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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第八十話


「アンドヴァリは恐らく、レヴァン隊長が死んだと思っています」


食事がある程度終わった頃、ヴェルンドはそう告げた。


「断言できるのか?」


「ええ。逃げ帰る騎士達は確認しましたァ。このラプチャーにアンドヴァリの目は存在しません」


深めに椅子を座ったレヴァンに対し、ヴェルンドはテーブルを軽く叩きながら答える。


全ての騎士の目がアンドヴァリの目となるが、ここはラプチャーだ。


騎士が存在せず、唯一アンドヴァリの死角となる町である。


「ですので、その隙をついてレヴァン隊長には騎士団本部への奇襲をして貰いましょう」


ヴェルンドは何でもないことのように言った。


既に死んだ者と思い、ノーマークとなっていたレヴァンの反逆。


それはアンドヴァリの想定を上回ることになるだろう。


「待て、ヴェルンド。レヴァンは人質を取られているんだ」


「知ってますよ」


真剣な顔で言うアルに、ヴェルンドは大きく頷く。


まさか、見殺しにしろとは言わない。


それに対する答えもヴェルンドは考えていた。


「玉座の力でエイトリさんの命を握られているのでしょう?」


ヴェルンドの質問にレヴァンは無言で頷いた。


「なら、アンドヴァリを玉座から引き摺り降ろせば良いんですよ」


「何だと?」


その言葉にレヴァンは思わず呟く。


アンドヴァリを玉座から降ろす。


確かに、それが出来ればエイトリは救われる。


玉座に座っていなければアンドヴァリはエイトリを操ることは出来ない。


その隙にレヴァンがエイトリの杖を破壊すれば、完全に自由の身だ。


「…しかし、どうやって玉座から降ろすのですか?」


アルファルが考え込むような表情で尋ねる。


そう、その方法が難しい。


大戦後からアンドヴァリは一度として本部を離れたことがない。


常に本部の自室に籠りきりで玉座を使用し続けていた。


余程のことがない限り、アンドヴァリを玉座から離すことは出来ないだろう。


「その方法は、アルさんが知っていますよ」


「…コレか」


ヴェルンドの何か言いたげな視線を受け、アルは懐から種子を取り出した。


「あ、それって私が飲んでた種子」


「そうです。その種子をアンドヴァリは無視出来ない」


ヒルドの暢気な発言はスルーしてヴェルンドが言葉を続ける。


種子はアンドヴァリの計画の要だ。


その種子をこちらが持っていると知れば、多少のリスクを負ってでも奪いに来るだろう。


「アンドヴァリを誘き出すつもりですか? このラプチャーに?」


「そう上手く行くかしらねー。相手は超が付くほど慎重なアンドヴァリなのよー?」


アルファルとヒルドはその作戦に異議を唱えた。


アンドヴァリは種子を手に入れる為なら多少強引な手も取るだろうが、それでも直接ラプチャーに出向くのはリスクが高すぎる。


レヴァンの存在は知らないとしても、ラプチャーにはアルとヒルドがいることをアンドヴァリは知っているだろう。


そのラプチャーにわざわざ自分の足で出向くだろうか。


「…俺はヴェルンドに賛成だ。アンドヴァリは来る」


アルは思案するような表情でヴェルンドの意見を肯定した。


「流石、軍神。理解が早くて助かります」


賛成意見を得て、ヴェルンドは嬉しそうな笑みを浮かべてアルを見る。


「何でー? どうしてー? アンドヴァリは自分が一番大切な人間なのよー? 自分にしか世界は救えないと本気で思っているような人間なのよー?」


アルの袖を掴んで子供のように引っ張りながらヒルドが聞く。


「だからだよ。自分にしか出来ない。自分だけが正しいと思う人間程、行動はシンプルになっていく」


「…どういう意味?」


「それはそれとして、アンドヴァリにどうやって種子のことを伝える?」


未だ分かっていない様子のヒルドを放置し、アルはヴェルンドへ視線を向けた。


「それなら俺が報告しますよ。普段は停止させてますが、こちらから連絡を取ることは可能ですので」


「ああ、それで頼む。俺も一つ仕込みたいことがあってな」


手の中で種子を転がしながらアルは不敵な笑みを浮かべる。


同じような笑みを浮かべる二人を見て、ヒルドは怒ったようにテーブルを叩いた。


「何よ何よー! 二人だけで分かり合っちゃってさー!」


「騒ぐな。あとで説明を頼めばいいだろうが」


「何よ! レヴァンだって話についていけなくてずっと黙ってたくせにー!」


「うっ…!」


図星を突かれて呻くレヴァン。


それを見て思わず苦笑するアル。


そんなどこか穏やかな雰囲気のまま、作戦会議は終了したのだった。








「…通信?」


騎士団本部の騎士団長室にて、アンドヴァリは首を傾げた。


玉座が杖からの通信を感知したのだ。


それだけなら珍しいことではないが、相手はヴェルンドだった。


ラプチャーにいることを見抜き、レヴァンを送り込んだ相手。


レヴァンが居合わせたアルに殺されたと聞いた時は、思わず愕然とした。


苦労して育てた駒がまた失われてしまった、と。


これでは計画に遅れが出てしまう。


「何の用だ。ヴェルンド」


多少不信感を感じながらもアンドヴァリは連絡を繋いだ。


レヴァンを失ったことで焦っていたのかもしれない。


『騎士団長様ァ! お久しぶりで…』


「要件は何だと聞いている。手短に言え」


『手厳しいですね。聞いて驚いて下さいよ! 種子を発見しました』


無理に明るく叫ぶヴェルンドの声を聞き流していたアンドヴァリは、その言葉に動きを止めた。


冷静になるように自身に命じながら、重々しく口を開く。


「…それは本当か?」


『何だったら俺と視界を共有しますか? 今なら出来るでしょう?』


「………」


すぐにアンドヴァリは瞼を閉じて、ヴェルンドと視界の共有を行った。


この場にいるアンドヴァリから意識が途切れ、ラプチャーにいるヴェルンドの視界に入り込む。


それは闘技場だった。


ラプチャーの荒くれ者達が戦い、競い合う場所。


『ほらほら! もうおしまいー? 他に挑戦者はいないかー!」


そこにいたのは、挑戦者達を気絶させて声高く叫ぶヒルド。


『私に勝つことが出来れば、約束通りこの杖をあげるわよー! この最強の杖をね!』


挑戦者を踏み付けながらそう叫ぶヒルドの手には、見慣れない杖が存在した。


凝った模様が刻まれた一本の杖。


装飾は少ないが、先端には深緑色の玉石がつけられている。


(アレは…)


間違いない。


エルフ大戦時にアンドヴァリが見つけ出し、五年前に盗まれた種子だ。


それが何故か、杖の装飾に使われている。


何故ヒルドがそれを持っている。


そもそも、ヒルドは杖を使えない筈なのに。


(…いや、それが作戦か)


あの杖を持って戦うヒルドは、周囲からどう映るだろう。


ヒルドが英雄であることを知らない者達は、あの杖に強力な魔術が秘められていると考える。


ヒルドに勝てば、それをくれると言うのだ。


誰だって挑戦しようと思うだろう。


だが、杖にはそんな効果はない。


手に入れた所で、ヒルドの持つ力が得られる訳ではない。


なら、何故こんなことをヒルドがするのか。


(アルヴィースめ…)


これは挑発だ。


このまま放置すれば、種子は杖として見知らぬ誰かの手に渡ってしまう。


種子の価値を知らない者の手に渡り、永久に行方が分からなくなる。


そうなれば、困るのはアンドヴァリだ。


(…騎士達を派遣するか?)


駄目だ。


騎士達がもし、その杖を欲したらどうする。


流石のアンドヴァリも永遠に肉体を支配することは出来ない。


杖をこの場に持ち帰るまでに騎士達に邪心が出た場合、アンドヴァリは気付けない。


(………)


人を信じられないが故に、アンドヴァリは重要な任務を人に任せることが出来ない。


全てを自分にしか出来ないと思い込んでいるが故に、計画を人に託すことが出来ない。


これが罠だと理解していながらも、アンドヴァリに選択肢はなかった。


「…いいだろう。お前の思惑に乗ってやるぞ、アルヴィース」


静かにアンドヴァリは遠く離れた敵対者に対し、そう呟いた。

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