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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第七十三話


意識が混濁する。


帝国中に存在する全ての騎士の思考と記憶、あらゆる情報が収束される。


喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。


様々な感情が音や光となって、一人の人間に流れ込む。


それは情報の海。


たった一人の自我など、溶かしてしまう暴力的な情報の奔流。


(…少し、眠っていたようだな)


玉座に座りながらアンドヴァリは目を覚ました。


(私は…まだ『私』のままか?)


この玉座に座る度に、アンドヴァリと言う人間の自我は薄れていく。


アンドヴァリの精神は情報の渦に飲まれ、少しずつ『個』が消失する。


あらゆる物事を客観的に捉えることしか出来なくなり、人間らしい思考が失われる。


既に、アンドヴァリの人格は取り返しのつかない所まで来ている。


レヴァン、ヴェルンド、アルヴィース。


相手によって態度や口調、性格までが変化したのは演技をしていたからではない。


相手に合わせて性格が変わる程に、アンドヴァリの人格が崩壊していたからだ。


最早、アンドヴァリの自我は殆ど残っていない。


それでもアンドヴァリは、自身の成すべきことだけは覚えている。


それさえ分かっていれば『心』など必要ない。


「…来たか」


その時、思考に耽るアンドヴァリの前で扉が開かれた。


扉が軋む程に荒っぽく扉を開けた長髪の大男は、肩を揺らしながらアンドヴァリの下へ近づく。


「この俺様を呼びつけるとは、一体どういうつもりだ?」


長髪の大男の正体は、フェンリルだった。


本部を単身で襲撃し、レヴァンによって倒された犯罪者。


辛うじて一命は取り留めていた為、今までは監獄に入れられていた筈だが、唐突に解放されたのだ。


フェンリルの目の前に立つ男の命令によって。


「お前をここまで連れてきた騎士には何も聞かなかったのか?」


「ハッ。俺様を騎士団で『使う』と言っていたな。つまらない冗談だ」


「冗談ではない…『元騎士』を、騎士団に迎え入れることがそんなに不思議か?」


アンドヴァリの言葉に、フェンリルは驚いたように目を開く。


僅かに警戒したような雰囲気で言葉を続けた。


「…どうして、それを知っている?」


「どうしても何も。私は大戦前から騎士団長の地位にいる。当時の部下のことくらい覚えているさ」


何でもないことのようにアンドヴァリは言った。


アンドヴァリは共に戦った騎士の名を全て覚えている。


フェンリルはレヴァンやシグルズよりも少し前に入隊した騎士だ。


レヴァンが気付かなかったのは、関わりが薄かったからだろう。


「魔術実験に志願したのもレヴァンよりお前の方が先だったな。結果は、失敗だったが」


「………」


フェンリルは何も答えない。


誰よりも先に魔術実験に志願しながらも、魔術師となることが出来なかった。


英雄になることが出来なかった過去。


フェンリルが英雄と力に執着する理由は、そこにあるのかもしれない。


「お前の願いは理解している」


「…俺様の何を理解していると言うんだ?」


「お前は認められたいだけなんだろう? 自分の力が英雄を超えていると」


表情の読めないアンドヴァリの細い眼がフェンリルを射抜く。


「私の計画に協力しろ。そうすれば、お前は私と共に世界を救った英雄だ」


「は。世界を救うとは、大きく出たな。それで誰が俺様を認める?」


「全てだ。計画が達成した暁には、全ての人間がお前を英雄と讃え、認めることだろう」


アンドヴァリの言葉は確信めいていた。


何一つ自分の考えが間違っていないと言うように。


何も不安などないように聞こえた。


「そこまで言うなら聞かせて貰おうか。お前の計画と言うやつを」


関心を抱いたように不敵な笑みを浮かべてフェンリルは尋ねる。


「『ユグドラシル計画』…人類を余すことなく救済する計画だ」


常人を逸脱した男は、静かに自らの目的を語った。








「………」


馬車に揺られながらレヴァンは無言で外の景色を眺めていた。


その傍らにエイトリの姿はなく、代わりに見知らぬ騎士が数名、レヴァンの前に座っていた。


馬車の行き先は、ラプチャーだ。


アンドヴァリから受けた命令はアルファルの確保。


それに加え、場合によってはヴェルンドも拘束するように命じられている。


アンドヴァリ曰く、関所の騎士に不信感を感じたらしい。


そんなことが出来る人物は限られているし、以前アルファルの存在を隠蔽したことも考えヴェルンドの仕業だと断定された。


何を企んでいるかまでは分からないが、ヴェルンドとアルファルは共にラプチャーにいるだろうと。


「………」


ヴェルンドの所業は騎士団を裏切ることと同義だったが、レヴァンは怒りが湧かなかった。


アンドヴァリの所業を知り、それから逃れようとするヴェルンドにレヴァンは同情すら感じていた。


自身もまた、ヴェルンドと同様に『首輪』を付けられてしまった。


何も知らないエイトリは本部に残され、常に命を握られている。


「………」


代わりに付けられた騎士達がどこまで聞かされているかは知らないが、彼らの持つ杖によってレヴァンの動向は常に監視されている。


万が一にでも裏切ろうとすれば、即座にエイトリは自害を強要されるだろう。


レヴァンはもう、アンドヴァリに逆らうことは出来ない。


「…ッ」


やるせない気持ちを抑える様に、レヴァンは拳を握り締めた。

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