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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第五章 ヒーロー
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第八十四話


「その娘は、エルフですか?」


「今の声は? 騎士団長の声だったような」


「それより、隊長補佐が倒れて…」


エイトリが倒れた後、騎士団本部は混乱の極みにあった。


突然エイトリが自殺紛いのことをしたと思ったら、気絶したのだ。


しかもレヴァンの乗っていた馬車からはエルフの娘まで出てきた。


一体何が起こっているのか、と一般騎士は混乱する。


「無様な姿を見せるな! それでも帝国騎士団か!」


レヴァンは手の中に炎を生み出しながら騎士達を叱責した。


「何もかも俺に判断を委ねるんじゃない! 自分の正義は自分で決めろ!」


「れ、レヴァン隊長…」


「俺はエルフを連れている! 騎士団長室に乗り込もうとしている! お前達の見た通りだ! お前達の目にはそれがどう映る!」


本来ならひそかに騎士団長室に乗り込む作戦だったが、レヴァンは我慢が出来なかった。


自分の意思を持たず、アンドヴァリや自分の判断に身を任せようとする軟弱な騎士達の姿が。


自分の信じる物すら、自分の意志で決められない弱い者達が。


「俺はもうアンドヴァリに従わない! お前達はどうする? 反逆者の俺に従うか! 騎士としての本懐を果たすか!」


どちらも選ばないことは認めない。


レヴァンの味方になるか、敵になるか。


「…くっ」


「隊長…ッ」


騎士達はハッとした顔になり、それぞれの杖を構えた。


今まで隊長と慕っていた相手に、武器を向ける。


「…それでいい。自分の正義を貫け、帝国騎士団!」








「…あまり悠長にしている余裕はないようだ」


本部の様子を確認しながら、アンドヴァリは呟いた。


奪った種子を帯電する義手で握り込む。


「チッ、コレはまだ使いたくなかったが…」


段々と義手から放たれる雷の音が大きくなっていく。


それに呼応するように、種子が光を放ち始めた。


「…何をする気だ」


視力の回復したアルが翡翠の槍を構えながら言った。


「種子を起こそうとしているのだよ」


アンドヴァリは淡々とした口調で答える。


「帝国中の全ての騎士から吸い上げた全魔力で刺激することで種子から術式を引き摺りだす」


空から降り注いでいた騎士達の遠距離魔術が止む。


遠くを見ると先程まで攻撃を続けていた騎士達が皆、力なく倒れていた。


強制的に全魔力を吸い上げられたことで失神してしまったのだろう。


一人一人は三英雄に及ばずとも、帝国騎士団全ての魔力だ。


その総量は、個人で使用できる魔力を凌駕している。


「既に一度は起動している。種子に残留した魔力を解析して、術式を展開」


種子が眩い光を放ち、大気が揺れる。


アンドヴァリの身体に足元から青い陣が浮かび上がっていく。


「やめろ…!」


それを阻止しようと走り出したアルは見えない力に弾かれた。


その正体は魔力だ。


アンドヴァリを中心に集まった膨大な魔力自体が、周囲を弾く力の壁となっている。


「ッ!…創生『グングニル』」


アルは握り締めた翡翠の槍に魔力を込める。


それはかつてエルフの大結界を破った軍神の槍。


「穿てェ!」


アルの手から翡翠の槍が投擲された。


投擲された槍は緑色の光を放ちながら、魔力の壁を容易く突破する。


槍はそのまま勢いの衰えることなく、アンドヴァリの身体に触れる。


「創世術式『ニドヘグ』…展開」


瞬間、太陽が落ちてきたような衝撃がラプチャーを襲った。


最初に感じたのは目を開けていられない程の光の奔流。


次に感じたのは天地がひっくり返ったような衝撃。


アルの身体は紙のように宙を舞い、大地に叩き付けられた。


「…あ…くっ…」


自分の声に違和感を覚えながら、アルは呻き声を上げる。


数秒ほど、意識を失っていたようだ。


身体の痛みを抑えながら目を動かすと、近くにヒルドの姿があった。


「ヒルド、生きているか…」


「何、とか…何が起こったのー…?」


瓦礫に埋もれた身体を起こして、ヒルドは首を傾げた。


投擲したグングニルの魔力だけでは、こんな衝撃は起きない。


グングニルを解放すると同時にアンドヴァリの術式が完成したのだろう。


二つの魔力が反発した結果、これだけの衝撃を生んだ。


「あ、アルヴィース…」


「どうした?」


「あ、あ、アレ…!」


何かを見つけたヒルドが震えながら前を指さした。


それに気づき、訝し気な顔でアルは前へ目を向ける。


そこにいたのは、人ではなかった。


二メートルを優に超える体躯。


骨格自体は人間に近いが、強靭な手足には肉食獣のような爪があり、皮膚は黄金の鱗に覆われている。


鼻も耳もない平らな顔の中心に深緑色の単眼を持ち、その下には切り裂いたような巨大な口がある。


背中からは腕よりも太い大蛇が尻尾のように生えており、ゆらゆらと揺れていた。


それは、ドラゴンと人間を掛け合わせたような外見の怪物だった。


『――――はぁ』


竜人ドラゴニュートとでも呼ぶべき存在は身に溢れる膨大な力に息を吐く。


「まさか、アンドヴァリ、か…?」


アルは呆然とした顔で呟く。


竜人の姿はワームを思わせたが、雰囲気が明らかに違う。


ワームの纏っていた憎悪の気配がなく、獰猛な外見の割には理性を感じさせる眼をしていた。


『………』


アルの言葉には答えず、竜人は具合を確かめるように手足を動かしたり、身体を見下ろしたりしている。


竜人は一つしかない瞳を動かし、視線をアルの後方へ向けた。


そこには騒ぎを聞きつけたラプチャーの住人が数名、恐怖の表情で立っていた。


「な、何だ、あの化物は!」


「ゴーレムなのか? こ、こっちを見るな!」


『……フッ』


スッと竜人は怯える人々に片腕を向ける。


その口に浮かんでいたのは、小さな嘲笑だった。


「…え」


人々の口から零れた声を飲み込み、閃光が走る。


竜人の手から放たれた雷霆は光の速度で命を刈り取り、その存在を抹消した。


「なっ…」


一瞬の出来事だった。


恐らく、殺された人々は自分が攻撃されたこと自体理解できずに命を落としただろう。


雷霆を浴びた人々は既に、死体すら残さず消滅している。


『フハハ…ハハハハハハハ! コレが、古代エルフの作り上げた神の力か!』


裂けた口を広げて竜人は、アンドヴァリは嗤った。


『素晴らしいな。人類への憎悪を抑え続けるのは面倒だが、力は想定以上だ!』


姿は変質しているが、アンドヴァリは自我を保っている。


ファフニールの自我を飲み込んだ人類への憎悪を抑えることに成功している。


『――――予定より早いが、これより救済を開始する』


アンドヴァリの全身から雷鳴が轟く。


その魔力、その魔術は、世界を滅ぼす力だ。


コレを解き放ってしまえば、世界が終わる。


少なくとも、人類と言う種は地表からいなくなる。


「…俺が止めるしかないな」


アルは翡翠の槍を生み出しながら呟く。


勝てるとは思っていない。


だが、この場でアンドヴァリを食い止められるのはアルとヒルドしかいない。


「かつて世話になった礼だ。引導を渡してやるよ、アンドヴァリ!」


『最早、今の私にとってお前も愚民の一人に過ぎない』


アンドヴァリの眼がアルを見た。


その眼に宿っているのは殺意ですらなかった。


まるで地に這う虫けらでも見るような視線だった。


『愚民如きが、この私の邪魔をするな!』


アンドヴァリは獣のような咆哮を上げ、アル達へ襲い掛かった。








「ぐあっ…! れ、レヴァン隊長…」


「眠っていろ。お前は確かに職務を全うした」


迫る騎士の一人を返り討ちにしながら、レヴァンは呟いた。


本部内を突き進むレヴァンの後ろには無数の騎士達が倒れているが、死者は誰もいなかった。


全て杖を燃やした上で意識を刈り取り無力化しており、火傷一つ負わせていない。


「………」


無言で騎士団長室を目指すレヴァンは一人だ。


共に馬車に乗ってきたアルファルには隊長室でエイトリを見て貰っている。


エイトリはアンドヴァリの呪縛から解放されたが、また人質に取られては意味がない。


その為、二人は安全な場所に置いてきた。


後は向かってくる騎士を全て打ち倒し、玉座を破壊するだけだ。


「レヴァン隊長!」


廊下を走るレヴァンの前に、新たな騎士が現れた。


足を止めないまま、レヴァンは構える。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 僕は隊長の邪魔はしません!」


「何だと?」


構えながらレヴァンは訝し気な顔をした。


「僕は隊長を信じています! それに、ラプチャーへ向かった騎士団長は少しおかしかった。軍神アルヴィースをあんなに悪く言うなんて…」


若い騎士は自分の感じたことを素直にレヴァンに伝える。


「僕は、隊長の味方です! これは誰でもない自分の意志で決めたことです!」


「………」


その言葉に、レヴァンは心に温かい物を感じた。


騎士達は皆、アンドヴァリに操られる人形かと絶望していたが、こんな騎士もいたのか。


目の前の騎士は、自分の意志をしっかりと持っている。


間違っていると感じたら、騎士団長にすら剣を向ける正義の心を持っている。


それが、アンドヴァリには眩しく感じられた。


「そうか、なら…」


「裏切りは厳罰だな」


瞬間、天井を破壊して何かが降ってきた。


真っ白な長髪を振り乱す獣が頭上から襲い掛かる。


その下には、先程の若い騎士が立っていた。


「逃げ…!」


咄嗟に声をかけるが、間に合わなかった。


白の獣の足が騎士の頭蓋骨を踏み砕く。


「これでも俺様は騎士団長殿に留守を任せられているからな」


絶命した騎士を蹴り飛ばし、白の獣は嘲笑を浮かべた。


「同僚の裏切りなんて、見過ごす訳にはいかねえだろ?」


「フェンリル…!」


怒りに震えるレヴァンの身体が炎に包まれる。


「壱陣『レージング』弐陣『ドローミ』…共に解放!」


それに合わせるように、フェンリルの身体が赤黒く変色する。


言葉は少なく、二つの力が正面が衝突した。

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