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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
最終章 リグレット
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第九十三話


「さーて、残業残業っと」


宴会が終わった後、研究室に戻る途中でヴェルンドは一人呟く。


日は完全に落ち、僅かに眠気がするが仕事は残っている。


「皆さん、お疲れ様です。今、帰りましたよ」


研究室の扉を開け、部下達に声をかける。


ヴェルンドの部下である白衣を纏った研究者達は、それに気付きもせずに台に向かい合っていた。


台の上に置かれた『物』を取り囲み、口々に何かを議論し合っている。


「少しは解析が進みましたかァ?」


「え?…ああ、ヴェルンド隊長ですか」


その横に立って、漸く気付いた一人がヴェルンドへと振り返った。


「全然ですね。人の形を保っていると言うのに、魔力反応、肉体構造全てに於いてエルフと変わらない」


「いや、エルフとも違う部分がある。高濃度の魔力。コレが、神の一部と言う物だろうか?」


興奮したように次々と語る言葉を聞き流しながら、ヴェルンドは『それ』に視線を向けた。


レヴァンから預かり、解析を進めている物体。


かつて神だったそれは、アンドヴァリの遺体だった。








「もう一度、アールヴの森へ行こうと思う」


アルは酒の入った杯を傾けながらレヴァンに告げた。


「何故だ? 今更そんな場所に何がある?」


「…気になっていることがあるんだ」


「気になっていることですか?」


二人の話が聞こえたのか、アルファルが近くに寄った。


それを一瞥した後、アルは大きく頷く。


「あの時、アンドヴァリの意識を乗っ取った怪物………アレは消える瞬間に、俺達のことを『黒エルフ共』と呼んでいたんだ」


最初はアルファルのことを呼んでいるのかと思ったが、だとすれば『共』と呼ぶのはおかしい。


あの言葉は明らかに、アル達を指していた。


「確かに、エルフに作られた存在が人間をエルフと罵倒するのは奇妙だな」


「黒エルフ、ですか…」


アルファルはどこか意外そうにそれを口にした。


「何か心当たりがあるのか?」


「いえ、黒エルフとは………『罪を犯したエルフ』を指す言葉です」


不思議そうな顔のまま、アルファルはその意味を教えた。


「エルフにも掟や法はあります。それを破り、大樹に嫌われた者をエルフの間では『黒エルフ』と呼ぶのです」


「大樹に嫌われる…?」


「はい。エルフにとって大樹は神と同等。だから、黒エルフは例外なく森から追放されます」


エルフは基本的に白く美しい肌をしている。


その中で『黒』は異端を意味する。


黒エルフとは、同胞ではなくなったと言う意味でもあるのだ。


「エルフが、森を去るだと…?」


驚いたようにレヴァンは目を見開いた。


エルフとは森で暮らし、人間と関わることがない種族。


今までそう考えていたが、森から出たエルフもいると言うのだ。


「…なるほど、千年も交流がなかった割には随分とエルフ語やエルフの姿に関する情報が溢れていると思ったら…そう言うことか」


アルはどこか納得したように頷いた。


アンドヴァリは古文書を読み漁り、エルフ語を体得していた。


エルフ大戦以前から、エルフに関する情報は帝国に残っていた。


それはきっと、森を出た黒エルフと呼ばれる存在によってもたらされた知識なのだろう。


「―――待てよ。まさか」


そこで何かに気付き、アルは思わず呟いた。


「どうかしたのか?」


「…いや、何でもない。アレの正体がますます気になっただけだ」


考えを振り払うようにアルは頭を振るう。


良くない考えだった。


その想像が真実なら、根底が覆ってしまう。


「…種子の方はどうなっているんだ? レヴァン」


「ああ、そちらなら大丈夫だ。今はヴェルンドの方に遺体を解析させている。摘出が完了次第、厳重に封印する予定だ」


ユグドラシルの種子は、未だアンドヴァリの体内に存在する。


すぐにでも封印した所だが、何がトリガーとなるか未だ分からない部分が多い為、一旦技術開発部隊の方に調査を任せているのだ。


「ヴェルンドはアレの起動キーが私だと言っていましたし、私は少しばかりこの町を離れていた方が良いのでしょうか?」


「そうだな。それじゃ、俺と一緒にアールヴの森へ行くか?」


アルは少し機嫌良さそうにアルファルを誘った。


またアルファルと旅が出来ることが嬉しいのかもしれない。


「それでは、また一緒に旅ですね」


アルファルも控えめな笑みを返しながらそう言った。


楽しそうな二人を見て、レヴァンは少しだけ渋い顔をする。


「ふむ、出来れば未だ騎士団の影響力の低い南部には行ってほしくないのだが………ここで止めるのは無粋と言うやつか?」


「その通りよー。少しは空気読めるようになったじゃない」


ポン、とレヴァンの肩をヒルドが叩いた。


話を盗み聞きしていたようだった。


「心配なら私が気付かれない程度に、護衛してあげるからー」


「それは単に二人の様子が覗きたいだけじゃないか?」


「そうよー? 決まっているじゃない」


「言い切ったな…」


思わず頭痛を感じながらも、それなら良いかとレヴァンは諦めたのだった。








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『私は全てを憎む』


『私を愛さない全ての存在を憎悪する』


『エルフは私を排斥した』


『人間は私を拒絶した』


『神すらも私を愛さなかった』


『ああ、忌々しき私の子よ』


『この私と、あの男の血を引く呪われた子よ』


『お前も私と同じだ』


『―――決して誰からも愛されない』

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