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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第七十四話


「この町にいるのは確かなんだが…」


偽装した杖を握りながらアルは呟いた。


木製の指輪を覗き込むが、それ以上のことは分からない。


元々迷子探し用の簡単な術式である為、大雑把な位置しか分からないのだ。


近くにいるのは分かっても、ラプチャーは人が多い。


あまり目立つことが出来ないアルファルを見つけるのは、至難の業だ。


「よく分からないけどー、相手が見つからないなら、自分が見つけて貰えばいいんじゃない?」


アルの作って貰った形だけの杖を振り回しながら、ヒルドは言う。


「どういう意味だ?」


「つまりー、あっちがすぐに分かるくらいにこっちが目立てば良いんだよー」


ヒルドは楽し気な笑みを浮かべてそう言った。








「だからと言って、コレはないだろう」


ワーワーと大地を震わす声援を浴びながらアルは仏頂面で呟く。


乾いた砂煙が吹き荒れる平らな砂地。


逃げ場を塞ぐように鉄の壁に覆われた円状の戦場。


そこは、闘技場だった。


「つーか。何で俺がエントリーしてるんだよ。お前がやれよ、ヒルド」


血を含んだ赤い土を踏み締めながら、アルは観客席を見上げる。


熱狂する人々の中に、ヒルドの姿があった。


遠目でも分かる程に目を輝かせて、アルに手を振っている。


何と言うか、父親の活躍を期待する娘のようだ。


「…まあ、悪いことばかりでもないか」


アルは懐に入れた深緑色の宝玉を手の中で転がす。


そんなことをしている内に、アルの対戦相手が入場してきた。


レヴァンやフェンリルには負けるが、屈強な肉体の男だった。


「お前、新入りか? 弱っちそうな奴だなぁ」


ズンズンと近寄ってきた男が馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「初試合が俺の相手とは残念だったな! この俺は…!」


「…いや、いい。自己紹介は要らない」


脳味噌まで筋肉で出来ていそうな男の言葉を遮り、アルは顔の前で手を振った。


アルの視線は男の鋼のような肉体よりも、その腕に握られた柱のように太い石の杖に向かっている。


「石に刻む杖とは変わっているな。そんなの重いだけだろうに。何か意味があるのか?」


無骨な杖を見ながら興味深そうに唸るアル。


「木よりも魔力は通しにくい筈だし、杖自体の耐久度を上げる為か? だが、それにしたってここまで巨大な石を用意する必要は…」


「この杖のことか? これはこうやって使うんだよ」


筋肉質な男がアルの視線に気づいた時、銅鑼が鳴り響いた。


それを合図に、男は石の杖を思い切り振り上げる。


「潰れろや! おらァァァ!」


ズドン、と男は柱のような石の塊をアルに向かって叩き付けた。


魔術など一切使わずに、単なる腕力で。


石の柱に見える杖の質量をそのまま武器として使っていた。


「がっはっは! この俺が軟弱な魔術なんて使う訳ねぇだろ! 杖なんて下ら…」


「……お前は」


振り下ろした石の柱の下から底冷えするような声が聞こえた。


不意打ちで叩き付けられた石の柱をゴーレムで受け止めたアルが、極寒の視線で男を見ている。


「お前は、杖を侮辱したな。魔術も使わず、魔力も通さず、ただ叩くなど杖の冒涜だ」


何か琴線に触れたのか、かつてないほど怒り狂いながらアルはゴーレムを操る。


石の柱が根元からあっさりと砕かれた。


「少し期待していたのに。戦いは好きじゃないが、他人が作った杖に触れられる機会だと思ったのに…!」


アルの身体がわなわなと怒りに震える。


それに合わせる様にゴーレムの身体もカタカタと武者震いした。


「ヒッ! ま、待っ…グェェ!」


思わず逃げようとした男の背にゴーレムが片足を乗せる。


超重量のゴーレムに踏まれて、男の身体が地に沈んだ。


潰された蛙のような声は聞きもせず、ゴーレムは段々と体重をかけていく。


「少しずつ重量を上げていくぞ、力自慢。死にそうになったら泣き叫べ」


「ぎゃ、ぎゃあああああ!? ギブ!? ギブアップです!?」


男の情けない悲鳴を聞いて、決着の銅鑼が鳴らされた。


見たこともない魔術で一瞬で決着を付けたアルに、観客は大きな歓声を上げた。


その中にはヒルドも混じっていたが、アルは酷く残念そうな顔のままだった。








「そこで止まれ! 騎士がこの先に何の用だ!」


呼び止める声を他人事のように聞きながらレヴァンは馬車を降りる。


後ろから慌てて他の騎士達が追いかけてくるが、急ぐように足を進めた。


「止まれと言っているだろう! ここはラプチャーだ! 帝国法もこの町では通用しないぞ!」


「舐めやがって、偽善者共め! ここで殺してやる!」


殺気だったラプチャーの住人が、レヴァンへ杖を突き付ける。


それさえも、興味の無さそうにレヴァンは無感動な眼を向けた。


「ラプチャー。グニタヘイズ………アンドヴァリからの伝言だ。お前達はもう、帝国に必要ない」


レヴァンの手元から炎が出現し、杖を構えていた者達を焼き尽くす。


断末魔すら上げられずに焼死していく者達を眺め、レヴァンは再び歩き出す。


炎がレヴァンの全身を包み込み、レヴァンの歩いた場所には炎の道が出来ていた。


「犯罪者の巣窟。ラプチャーは今日、帝国から消える」


レヴァンは表情のない顔で、そう呟いた。

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