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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
最終章 リグレット
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第九十二話


「軍神アルヴィース…!」


「アルヴィース様、お疲れ様です!」


「…はぁ」


騎士団本部にて。


すれ違う度に畏まった挨拶をする騎士達に、アルはため息をついた。


アンドヴァリに広められた汚名が晴れたのは良かったが、これはこれで居心地が悪い。


自分は英雄なんて呼べるような人間ではないし、皆に尊敬されるような騎士でもない。


彼らはきっと自分が騎士に復帰すると思っているのだろうが、冗談ではない。


「………」


ふと、アルは窓から外を眺めた。


滞在している宿屋に置いてきたアルファルのことを思い出す。


汚名が晴れたのは、アルだけではない。


エルフは敵だと騎士達を洗脳していたアンドヴァリが死んだのだ。


少しずつエルフの悪名は薄れていくだろう。


騎士達は真実を見た。


アンドヴァリがエルフに対して行ったことの全ては知らなくとも、その死体を弄んだことは知っている。


騎士団長に就任したレヴァンはアンドヴァリを倒した功労者の中にエルフがいることを公表した。


加えて行った騎士法の改正で、アルファルは少なくとも法の下では人間と同等の権利を得た。


人々の心情はともかく、もう誰からも否定されずに生きられるようになったのだ。


それは、かつてアルが望んだことだった。


「…さて、そうしたら俺は何をしようかな」


アルファルを守ることを贖罪として、アルは今まで生きてきた。


そのアルファルを守る必要がなくなったら、どうすればいいのか。


騎士には戻りたくないので、また杖職人を続けるか。


それとも…








その夜、皆は宿屋に集まっていた。


騎士達の眼から隠れ、ひそかに始まった祝宴。


「よしよーし、これで最後よ」


「騎士ヒルドは料理も得意だったのですね…」


「その騎士って呼び方やめてよねー。私、もう騎士じゃないんだからー」


「こちらの野菜、切り終わりましたよ」


調理担当は発案者のヒルド、アルファル、エイトリの三人。


主にヒルドがメイン料理を担当し、他二人はそれを手伝っている。


「中々上質なエールが手に入ったぞ。これで足りるか?」


「エールだけじゃキツイだろ。果実酒も買ってきたぞー」


「…酒だけじゃなくて、果実水ぐらい用意しましょうよ、お二方」


女性陣が料理を作っている内にアル、レヴァン、ヴェルンドの男性陣は飲み物の調達をしていた。


アルとレヴァンはそれぞれの好みの酒を用意し、酒が苦手なヴェルンドは果実水を持参した。


出来上がった料理を並べ、酒の入った杯を配る。


「よし! それじゃ、レヴァン頼むぞ」


「俺か? それでは、帝国の平和と騎士団の…」


「長いー! そう言うのは一言で良いのよ! レヴァン!」


長々と話そうとしていたレヴァンに、ヒルドが叫ぶ。


「…では、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


六人の声が揃った瞬間だった。


貸し切った宿屋の食堂で、思い思いに料理に手を付ける。


「相変わらず美味いな。ヒルドの料理は」


「ありがとー! こっちの料理も食べてみてよ、アルヴィース!」


ヒルドは機嫌良さそうに笑いながら近くの皿をアルに差し出した。


皿に盛られたのはサラダのようだが、少々変わった香りを漂わせていた。


不思議に思いながらも、アルは素直にそれを口にする。


「あ…」


それを見て、アルファルの口から思わず声が漏れた。


「少し変わった味だな。だけど、うん。美味いよ」


「それは良かったー! その料理は、アルファルちゃんが作った物だからねー!」


「アルファルが?」


驚いたように視線を向ければ、アルファルは真っ直ぐアルを見ていた。


「お口に合いましたか。それは良かった、嬉しいです」


アルファルはそう言って控えめに笑みを浮かべた。


「今まで薬の調合ぐらいしかしていませんでしたが、こう言うのも良い物ですね」


「でしょでしょー! それじゃ、お次は…」


ニコニコと笑いながらヒルドは視線をレヴァンに向けた。


「ん? 俺か?」


注目されたレヴァンはエールの入った杯をテーブルに置きながら呟く。


その目の前に、やや緊張した様子のエイトリが一つの皿を置いた。


「ぶっ…!?」


横から皿を覗き込んだヴェルンドが思わず吹き出した。


それは何というか、前衛的な料理だった。


その辺に生えてそうな草や、その辺にいそうな虫を混ぜたような、サラダのような何か。


殆ど生の肉まで中には隠れている。


「……………ふむ」


それを見て暫く黙った後、レヴァンは一人頷いた。


特に迷わずフォークを取り、それを口に運ぶ。


「「食べた…!?」」


アルとヴェルンドの声が重なった。


驚愕する二人には気付かず、エイトリは震えながらレヴァンを見つめる。


「うむ。初めて食べる味と食感だが、悪くはない」


「ほ、本当ですかー! レヴァン隊長!」


「う、嘘だァー!」


感激したようにエイトリは瞳を潤ませ、ヴェルンドはその後ろで信じられないように叫ぶ。


「…ちなみに、何であんな感じになったんだ?」


「あぁー。エイトリちゃんは砂漠出身でしょ? だから食べられる物は何でも入れようとする癖があるみたいで………味は悪くないのよー?」


こそこそと声をかけたアルに苦笑しながらヒルドは答える。


「でも、もしレヴァンが食べなかったら串刺しにしてやるつもりだったわー」


「…程々にな」


杯を傾けながら剣呑な目をレヴァンに向けるヒルドに、アルはため息をつく。


他人の恋愛話が好きなのは結構だが、ヒルドは何事も過激すぎる。


「他人を応援するのは勝手だが、少しは自分の恋愛に目を向けたらどうだ?」


「むぐっ!? わ、私のトラウマを容赦なく抉るなんて、アルヴィースは鬼畜ねー!」


「あ、そうだったな…悪い」


「いや、許さないわー。こうなったら、アルヴィースに責任を取ってもらわないとー!」


剣呑な目を今度はアルに向け、ヒルドは抱き着く。


「痛たたたた!? 痛い痛い! お前、その服で抱き着くな!」


ヒルドの刺々しい服がアルに突き刺さり、アルは悲鳴を上げる。


「もう恋愛なんてする気なかったけどー。アルなら良いかなー…」


「おい、酒臭いぞ。お前酔ってるだろ…」


「…何やっているんですか?」


酔ったヒルドに抱き着かれたアルを見て、アルファルは呆れたように呟いた。


「仲が良いのは結構ですが、少しは慎みを…」


「へーんだ! 私だってアルファルちゃんに負けてないもんねー! キスはもう済ませたもんねー!」


「…………………」


アルファルの視線がアルの方へ向いた。


「それは事実だが! そんな大声で叫ばなくてもいいだろ!」


「事実、ですか…」


視線の温度は急激に下がったような気がした。


表情は普段通り冷静な物だが、言いようのない重圧を放っていた。


「あ、あのー。アルファル、さん? どうかしたのかな?」


「…いえ、別に」


アルファルの無言の圧力に焦るアルを見て、ヒルドは静かに二人から離れた。


面白いことになってきた、とほくそ笑みながらレヴァンの隣に座る。


「ねえねえ、あの二人をどう思う?」


「あの二人?…珍しいな、あの少女があんなに怒るなんて」


「本当に馬鹿ねー! 嫉妬よ! 好意を抱いている相手が可愛い女の子に言い寄られて怒らない女の子はいないわー!」


「…そう言う物か? あと、女の子と言うのにはお前は歳が…」


「全く女心の分からない奴ねー! そんなだから頭が禿げるのよー!」


「…俺は禿げていない。コレは剃っているんだ」

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