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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第六十七話


「先程の騎士は気にしなくて良いですよ。あなたが誰であろうと危害を加えることはありません」


関所の一室に案内しながらヴェルンドは穏やかな声で言った。


部屋にあったティーセットが用意されたテーブルに着く。


「どうぞ、遠慮なく座って下さい」


自分が腰掛けた椅子の対面を指差し、温厚そうな笑みを浮かべるヴェルンド。


「………」


当然ながら、アルファルは警戒した態度を崩さなかった。


促された椅子に座ることなく、ヴェルンドを冷静な眼で観察する。


恐らく、騎士団の関係者と思われる目の前の人物は、アルファルの正体に感付いている。


騎士団が最も嫌うエルフだと理解しているにも関わらず、何故か部下を退かせて部屋へ案内した。


一体何を考えているのだろう。


「…やれやれ、善意を無下にされるのは辛いですねェ」


アルファルの態度を見て、ヴェルンドも貼り付けていた笑顔の仮面を破った。


どこか疲れたような怯えたような暗い視線がアルファルへ向けられる。


(…?)


その視線に、アルファルは何故か既視感を感じた。


どこで見たか思い出せず頭を捻るアルファルに、ヴェルンドは深い息を吐く。


外見は少年そのものであるにも関わらず、老人のような疲労感が漂うため息だ。


「最初に説明しておきますと、俺は騎士団の人間ではありません」


「え…だって」


「ファフニールはご存知でしょうかァ?」


思わず何か言おうとしたアルファルの言葉を遮り、ヴェルンドは言った。


ファフニール。


騎士団の反逆する組織『グニタヘイズ』のリーダー。


アールヴの森でアルファルを狙い、戦いの末に命を落とした女だ。


「俺は元々ファフニールの下に送り込まれたアンドヴァリのスパイです」


ヴェルンドは何でもないことのように告げた。


特に周りを気にすることなく、テーブルに置かれた紅茶を飲みながら続ける。


「そして、今は逆に騎士団の情報をグニタヘイズに流しています。二重スパイと言うやつですよ」


「…つまり、騎士団を裏切ったってことですか?」


「そうなりますかねェ。ユグドラシルの種子を盗んでファフニールに与えたのも俺ですし」


「ユグドラシル?」


「ああ、それについては後で話しますよ」


そう言うと未だに座ろうとしないアルファルへヴェルンドは視線を向ける。


「…そろそろ座りませんか? 上から見下ろされるのって、苦手なんですよ」


元々小柄な背丈が座って一層小さくなったことを気にしながら、ヴェルンドは苦い顔をする。


縦長帽子や厚底ブーツを身に付けていることから察するに、自身の背丈を気にしているのだろう。


「…分かりました」


渋々椅子に座りながらアルファルは視線を外へ向ける。


今更だが、外に騎士達がいる状況でこんな話をして良かったのか。


「外にいる騎士達もグニタヘイズの息がかかった者達ですよ。彼らの杖には細工をしてあるので、アンドヴァリに知られることもありません」


それに気付いたヴェルンドが安心させるように言う。


「とは言え、いつまでもここにいる訳にはいきませんねェ。すぐに『ラプチャー』へ向かいましょう」


「ラプチャー?」


「この大陸の東の果て。帝国領を超えた先。騎士達すら迂闊に手が出せない無法地帯ですよ………あなたもフェンリルに言われてそこを目指していたのでは?」


「…私がその場所を目指していたのは、アルに言われたからです」


「アル?………ああ、軍神アルヴィースのことですか」


少し意外そうな顔をしてヴェルンドは頷いた。


アルと面識がない身としては、エルフに好意的な英雄と言う姿が想像できなかったのかもしれない。


「ラプチャーはグニタヘイズの本拠地でもありますし、俺と一緒なら安全でしょう」


「………」


とんとん拍子で話を進めるヴェルンドに、アルファルは再び不審そうな視線を向けた。


「…どうして、私を助けようとするのですか?」


騎士団に義理立てする立場ではないことは理解した。


エルフを見ても捕えるつもりがないことも理解した。


しかし、だからと言ってここまで面倒を見る理由はない。


余計なことをして騎士団にスパイであることが発覚すれば、ヴェルンドはただでは済まない。


そのリスクを負ってでもアルファルに協力する理由は何か。


「…見返りを求めない正義感ほど胡散臭い物はないですよねェ。だから、正直に言います。あなたに見返りを求めるつもりだし、あなたを利用するつもりです」


ヴェルンドは偽りざる本心を告げた。


自然とアルファルの警戒心が強まる。


「…ファフニールのように、拷問や実験を行うつもりですか?」


アルファルはファフニールの所業を覚えている。


情報を聞き出す為に拷問にかけ、更には怪物に変えて使役していた。


今でもそれを思い出すと、心が冷え切る。


「そんな非生産的なことをするつもりはありません。俺は悪人ですが、無益な犠牲を出すことは嫌いです」


紅茶の入ったカップを置き、ヴェルンドは真っ直ぐアルファルを見る。


「何より、ここまで人間の都合で食い荒らしたエルフの生き残り………それを意味もなく踏み散らす程、外道ではないつもりですよ」


感情が抜け落ちたような無表情でヴェルンドは吐き捨てた。


(この人…)


ヴェルンドの顔に表情はなかったが、その眼が心に秘めた感情を物語っていた。


エルフに対する憐憫と罪悪感。


後悔と悲哀が混ざったその眼は、どこかアルによく似ていた。








同じ頃、帝国北部ノーブル付近にて。


フェンリル襲撃の混乱に乗じてアルとヒルドの二人は脱獄に成功していた。


町を出て、度々後ろを気にしながらも一度休憩を取っていた。


「…追っては来ていないようだな」


地面に手をつきながらアルは呟く。


少なくともアルの探知能力の範囲内にはいないようだ。


思わず、安堵の息が口から出てしまう。


ここに来るまで走りっぱなしだったので、呼吸も乱れていた。


「アルヴィース。疲れてるなら疲労回復のキスしてあげよっかー?」


「別の意味で疲れそうだから要らん」


「遠慮しなくていいのにー。それより、これからどうするのー?」


ヒルドの言葉に、アルは懐から木製の指輪を取り出した。


簡易な陣が刻んであるそれを眺め、空を見上げる。


「それ何?」


「…アルファルに渡していた指輪の片割れだ。大体の居場所を掴める」


アルファルの持つ指輪から信号を受信するだけなので、これ自体を扱う魔力は必要はない。


本来杖を扱えないアルでも使用できるように作った指輪だった。


「この方角は…東か」


アルの行き先が決まった瞬間だった。

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