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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第七十九話


「お前、どうしてここにいる?」


「もぐもぐ…むぐ? ッ…ゲホッゲホッ!?」


ヴェルンドは目の前に現れた男に思わず咳き込んだ。


出来るだけ目立たないように部屋の片隅で一人立食パーティをしていたのだが、遂に見つかってしまった。


「れ、レヴァン隊長! あああ、あのですね! 俺は、その…!」


「どうしてここにいるのかと聞いている」


「あ、そうだ。レヴァン隊長もアンドヴァリと戦うんですよね! だったら俺と同じだ! 仲間仲間!」


冷や汗を流しながら説得をするヴェルンドだが、レヴァンはそれを冷めた目で見ていた。


「そう慌てずとも事情は知っている。お前がアンドヴァリに『首輪』をつけられていることもな」


苦い表情を浮かべながらレヴァンは言った。


首輪をつけられているのはレヴァンも同じだ。


レヴァンはエイトリの命を、ヴェルンドは自分の命を、アンドヴァリに握られている。


ある意味、似たような境遇であるヴェルンドにレヴァンは共感を抱いていた。


「…そうですか」


「俺達はアンドヴァリと戦うつもりだが、お前は味方と思っていいのか?」


「アンドヴァリと戦う、ですか。俺はあまり役に立てなそうですね…」


手に持つ皿に乗った肉を食べながらヴェルンドは言った。


フォークを口に咥えたまま、視線を離れた所にいるアルへ向ける。


「レヴァン隊長がアンドヴァリと戦うと決意したのは、彼の影響ですか?」


「ああ、アイツのお陰だ。自慢の親友だよ」


「…親友、ね。少しだけ羨ましいかなァ」


どこか寂し気に呟き、ヴェルンドは歩き出した。


「どうした?」


「こんな俺でも、少しは役に立てることがあるかと思いまして」


そう言うと、ヴェルンドはレヴァンに手を振りながらアルの方へ歩いて行く。


アルファルの隣に座り、共に料理を食べていたアルに愛想笑いを浮かべる。


「どうも。自分も仲間に入れて下さい」


訝し気な顔をするアルの向かい側の椅子を掴み、少し荒っぽく座り込んだ。


「自分はヴェルンド。聞いているかもしれませんが、グニタヘイズの一員です」


「そうか、俺はアルヴィース。気軽にアルとでも呼んでくれ」


「存じておりますよ。アルさん」


近くに置いてあったワインをグラスに注ぎながらヴェルンドは呟く。


「あなたはアンドヴァリと戦うつもりのようですが、どのような作戦を立てているのですかァ?」


「騎士団本部に直接乗り込むのは愚策だ。だから、アンドヴァリを騎士団の手が及ばないラプチャーへおびき出すつもりだ」


「どうやって?」


その言葉に、アルは懐に手を入れる。


懐から深緑色の球体を取り出し、テーブルの上に置いた。


「ユグドラシルの種子。アンドヴァリが喉から手が出る程に欲しがっている物だ」


「ユグドラシ…ッ!」


ガタッとヴェルンドは椅子を揺らして立ち上がった。


テーブルの上に置かれた種子を凝視し、やがて落ち着いたように座り込む。


「…それをあなたが持っているとは思いませんでしたよ。確かに、アンドヴァリはそれを無視することは出来ないでしょう」


「その反応。お前はこれが何なのか知っているのか?」


「ええ。古代エルフの生み出した神秘。人類を滅ぼす為に作られた古代兵器…元々はアンドヴァリが大戦中に見つけ出した物ですが、五年前にファフニールの手に渡りました」


チラッとそこでヴェルンドはアルの隣に座るアルファルへ視線を向けた。


話すべきか、と少し悩んだ後に口を開く。


「膨大な力を秘めたコレを手に入れたファフニールはすぐに騎士団を滅ぼそうと考えましたが、コレを起動するにはエルフの力が必要でした」


「エルフの…」


「それが、アルファルだと言うのか?」


視線の意味に気付いたアルが答える。


ファフニールはエルフ狩りを行っていた。


様々なエルフを拷問し、怪物に改造したファフニールはアルファルを見つけた時に何と言っていたか。


「その通りです。そして、この事実はアンドヴァリも知らない」


「どうしてですか?」


「単純な話です。俺が報告していませんから」


あっさりと言いながらヴェルンドはグラスに注いだワインを口に運んだ。


呆気に取られるアルファルに子供っぽい笑みを向ける。


ヴェルンドがアルファルを確保しようと動いていたのはこの為だったのだ。


アンドヴァリが種子を手に入れたとしてもアルファルを保護している限り、起動することは出来ない。


最終的にはその情報を武器にアンドヴァリと交渉するつもりだったのだろう。


「ですから、この事実だけはアンドヴァリに知られないように。万が一、種子とアルファルさんがアンドヴァリの手に渡れば、世界の終わりです」


「…それは、具体的にどうなる?」


「アンドヴァリには『フリズスキャルヴ』と呼ばれる玉座があります。全ての騎士の杖と同調し、視覚や聴覚、時には意識すらも奪い取る支配者の杖………俺が作った物です」


僅かに悔いるような言葉を呟きながら、ヴェルンドは言葉を続ける。


「それに種子が加われば、帝国中を見据えた上でいつでも好きな場所に雷霆を落とすことが出来る。犯罪者や反逆者、その素質のある者、不信感を感じた者、帝国に不要だと思った者…全て」


その基準はあくまでもアンドヴァリの物だ。


アンドヴァリだけの価値観で選ばれ、裁かれ、奪われる世界。


「比喩ではなく、アンドヴァリの手の上に存在する世界となります。誰もがアンドヴァリの顔色を伺いながら生きることになる。そんな世界、終わっているでしょう?」


簡単に言えば、それは世界征服。


普通の人間なら考えもしない、悪い夢。


しかし、アンドヴァリはそれを実行に移す男だ。


どれだけ周囲に反対されても、独善を貫き通す。


アルはそのことをよく知っていた。


「…それを実現させる訳にはいかないな」


強い決意を持って、アルはそう呟いた。


「その通りです。例え常に正しい道を示されるとしても、自由を奪われた時点で生きているとは言えない」


自由を奪われることがヴェルンドの最も嫌うこと故に。


「…だから俺は種子を盗み出し、ファフニールに渡した」


罪を告白するようにヴェルンドは言った。


種子を得たファフニールがエルフと人間にどれだけ被害を出すとしても、アンドヴァリが持つよりはマシだと信じて。


世界平和の為ではなく、あくまで自身の為だけにヴェルンドはアンドヴァリを欺いた。


「忠告しておきますが、俺は自分の為だけに生きている。あなた方の味方をするつもりではありますが必要以上に信用しないで下さい。俺は、心無い悪人ですので」


自虐するようにヴェルンドは言った。


余裕があるからこそ、人間は他者に優しく出来る。


自分の命さえ自分の物ではないヴェルンドには余裕などない。


裏切るくらいなら初めから信用などされたくない。


そんな思いを正直に告げる。


「別に自分の為に生きることは悪いことではないだろう」


「…?」


アルの言葉にヴェルンドは首を傾げた。


自分よりもアルファルを優先するアルがそれを言うのか。


誰よりも他人の為に生きるアルの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。


「善人も悪人も結局のところ、自分の為に生きている。俺だって誰にも強制されず、自分の好きなように生きている」


アルはヴェルンドの目を真っ直ぐ見た。


その目に宿る後悔と罪悪感。


自分に近い物を感じながら言葉を続ける。


「玉座を作ったこと、後悔しているみたいだが同じ杖職人として俺は凄いと思っている。全ての騎士の杖を接続することなんて、俺には出来ない」


「それは…」


「お前の作った杖がどれだけの人間の助けになったか。どれだけの人間を救ったか」


現在騎士達が持つ杖の殆どはヴェルンドの作品だ。


騎士達が犯罪者と戦う時、ヴェルンドの杖がどれだけ役に立ったか。


どれだけの命を救ったか。


自分のことだけを考えて作った杖が、結果的に人を救った。


同じだった。


自分の好きなように生きた結果、他者を救ったアルと。


「…あぁ、参ったなァ」


手で顔を覆い、ヴェルンドは呻く。


「アルさんって、アンドヴァリとは違う意味で人たらしですね。そういう事を恥ずかし気もなくあっさりと口に出来るなんてさ」


少し気恥ずかしそうに吐き捨てるヴェルンド。


誤魔化すようにワインを一息に呷った後、僅かに酔った目でアルを見る。


「微力ながら、あなたに協力させてもらいますよ。俺はあなたの味方になりたい」


それはヴェルンドには珍しく、嘘偽りない素直な言葉だった。

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