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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第六十五話


「今の、音は…!」


グラグラと揺れる床にふらつきながらエイトリは天井を見上げる。


上の階から破壊音が聞こえた。


ぶつかり合う強大な魔力を二つ感じる。


片方はレヴァンだが、もう一方は知らない物だ。


アルがここにいる以上、レヴァンと戦っているのはアルではない。


エイトリの知らない侵入者とレヴァンが交戦している。


「心配なら、行ったらどうだ?」


心配そうに上を見上げるエイトリを見かねた様にアルはそう告げた。


エイトリはハッとなって、アルへ目を向ける。


「いけません。貴方達をここで見逃す訳には…」


「それは、君自身の意思か?」


「ッ!」


ピタリ、とエイトリの動きが止まった。


口を固く閉じたまま、視線だけが天井とアルの間で揺れる。


しばらく迷うように震えた後、深く息を吐きだした。


「…私は、私の信じる正義に従って、レヴァン隊長を助けに行きます」


アルに背を向け、エイトリは呟くように言った。


レヴァンの助けとなることが、エイトリ自身の正義であるが故に。


「今の私では、貴方を悪と思うことが出来ない」


アルの言葉を聞いたことでエイトリには迷いが生まれてしまった。


エルフは本当に悪なのか。


それを救おうとしているアルは本当に敵なのか。


この迷った心では、アルと戦うことは出来ない。


「…だから今は、見逃します」


ポツリ、と小声で言いながらエイトリは階段を駆け上がっていく。


「あ! おーい、エイトリちゃーん!」


そのまま去ろうとしていたエイトリを呼び止め、ヒルドは手の中に収まる程度の小瓶を投げ渡した。


「…?」


「それ、私の血薬。魔力が込めてあるから、レヴァンが怪我してたら使ってあげてー」


受け取った小瓶に首を傾げるエイトリにヒルドはニコニコと笑いながら言う。


それに軽く頭を下げ、エイトリは今度こそレヴァンの下へ向かった。


そんなやり取りをアルは意外そうな顔で眺めていた。


「珍しいな。お前がレヴァンに手を貸すなんて」


「レヴァンなんかに手は貸さないよ。私が手を貸したのは、エイトリちゃんの方よー」


「それも珍しいな。エイトリの何がそんなに気に入ったんだ?」


アルの言葉に、ヒルドはニンマリと機嫌良さそうに笑う。


「レヴァンのことを話すあの子からラブの匂いがしたからよー。私は恋する乙女の味方なのー」


「…そう」


想像以上に下らない理由だった。


まあ、人の迷惑にならないなら別に構わないだろう。


そう話しながら、二人も階段を駆け上がる。


誰だか知らないがレヴァンは侵入者の対処に追われている。


逃げ出すなら今の内だろう。








「はは! はははは! 英雄レヴァンですら、本気を出した俺様の敵ではないか!」


肉食獣のような笑みを浮かべてフェンリルは拳を振るう。


建物を破壊しながら振り下ろされた巨人の拳を真っ向から迎え撃ち、それを打ち破った。


灼熱の拳に亀裂が走り、巨人は悲鳴を上げる。


レヴァンの魔術が敵対する者全てを焼き払う炎なら、フェンリルの魔術はそれさえも滅ぼす破壊の力。


物を破壊する、と言う一点に於いてフェンリルの魔術はレヴァンの魔術を上回っていた。


(…何故だ。時が経つ事に奴の魔力が増大している)


レヴァンは炎を操りながら、苦い表情を浮かべる。


『ムスペルヘイム』は敵対者に合わせて威力を増す炎だ。


フェンリルが炎を打ち消すのなら、それを超える炎を放てばいい。


そう考えて戦っている間にも段々と炎は勢いを増しているのだが、フェンリルの魔力の上昇速度はそれを上回っている。


身に纏う魔力を打ち破り、微かに火傷を負わせた次の瞬間にはフェンリルの魔力が増大する。


常にレヴァンを超える魔力を維持しており、レヴァンはフェンリルにダメージを負わせることが出来ないままだった。


(…手段を選んでいる余裕はないか)


「『枝の破滅』」


どす黒い炎がレヴァンの手に集まる。


煮え滾る溶岩にも似たそれは、一振りの剣。


制御を捨てたレヴァンの切り札だった。


「それがお前の全力か? 英雄レヴァン!」


黒炎の剣が放つ魔力を感じながら、フェンリルは尚笑みを浮かべる。


あの剣に触れれば、魔術を破壊するフェンリルとてただでは済まない。


それを理解しながらも、フェンリルは狂喜した。


「素晴らしい! 素晴らしい力だ! それでこそ英雄! それでこそ俺様が超えるべき存在!」


フェンリルの手錠に刻まれた陣が一層強い光を放つ。


その光に呼応するように、フェンリルの肌にも薄っすらと陣が浮かび上がっている。


「肉体に、陣だと…!」


「はァァァァ! 英雄レヴァン! 最期に俺様の『全力』を見せてやろう!」


陣の光が強まる程にフェンリルから感じる魔力と威圧感が倍増する。


それは最早、全力を出したレヴァンすら凌駕し、尚上昇し続ける。


このままでは、レヴァンは敗北する。


騎士団が崩壊してしまう。


「それだけは、させん!」


レヴァンは騎士隊長だ。


全ての騎士の支えとなる存在だ。


ここでこの怪物と共倒れになることになろうと、騎士団を守り抜く。


黒炎の剣を構え、レヴァンは走り出した。


魔力がこれ以上上がる前に、仕留める。


そんなレヴァンの焦りを見透かしたように、フェンリルは笑みを浮かべて拳を振り上げる。


「聖楯術式『スヴェル』」


レヴァンへと振り下ろされたその拳は、氷の盾によって阻まれた。


「何…!」


氷の盾に触れた部分からフェンリルの身体が凍り付いていく。


高揚していた気分が強制的に冷やされ、フェンリルは憤怒の表情を浮かべる。


「邪魔をするな、女ァ!」


決闘に水を差した少女を睨み、フェンリルは叫ぶ。


殺意の込められた視線を浴びながら、少女エイトリはレヴァンを見た。


「レヴァン隊長!」


それが合図だった。


氷に覆われて身動きを封じられたフェンリルに黒炎の剣が振り下ろされる。


黒炎の剣は敵に触れると同時に爆発し、その爆風でフェンリルの消し飛ばした。


フェンリルの身体は黒炎の中に飲み込まれ、やがて動きを完全に止めた。

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