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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第五章 ヒーロー
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第八十三話


「アルフヘイム帝国の初代皇帝は約二百年生きたそうだ。人類には本来、それだけ生きられる機能が備わっている」


「………」


「疫病を患うことなく、死を恐れない人類」


それは最早、人間とは呼べない存在だろう。


長命で強靭な肉体を得た人類は、エルフと何も変わらない。


今までの人類を超えた、新たな人類の創造。


「それこそが私の理想。人類の救済だ」


その理想が実現すれば、それは確かに人類を救うだろう。


未だ帝国を悩ませている疫病を完全に根絶することも可能だ。


「そんな、ことが、本当に出来ると、思っているのか?」


「種子があれば実現できる。一度人類を喰い尽し、大樹内で構成を作り換える。その後で魔力を還元すれば人類は『生まれ変わる』」


新たな人類を一から作り上げる。


その為に種子を使用して、人類を一度滅ぼすと宣言しているのだ。


想像を絶する思考だった。


雑草でも間引くように、人類を殺し尽くすと言った。


その後に作り上げるので大人しく滅びろと言った。


創造と破壊は神の所業だ。


歪んでいる。


「これが人類を恒久的に救済する唯一の方法なのだ。理解したなら、種子を渡せ」


「…お前にだけは、絶対に渡せないな」


「そうか。ならば、致し方ないな」


そう言うと、アンドヴァリは自身の右腕を空へ翳した。


精巧な木製の義手が、ぼんやりと淡い光を放ち始める。


「その腕………杖か!」


「余ったエルフの骨を使って自作した物だ。ヴェルンドも、これの存在は知らん」


右腕の義手に黄金の陣が浮かび上がる。


アンドヴァリを中心に暴風が吹き荒れる。


刻まれているのは、風属性の陣。


「どうやら玉座から引き離せば私が無力化すると考えたようだが、それは間違いだ…『接続しろ』」


景色が歪み、虚空に幾つもの光の窓が展開された。


光で縁取られた窓は帝国中の様々な風景を映し出す。


「この義手は玉座と同じ物で作られている。コレを使えば、帝国のどこからでも玉座を遠隔操作出来る」


アンドヴァリは玉座から離れても、何の問題もなかった。


大戦後にアンドヴァリが一度も本部を離れなかったのは、この義手の存在を隠す為。


ヴェルンドの手も借りずに杖を自作したのは、それを誰にも知られない為。


「常に最悪を想定して切り札は幾つも用意しておく物だ」


「くっ…」


「…コレがお前達の切り札か」


光の窓を義手で操作していたアンドヴァリが、少し驚いたように呟く。


その視線の先には、窓に映し出されたレヴァンの姿があった。








「レヴァン隊長!?」


「どうして、隊長は死んだ筈では…?」


「退け! 俺は騎士団長に用があるんだ!」


アル製の馬車から顔を出し、レヴァンは叫ぶ。


本部はもう目の前だと言うのに、次々と現れる騎士達によって道を塞がれていた。


こんなことをしている時間はない。


アルとヒルドがアンドヴァリを引き付けている間に、騎士団長室に向かい、玉座を破壊する。


それがレヴァンに任せられた任務だった。


「騎士団長はラプチャーへ向かいましたが…」


「なら、騎士団長室で待たせて貰う。道を開けろ!」


今、アンドヴァリは不在なのは知っている。


混乱する騎士達を強引に押し退けて馬車を進める。


アンドヴァリがどんな切り札を用意しているかは分からないが、玉座さえ壊せばこちらの勝利だ。


そうすれば、エイトリが救われる。


『驚いたよ。レヴァン』


その時、馬車の前方からアンドヴァリの声が響いた。


馬車を止めるように前に出た少女の姿に、レヴァンは言葉を失う。


『まさか、君が騎士団を裏切るとは思いもしなかった。君の正義はその程度だったのか?』


酷薄な表情で笑う少女は、エイトリだった。


華奢な左手に杖を握り、右手には剣を握っている。


レヴァンに見せつけるように、エイトリは剣を自身の首に突き付けた。


『チェックメイトだよ、レヴァン。これで君は私に逆らえない。君達の作戦は失敗だ』


この距離では、レヴァンの炎よりもエイトリが首を掻っ切る方が早い。


最早、レヴァンはアンドヴァリの命令に従うしかなく、他の選択肢はない。


玉座を破壊すると言うアルの作戦は失敗。


その筈だった。


「…アンドヴァリ、俺が騎士団を裏切るとは思わなかったと言っていたな」


『それがどうした?』


「人は変わる物だ、アンドヴァリ。自分の間違いに気付き、成長する。それを教えてくれたのは、あなただった筈だ」


レヴァンは迷いのない真っ直ぐな視線をエイトリへ向けた。


その目を通し、ラプチャーにいるアンドヴァリを見る。


『何を…?』


ピチャ、とエイトリの足元から奇妙な音が聞こえた。


不思議に思ったアンドヴァリは首に剣を突き付けたまま、視線を下へ向ける。


エイトリの足元に、いつの間にか水溜りが出来ていた。


『水?………まさか!』


「『武器を捨て、平和を甘受せよ。安住の地はここに』」


馬車の中から歌うような声が響く。


エイトリの足元が青い光を放ち、その身体を包み込む。


「結界術式『ウルザブルン』」


バチン、と音が響くとエイトリの手から杖が弾かれた。


その結界の中ではあらゆる魔術が無効化される。


それが例え、人を操る魔術であったとしても。


杖を失った瞬間、ゆっくりとエイトリの身体が倒れる。


エイトリがアンドヴァリの支配から解放された瞬間だった。








「馬鹿な…あのレヴァンが、エルフと手を組むだと…!」


「人は成長する。憎しみで戦っていたレヴァンが、今は憎しみを捨ててエイトリを守る為に戦っている」


かつてのレヴァンでは考えられないことだった。


アルファルもそうだ。


アルの下を離れてレヴァンと共に騎士団本部へ向かうなど、本来なら自殺行為だ。


それでも二人はこの作戦を受け入れた。


互いの過去よりも、憎しみよりも守るべき物があると信じて。


「それがお前が求めていた人類の進化ってやつじゃないのか?」


元々アンドヴァリが求めていた『進化』とは、心の成長だった筈だ。


新たな物を求め、より良い暮らしを目指す向上心。


肉体的な変質ではなく、精神的な成長こそが何よりも尊い物だ。


「………」


アンドヴァリは視線を騎士達の方へ向けた。


最初と変わらず離れた距離から援護射撃をするだけで、騎士達は少しも近付いていない。


愚直にアンドヴァリの命令を守り続けている。


「…その程度では、足りないのだよ」


アンドヴァリは虚空に展開されていた光の窓を全て消した。


右腕を義手を頭上に掲げる。


「疫病。寿命の減少。既に滅びは近付いている。人類を存続させるには、根本的な変化が必要なのだ」


バチバチと音を発てて、義手から雷が放出された。


帯電する義手は光り輝き、アルへ向けられる。


「雷の、腕…」


「魔手術式『ヤルングレイプ』…接続した騎士達から魔力を吸い上げれば、こんなことも出来るのだよ」


義手を振り上げた構えのまま、アンドヴァリはアルへ向かって走り出した。


強化魔術の効果が切れたのか、動きは然程速くない。


アルは冷静にゴーレムを作り出して対処する。


「アルヴィース!」


突然、ヒルドが叫ぶと同時にアルの身体に衝撃が走った。


赤い光が自身を包み、高熱が身体を焼き払う。


それが騎士達の放った遠距離魔術だと気付き、身を振って炎をかき消す。


「チッ!」


視界を確保してすぐに映ったのは、目の前に迫るアンドヴァリだった。


帯電する義手がアルに向かって振り下ろされる。


「させないよ!」


それを割り込むようにヒルドが血の茨を放った。


鞭のようにしなった茨と義手が衝突し、爆発的な光が周囲を包み込んだ。


「ぐっ…くあ…」


「目が…」


至近距離で放たれた光に目を焼かれ、アルとヒルドは顔を抑える。


「何故、騎士達が単騎で突出した私を見ても動かないのか、考えておくべきだったな」


潰された視界の向こうでアンドヴァリは冷静に呟く。


玉座を遠隔操作すれば、騎士達の身体も自由に動かせる。


アンドヴァリは視認すれば、正確な位置に攻撃を加えることが出来る。


呼吸を合わせる必要も、合図も何も必要ない。


彼らは部下でも仲間でもなく、ただの道具でしかないのだから。


「コレは返してもらうぞ」


視力の戻ったアルの視界に入るアンドヴァリの手には、種子が握られていた。

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