来たのだろうと皆安心していた。なので今は、既に出ている魔物の依頼を、破魔士達がどれだけ片付けてくれるかにかかっている。

 騎士団も今年に入ってからとても忙しそうで、ニケからの手紙には、しばらく会えそうもないと大変さが伝わる文面が書かれていた。


 話は変わるが、アーランド記三六六八年。光の季節二月目。

 この年、ハーレには三人の新人が入った。

 なんと、何もしていないのに増えたのである。



「大会に出なくても大丈夫なんじゃない?」


 夜勤が被ったハリス姉さんと隣同士でおしゃべりをする。

 夕方から出勤してもう真夜中。私と彼女の二人だけで、他の職員は誰もいなかった。

 夜間勤務をさせてもらってから半年が過ぎたけれど、最近は昼夜逆転していて、たまにある日間勤務では欠伸が止まらない。もちろん隠れて欠伸をしている。


 新人は女二の男一で新しく入ってきた。皆やる気に満ちていて教えているこっちが圧倒されるのだと、また今年も教育係となったゾゾさんがお風呂の時に零していた。

 増えたなら大会に出る必要なくない? とハリス姉さんや他の人達も言っているのだが、いいや、今年だけ増えてもしょうがない、この先も増えて行かなきゃ意味がないのだということで所長の意思は変わらなかった。


「ハリス姉さんは大会見に行くんですよね」

「何だかんだ私も同僚が出るのを楽しみにしているのよ」


 その日は破魔士も仕事をしに来ないどころか魔導所に来る人もいないと思われるため、何年かに一度の『休業日』となる。

 何か用事があった場合には、入り口の鈴を鳴らしてもらえれば所長の耳飾りが反応して彼女が対応するため対策はバッチリらしい。


「今日もとても美しい人だ。今夜どう?」


 魔導所の扉の鈴をカランと音を立てて入ってきたのは、依頼を受けに来た破魔士の男性。

 カツカツと靴の音を床に鳴らせて受付へ踏み寄ると、カウンターに肩肘をつけた方の手で私の髪の毛をすくい上げる。そして片目をつむると、にっこりと人のよさそうな笑顔を向けられた。

 最初はこういう誘われ方にあたふたしていたものの、この手の男性には最近やっと耐性がついてきたようで、また始まった、と半ば諦めに似た気持ちになりながら私は依頼書を台の下から一枚取り出した。


「こんばんはベギーさん。トールの泉に夜更けに不審生物がいるとのことで、今夜はこちらのお仕事なんかどうでしょう?」

「うーん、つれない人だ」

「ではここに調印を」

「お安い御用さ」


 破魔士の男性、中年とまではいかない茶髪のお兄さんは依頼書に名前を書くと、意気揚々と夜の街へ繰り出して行った。


「あの人相変わらず軽いったらないわ」

「でも毎回快く依頼を引き受けてくれるので助かりますね。ベリーウェザーさんのお兄さんって知った時は驚きましたけど」

「まぁね、仕事をノリでやってる感じだし。そのへん兄妹同士似通るものがあるわね」


 南のハーレで働いているベリーウェザーさんだが、彼女にはお兄さんがいたようで、近頃はそのお兄さんがよくここのハーレへ仕事を探しに来ている。

 そして女性に声をかけないと死んでしまうとでもいうような勢いで、毎度毎度受付のお姉さん達を食事に誘ったりしているようだった。チーナも誘われたことがあるそうで、「職場の先輩の身内じゃなければ行ったかもしれません~」とベギーさんの容姿も中々かっこいいので行くかどうか迷ったと溢していたぐらいである。

 あれは自分の容姿をわかっていないと出来ない芸当だ、とハリス姉さんは隣で呆れていた。

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