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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第四章 アゴニー
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第六十話


現代。


アルフヘイム帝国最北部『ノーブル』にて。


帝国騎士団の本拠地であるその町は、誰もが魔術を使う『魔術都市』だ。


住人は貴族と騎士、残りはその関係者のみで全ての者が杖を所持している。


人々の生活は魔術によって発展し、治安も騎士達によって維持されている帝国で最も安全な町だ。


とは言え、どんなに安全な町にも犯罪と言う物は起きる。


他の町に比べれば極少数だが、ノーブルにも犯罪者が出ることがある。


そんな時はすぐに騎士が駆け付け、杖を持った犯罪者を捕縛する。


魔術師の犯罪者は普通の監獄ではなく、ノーブルに存在する『特殊監獄』に収監される。


その場所は帝国中の魔術師を死ぬまで幽閉する監獄であり、その牢が破られたことは一度もなかった。








「新入り。おい、新入り! 起きろ!」


光すら差し込まない暗い地下監獄で、アルは眼を覚ました。


かび臭い匂いに顔を顰めながら、キョロキョロと辺りを見回す。


鉄格子の向こう側に荒々しい風貌の騎士が立っていた。


看守らしき男は鉄格子の隙間から簡素な食事を入れる。


「おら、飯だ。早く食べろ」


「………」


ぼんやりと手に眼を向けると、アルの手には手枷が付けられていた。


ジャラジャラと伸びた鎖は重そうな鉄球に繋がっている。


「…コレ、食事の時ぐらい外してくれない?」


「駄目だ。そのままでも食べられるだろう」


「…むぅ」


何となく腕を振っていると、身体に痛みを感じて顔を歪める。


どうやら、レヴァンに焼かれた火傷がまだ治っていないようだ。


ますます不機嫌そうな表情になりながら、取り敢えず盆に乗ったパンを取る。


「…思ったより若いな。一体、何の罪を犯してここに来たんだ? 殺しか?」


パンを食べることに苦戦していると看守が不思議そうに呟いた。


「殺し、か。それなら沢山したさ、十二年前に」


「大戦の関係者か? 馬鹿なことをしたものだ。騎士として真っ当に生きる道もあったろうに」


「どうも騎士ってのは肌に合わないんだよ。全員が同じ正義を信じていると言えば聞こえはいいが、それって要は物事の判断を他人に任せているってことだろう?」


硬いパンを噛み千切りながらアルは看守の目を見る。


「何が正義で何が悪か。それを自分で考えず、与えられた正義ばかり信じていればいつか決定的な間違いを犯してしまう…そう思ったんだよ」


ふっ、とどこか悲し気な笑みを浮かべてアルは言った。


その含みのある表情は気になっているようだったが、看守は何も言わず立ち去った。


あまり深入りして良い内容ではないと判断したのだろう。


(…さて)


味の薄いパンを噛み締め、アルはこれからのことを考える。


レヴァンは自分を殺さないように命令を受けていた。


騎士隊長であるレヴァンに命令を下せる人物はアンドヴァリだけだ。


だとすれば、アンドヴァリは恐らく近い内に接触してくる。


今一度騎士として戦えと言うか、それとも他の何かか。


何かしらの利用価値を自分に見出している筈だ。


十二年前に決別して以来、会っていないがアンドヴァリは冷酷ながらも話の分かる男だ。


交渉次第ではアルファルを見逃してくれるかもしれない。


(今は行動する時じゃない。今はただ、時が来るのを待って…)


そう考え、手に持ったパンをまた齧ろうとした時、ゴソゴソと後ろから音がした。


あまり広いとは言えない牢の中、寝袋のような物が動いている。


「…何だ?」


微妙に膨らんでいる気がする寝袋に近付き、訝し気な表情を浮かべる。


ここは独房ではなかったのか、首を傾げながら寝袋の口を広げた。


「ぷはっ! 誰だか知らないけどありがとー!」


開けて早々に聞き覚えのある声が聞こえた。


「全くもー! 縛られた上に寝袋に突っ込まれるとか扱いが酷すぎると思わないー! この私を何だと思っているのよー!」


少しだけ空いた寝袋の穴から出た顔は、見覚えのある女の物。


身体の大部分こそ隠れているが、頭に付けた棘の王冠やギザギザしたピアス、鉄の首輪と言った拷問器具のような装飾はそのままだった。


普段は垂れ目気味な目を怒ったように吊り上げ、普段から高揚している顔を更に赤く染めている。


「…って、ほえ? もしかしてアルヴィース?」


寝袋から突き出た首を器用に傾げているその女は、ヒルドだった。


「お前、何でこんな所に?」


「それはこっちの台詞だよー。折角逃がしてあげたのに、結局は掴まちゃったんだー」


自分のことは棚に上げて馬鹿にするようにケラケラと笑うヒルド。


「アルヴィースもレヴァンには勝てなかったんだねー。あ、エルフの子はどうしたのー?」


「アルファルは逃がした。恐らく、捕まっていない筈だ」


「へぇー。守り切ったんだー。流石はアルヴィース! キハハ♪」


今度は褒める様にヒルドは笑った。


何が楽しいのか、いつにも増して機嫌が良い。


「ねえ、アルヴィース。私にもそのパンちょうだーい?」


「ああ、ほらよ」


相変わらずマイペースな様子に頭痛を感じながら、アルは投げやりにパンを差し出す。


アルとしてはヒルドに手渡すつもりだったが、ヒルドはそのまま身を乗り出してそれに喰らい付いた。


「はむっ! むぐむぐ………あんまり味しないね」


「確かにな。まあ、それも少しの辛抱だろう」


そう言うとアルは残りのパンを口にする。


アルとヒルドが同じ牢に入れられているのは偶然ではないだろう。


確証は無いがアンドヴァリはアルとヒルドに用があるのだ。


向こうから接触してきた時が、二人がここを出る時だ。

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