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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第七十話


ユグドラシルの種子。


古代エルフが人類を滅ぼす為に作り出した古代兵器であり、暴走すれば怪物を生み出してしまう危険物。


アンドヴァリが探し求めている物であり、コレを手に入れる為にアルファルの身も狙っている。


「それが、どうしてお前の口から出てくるんだよ!」


「森で拾ったのよー」


事の重大さを理解していないのか、呑気そうにヒルドは言った。


「アルヴィースと戦った傷を治した後、私は怪物と戦う二人を眺めてたのー」


「…それで?」


「それでー。レヴァンが現れて二人が逃げたのを見届けたら、怪物の中からコレが出てきたのー」


「………」


「変な色の石だなって思ったんだけど、何か気になったから持っていくことにしたのー」


つまり、ワームが倒された直後、アル達がレヴァンに追われている時にヒルドは近くにいたのだ。


そして誰よりも早くワームの遺体から種子を回収し、持ち去った。


「…なら、どうして飲み込んでいたんだよ」


「えっと、あの後さ。アルヴィースを助ける為に私、魔術を使ったじゃん」


「…使ってたな」


ヒルドの言うようにあの時、ヒルドはアルを守る為に魔術を発動していた。


レヴァンの眼を覆い隠す血の霧を。


「私、魔術を使う時は敵に傷を付けて貰うか、自分で用意した毒薬を飲み込むんだけどさー」


「…おい、まさか」


「キハハハ! 間違って飲み込んじゃっ…痛い!」


話の途中でアルはヒルドの頭に拳骨を落とした。


「な、何で殴るのよ! どうせなら斬ったり刺したりしてよー!」


「やかましいわ! お前、それ持ってたファフニールがどうなったか知っているのか!」


どう言う条件で種子が人を怪物に変えるのかは未だ不明だが、それを体内に取り込むなど正気の沙汰とは思えない。


下手すれば、今度はヒルドがワームの姿に変貌していたかもしれないのだ。


「何でそんなに怒っているのよー」


「怒っているんじゃなくて心配しているんだよ! 全くお前は昔から無茶ばかり…!」


「…心配?」


きょとん、とした顔でヒルドは首を傾げた。


誰かに心配されることなど、久しく経験していないことだった。


「清廉潔白に生きろとまでは言わんから、せめて無鉄砲な生き方だけはやめろ」


「そうすればアルヴィースは喜ぶのー?」


「喜ぶと言うか…安心する」


「………そっか」


複雑そうな表情でヒルドは頷いた。


今まで誰かの役に立ちたくて、誰かに必要とされたくて行動し続けたが、そんな感情を向けられたことは一度もなかった。


能力を研ぎ澄ます程に人から恐れられ、拒絶される度に孤独感は強くなっていった。


方法を間違えたまま、幼児のように人の愛情を求め続けた。


「…ああ、そんな顔をするな」


俯いたヒルドを見て落ち込んだと思ったのか、アルはその頭に手を置く。


「何はともあれ、お前が種子を持っていたことは俺達にとって有利に働くだろうさ」


「有利?」


「そうだ。お前のお陰で、アンドヴァリを出し抜くことが出来るかもしれない」


頭から手を離し、アルは地面に転がる種子を拾い上げる。


一見、変わった色の石にしか見えないこの物体にはアンドヴァリが危険視する価値がある。


コレはアンドヴァリと戦う上で切り札となる筈だ。


「お前のお陰って言った……私の、お陰………キハ…えへへへへ」


「…おい、もう休憩はいいだろう。行くぞ」


何やら幸せそうに笑っているヒルドを掴んで騎馬に乗せ、アルは再び騎馬を動かした。








帝国最北部ノーブル。


騎士団本部、騎士隊長室にて。


溜まった書類を片付け、レヴァンは自室で読書をしていた。


侵入者フェンリルに手こずってアル達を逃がしてしまったのは失態だが、未だ追跡の任務は与えられていない。


事態が落ち着くまで自室で待機するようにアンドヴァリの命を受け、レヴァンはそれに従っていた。


(…どうして、大人しくしていなかったんだ)


本を読み進めながら、レヴァンは内心思う。


脱獄したことでアルの立場は余計に悪くなってしまった。


コレが国家反逆と見なされれば、レヴァンはアルを殺さなければならなくなる。


(…俺は)


レヴァンはそんなことをする為に魔術を身に付けたんじゃない。


この魔術は、この力は…


「レヴァン隊長…?」


「ッ! エイトリ、か」


突然聞こえた声に、レヴァンは部屋の入口へ目を向ける。


そこには心配そうな表情を浮かべたエイトリが立っていた。


騎士隊長であるレヴァンの補佐をする役目を与えられた騎士。


大戦が終わった後に入隊してきた騎士の内、レヴァンのパートナーに相応しい能力を持っていた為にアンドヴァリの推薦を受けて補佐となった少女。


自身を英雄と慕う少女の眼は、レヴァンの励みになると同時に重みにもなっていた。


大戦の悲惨さを知らず、純粋に英雄に憧れる騎士。


その理想を体現する為、努力し続けた。


「…レヴァン隊長は、無理をしていませんか?」


「何だと?」


レヴァンの心臓が跳ねた。


心を殺し、感情を顔に出さず、完璧な騎士を演じ続けた。


故にそんな言葉を言われるのは、初めての経験だった。


「何故、そんなことを聞く?」


内心の動揺を隠しながら、レヴァンは尋ねる。


「…私、ずっとレヴァン隊長は迷いのない人だと思っていました。英雄と呼ばれる人は、皆私なんかと違って完璧なんだって」


それは、恐らく騎士の殆どが考えていることだろう。


英雄は凡人とは違う。


故に騎士達の理想となり、導く存在となる。


そうなるように、レヴァンは努力してきた。


「軍神アルヴィースと戦うレヴァン隊長を見て、それは間違いだと気付きました」


悲し気な目でエイトリはレヴァンを見た。


「エルフを庇ったアルヴィースをあなたは憎まなかった。殺意を向けなかった。完璧な騎士なんかじゃなかったんです…!」


考えてみれば当然のことだった。


騎士団に悪と判断されたからと言って、親友を躊躇なく殺せる筈がない。


それは確かに正義の騎士に相応しいが、人としての心が欠落している。


「きっと、レヴァン隊長は私なんかよりもずっと悩んでいた。完璧であり続けることを私達が望んだから! それに応える為に一人で苦しんでいた!」


エイトリの眼から涙が零れ落ちる。


英雄とて、心を持った人間だった。


そのことを忘れ、騎士達はレヴァンに理想を押し付け過ぎた。


それがレヴァンを苦しめていることにも気付かずに。


「…私は迷ってなど、いない」


それでもレヴァンは仮面を被り続ける。


騎士達の模範であれ。


そう自身が望むが故に。


「騎士団の正義は俺の正義だ。俺は騎士団の魔剣レヴァン。騎士団が悪と判断した者を焼き払う炎だ」


迷いなど一切感じられない眼でレヴァンはエイトリを見つめる。


その眼は今まで見てきたレヴァンと何ら変わらなかったが、今となってはどこか脆く見えた。


「隊長は、本当に自分の行いが正しいと思っていますか?」


「…何を言っている?」


「軍神アルヴィースに言われたんです。自分の中の正義と騎士団の正義が何なのか理解しろ、と。与えられた正義を信じるなと」


騎士団を妄信するエイトリに対して言われた言葉だったが、それはレヴァンにも当てはまった。


騎士団の正義は自分の正義、とレヴァンは断言した。


それはエイトリと同様に、騎士団を妄信するあまり与えられた正義のみを信じていると言えるだろう。


「――――アルヴィース、が」


レヴァンはショックを受けた様に、自分の顔に片手を当てた。


「…私は、隊長ほど騎士団のことを知りません。ですが、隊長のことは心から信じています」


エイトリはレヴァンに近付き、もう片方の腕を両手で掴んだ。


「もし、隊長の正義が騎士団の正義と違うのだとしても、私はどこまでもついて行きます」


涙を滲ませながらもエイトリは真っ直ぐな瞳でレヴァンを見た。


「…俺は」


レヴァンの身体が大きく震えた。


激情を抑える様に、レヴァンの顔が歪む。


「俺は…! もう誰も傷つけない為に、この力を手に入れたんだ!」


思い出すのは、未熟だった故に起こった悲劇。


レヴァンが油断したせいでアルに永遠に残る傷を負わせてしまった罪。


「敵を誤らず、皆を守る為、俺は心を殺した! それなのに…!」


それなのに、アルは敵としてレヴァンの前に現れた。


アルを守る為に手に入れた力を、アル自身に振るう結果となってしまった。


「俺は、アイツを殺したくないんだ…」


最後に、レヴァンは隠し続けてきた本音を告げた。

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