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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第五章 ヒーロー
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第八十五話


「創生『グングニル』」


何度目かの翡翠の槍を生成したアルがアンドヴァリへ向かっていく。


かつてワームの鱗を貫いた必中の槍。


その力を以て、アンドヴァリに引導を渡そうとアルは構える。


『そんな槍、もう見飽きたわ!』


それを見たアンドヴァリは地面を蹴り、一歩でアルの目前まで距離を詰めた。


アルのグングニルの真価は、投擲にある。


敵に向かって投擲し、魔力を解放することで敵を爆殺するのが本来の使用法だ。


故に、これだけ近付かれてしまったら真価を発揮することが出来ない。


「くっ…!」


咄嗟に距離を離そうとアルは後ろに下がるが、距離は変わらない。


雷霆にばかり気を付けていたが、体格も身体能力も違いすぎる。


アンドヴァリは嘲笑うような表情を浮かべ、アルの胴体程はありそうな腕を振り上げる。


「血棘ノ森『スリーピング・ビューティー』」


振り下ろされようとしていた腕が、無数の茨に絡め取られた。


『む…』


不快そうな顔でアンドヴァリは視線を向ける。


アルに集中している隙に移動したのか、アンドヴァリの死角になる位置からヒルドが茨を操っていた。


「捕縛しろ!」


一瞬、動きを止めた隙を見逃さず、茨はアンドヴァリの全身を包み込む。


鋼鉄並みの硬度を持つ血の茨はアンドヴァリの巨体を拘束し、動きを封じた。


『鬱陶しい!』


万力のような力で締め上げられながらも、アンドヴァリは余裕を崩さない。


アンドヴァリの身体に紫電が走り、硬質化していた茨がドロドロと溶けて血液に戻っていく。


(茨を血に戻した…?)


『消え失せろ…』


自由になった腕がアルへ向けられる。


躱せない、と判断したアルは咄嗟に大量の粘土を生み出す。


作り上げるのは、盾を構えたゴーレム達で形成された白き門。


「『魔力付与エンチャント』…創生『ビヴリンディの門』」


魔力を込めることで極限まで強化した鉄壁の守り。


かつてワームの一撃を正面から防ぎ切った門を最速で作り出す。


完成と同時に、雷霆が放たれた。


拮抗は一瞬。


雷霆に触れた部分から門は溶けるように、消えていく。


「チッ!」


長くは持たないと理解し、アルは横へ飛び退く。


瞬間、雷霆は門を貫き、ラプチャーの町を破壊して彼方へと通り抜けていった。


「アルヴィース! 無事!?」


「…何とか死んでねえよ」


駆け寄ってきたヒルドにそう返しながら、アルは苦い表情を浮かべる。


「俺の門を溶かしやがった」


アルは僅かに恐怖すら覚え、ヒルドに忠告した。


アンドヴァリの雷霆は、門を壊すのではなく溶かした。


まるで胃袋で消化するみたいに、跡形もなく。


「…あの雷霆には死んでも触れるなよ。俺達も溶けて栄養にされるぞ」


アンドヴァリは全ての人類を魔力に還元すると言っていた。


恐らく、あの雷霆は触れた者全てを魔力に変換する水属性の魔術。


他人の手で作られた魔術だろうと、生身の人間だろうと、溶かして吸収する凶悪な魔術だ。


正に、人類を滅ぼす為の魔術。


『…今の一撃で、ラプチャーの住人が十名ほど消えたようだな』


「喰った命の数まで分かるのかよ」


『元々ラプチャーは救済から払い落す予定だったが、気が変わった』


アンドヴァリは一人納得したように頷き、両腕を天へ掲げる。


『手始めにこの町から救済を始めるとしよう』


バチッと雷鳴が轟いた。


アンドヴァリの両腕から無数の雷霆が放たれ、天空を貫く。


雲一つなかった空に暗雲が立ち込め、帯電する。


『墜ちろ、雷鎚ミョルニル


その言葉を合図に、暗雲から地上に雷霆が放たれる。


先程アルに向かって放った雷霆とは桁違いの威力。


振り下ろされた鎚のようにも見える破壊の光。


それはラプチャーの中心に直撃し、人も建物も全てを消し飛ばした。


「なっ…」


スケールの違いすぎる魔術に、アルは言葉を失う。


天罰の如き光が消えた後は、何もない。


町だった瓦礫の山があるだけで、人の気配すらしなかった。


『…まだ生き残りがいるようだな。ならば、もう一度放つか』


アレだけの魔術を放ちながらも、アンドヴァリは消耗した様子がない。


考えが甘かった。


自分達が敵にしている相手を理解していなかった。


これほどの力を持つ相手に、勝つことなど出来るのか。


そもそも戦いになど、なるのか。


「もうドロップアウトですかァ。アルさん」


その時、場違いなほど能天気な声が聞こえた。


「全く、勝機がなくなった程度で諦めるんですか? あなたの正義はその程度ですかァ?」


「ヴェルンド…?」


瓦礫の上に佇むヴェルンドに、アルはぼんやりと呟く。


「安全な所に隠れて様子を見守っているつもりでしたが、どうやらこの町に安全な場所はないようですね」


瓦礫と化したラプチャーを眺めながら、ヴェルンドは疲れたように息を吐いた。


状況が分かっていないかのように、普段通りな態度にアルは困惑する。


『わざわざ潰されに出てきたのか? 虫けらが』


「ハン。すっかり染まっちゃって。情けなくて涙が出そうですよ、アンドヴァリ」


挑発するように笑いながらヴェルンドは変わり果てたアンドヴァリを見る。


「種子もまともに使いこなせてないくせに、偉そうに」


「何を言っているんだ?」


その言葉に、アルは驚いた表情を浮かべる。


ラプチャーを滅ぼす程の力を見せながらも、使いこなせていないと言ったのだ。


「種子の起動にはエルフの力が必要。そもそも、その魔術は古代エルフが人類を滅ぼす為に作り出した魔術であって、人間用ではありません」


エルフが人間の杖を使えないように、人間にエルフの魔術を使うことは出来ない。


エルフと人間の魔術は根本的に違う。


自然の声を聞くことが出来ない人間には、自身の魔力で魔術を使うことしか出来ないのだ。


「どうやら、騎士達から掻き集めた膨大な魔力で術式を模倣しているですが、そんな無理がいつまで続くでしょうか?」


アンドヴァリは種子に宿る術式だけを引き出し、それを掻き集めた魔力で維持していた。


古代エルフの魔術を、人間の魔術で模倣することで。


だが、それは膨大な魔力があって初めて成立する。


その魔力が尽きてしまえば、瞬時に魔術は消滅する。


何より、


「…レヴァンが玉座を壊せば」


「そうです。レヴァン隊長に玉座を壊されれば、その時点で魔力は消えて魔術が解除される」


ヴェルンドは馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「あなたの『神ごっこ』は、期間限定なんですよ」


『………』


アンドヴァリは答えない。


その沈黙がヴェルンドの言葉を肯定していた。


アンドヴァリは最強に相応しい力を手に入れたが、無敵ではない。


玉座さえ壊せば、神の力は失われる。


アル達はただ、それまでの足止めをすればいいだけだ。


『フハハ…ハハハハハハハハ! それが、どうした!』


アンドヴァリは大声で嗤った。


感情の昂ぶりに呼応するように、空に再び暗雲が立ち込める。


『お前達を殺し、レヴァンも殺せば、それで済むだけの話だ!』


バチバチと音を発てるアンドヴァリの身体から雷の槍が放たれた。


咄嗟のことで反応できないヴェルンドへと、雷の槍は真っ直ぐ向かう。


「そう簡単に上手く行くと思うか?」


ヴェルンドに槍が触れる直前、目の前に現れた土の壁によってそれは阻まれた。


「助かりました。アルさん」


「礼を言うのは俺の方だ。お前のお陰で希望が湧いた」


アルは翡翠の槍を構えながら呟く。


「仕切り直しと行こうか。アンドヴァリ」

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