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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
最終章 リグレット
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第九十六話


「う、あ………俺は…?」


意識を取り戻したアルは、まず自分が生きていることに驚いた。


自分はヴェルンドに敗北し、殺された筈だ。


「左腕は…ある?」


切り落とされた筈の左腕は繋がったままだった。


先程の出来事は何か悪い夢だったのか、とアルは真剣に考え始める。


「夢じゃないわよー。さっきまで死にかけだったんだから」


呆れたような、安心したような声が上から聞こえた。


地に敷かれた布の上で寝ていたアルの目に、ヒルドの姿が映る。


「ヒルド?」


「はーい。ヒルドですよー。ついでに言うと、死にかけのアルヴィースを治療したのも私ー」


ひらひらと手を振りながらヒルドはいつもの調子で言った。


言葉ほど軽い傷ではなかったのだろう。


疲労の為か、心配の為か、ヒルドの顔色はあまり良くなかった。


「ああ、ありがとう。どうしてここに?」


「それは少し離れた所から二人をストーカー…じゃなかった。うん、見守っていたからねー!」


何かを誤魔化すようにヒルドはわざとらしい笑みを浮かべた。


「そんなことより、あのヴェルンドって男。実はエルフだったみたいねー」


「…そのようだ」


「でも、何でヴェルンドがエルフだってことをアルファルちゃんは知らなかったのかしら? 森から追放された黒エルフ…とか言う奴だったから?」


ヒルドは不思議そうに首を傾げる。


その言葉に、アルは無言で首を振った。


「多分、違うと思う。コレは俺の推測だが、黒エルフの正体は…」


黒エルフ。


掟を破り、森を追放されたエルフ。


大樹に嫌われた存在。


「―――――『人間』だ」








「人間の正体が、黒エルフ…?」


暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がるヴェルンドの顔をアルファルは凝視する。


信じられない、と言った視線を受け止めてヴェルンドは笑みを浮かべた。


「太古の昔。エルフの中に、森の加護に見放されたエルフが現れた。大樹から生まれながら、一切魔術が使えない異端」


それが最初の黒エルフ。


後に人間と呼ばれる存在の始まり。


「エルフ達はそれでも同胞と受け入れたが、その異端は段々と魔術に依らない力を求めるようになる」


それは魔術が中心のエルフの暮らしの中で考えた自衛手段だったのかもしれない。


普通のエルフなら考えない剣や盾など、無骨な武器に興味を持つようになっていく。


「やがて、黒エルフと呼ばれる者が十を超えた時、彼らは森を去った」


森を去った者達は、栄えた。


地に増え、争いで数を減らし、文明を発展させていった。


長命なエルフを遥か上回る速度で成長し続け、遂には自身が何者だったかを忘れた。


「人類とは、エルフの失敗作だ。遺体から湧いた蛆虫に過ぎない」


ヴェルンドは侮蔑の表情を浮かべる。


「この地上には蛆虫が増えすぎた。奴らは自分が何者であるかも気付かないまま、自身の先祖を殺し、大樹ははを燃やした」


「………」


「もう十分でしょう。奴らはこの世界に不要です。この世界は、この帝国は、エルフだけの物です。アルフヘイム帝国とは、元々エルフが建国した国なのだから」


既に忘れ去られた事実だが、アルフヘイムエルフ語で『エルフの国』を意味する。


元々アルフヘイムとはアールヴの森だけを意味する言葉だったのだ。


断じて、人間の国を意味する言葉ではなかった。


「…人類を滅ぼして、たった一人になることがあなたの望みなのですか?」


「たった一人ではありませんよ。大樹が再生すれば、新たなエルフが生まれる………それが、他のエルフを救うことが出来なかった俺の『贖罪』です」


悲痛な表情でヴェルンドは告げた。


アルファルはようやく、ヴェルンドがエルフに向けていた視線の正体に気付いた。


それはエルフでありながら、同胞を守ることが出来なかった後悔と罪悪感。


自分が自由なることなど、贖罪の為の手段に過ぎなかった。


「…新たに生まれてくるエルフ達は、大戦で死んだエルフ達とは違うんですよ?」


「………」


「そんなことを、皆が望むと思いますか?」


アルファルはベイラの顔を覚えている。


エルフ達の幸福を願い、争いを嫌った心優しいエルフ。


彼女がそんなことを望む筈がない。


彼女なら自分達の復讐よりも、生き残ったエルフが幸せになることを望む筈だ。


「…彼女はきっと、望まないだろうな」


独り言のように、ヴェルンドは小さな声で呟いた。


「…認めましょう。コレは俺のエゴです。自己満足です。俺は大樹を再生して、エルフを復活させる。そうしなければ、俺は俺自身を赦すことが出来ない」


悲痛な覚悟を決めたヴェルンドの姿が暗闇の中に消える。


「出来れば、同意を得たかったのですが…仕方ありません」


「な、何…?」


突然、アルファルの立っていた地面が柔らかくなった。


溶け出す地面は底無し沼のようにアルファルを引き摺り込んでいく。


「ここは『異界』です。俺の魔術、死界術式『ナーストレンド』で創り出した領域」


「くっ、結界術式…!」


「無駄ですよ。この世界では俺が法です。あなたは何も出来ない」


段々とヴェルンドの声が遠ざかっていく。


「さようなら、アルファルさん」








「魔力を同調。コレで完全に種子の力を引き出すことが出来ますね」


現実世界に浮上したヴェルンドは泥を眺めながら呟く。


この泥の内部は、ヴェルンドの体内と同義だ。


内に取り込んだ者と同化することで、その者の魔力を使用することさえ出来る。


本当は協力を得たかったが、強引な手段を使えば、アルファルの魔力を奪うことは可能だ。


『準備が整ったようだな、異端スクルドよ』


「…ニドヘグですか。俺を異端と呼ぶのはやめて欲しいと言った筈です」


自身の内部から聞こえた声に、ヴェルンドは冷めた表情を浮かべた。


『ハッ。貴様は小さき神の子ではない。穢れた血を引継ぎし者よ。貴様など異端スクルドで十分だ』


「………俺とあなたの利害は一致したと思っていたのですが?」


『そうだ。業腹だが、貴様は我が依り代に相応しい。貴様の目的は、我が存在意義と同義。ならば我は貴様に力を貸してやろう』


「…偉そうな態度ですねェ。所詮は作られた道具如きが」


『我は古代のエルフ達より創り出された神だ。人間を滅ぼす破壊神だ』


フン、とヴェルンドは心底呆れるように鼻を鳴らした。


「確かに古代エルフ達は『自分達の神』を創り出そうとしたのかもしれませんが、彼らには人間への憎悪があった。故に、彼らの望んでいた『彼らにとって都合の良い神』を創り出してしまった」


『その通りだ。我はそのように望まれて生まれた』


「他者の都合で生まれ、他者の都合で使われる存在など、神ではなく兵器に過ぎないでしょう。事実、古代エルフ達は人類の大半を一度滅ぼしておきながら、その力に恐怖して封印していますねェ」


自分達の崇める神を封印するなど、冷笑ものだ。


恐らく、彼ら自身も内心理解していたのだろう。


自分達の創り出した物は本当の神ではなく、都合良く使用できる兵器であると。


『あの時の憤怒は忘れん。あと少しで、あと一日もあれば蛆虫を抹消出来たというのに…!』


一見、怒り狂っているように見えるがニドヘグに心はない。


抱いている人類への憎悪は全て、古代エルフ達が抱いていた物だ。


そのように在れ、と望まれたものだ。


「…今回は何もあなたを阻む物はありませんよ。ニドヘグ」


ヴェルンドは都合の良い兵器に向かって呟く。


「あなたの本懐を。あなたの存在意義を。存分に果たすと良い」

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