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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第三章 ソロー
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第五十四話


「くっ…!」


石の槍を振るいながらアルヴィースは悔し気に呻く。


手にしている槍は、殆ど魔力を込めていない簡素な槍だ。


その為、エルフの刃を防ぐ度に表面が削れ、少しずつ亀裂が入る。


普段のアルヴィースならもっと強度の高い槍を作ることも出来るが、今は状況が違う。


空から降り注ぐ雷雨を防ぐ為に巨大なゴーレムを維持したままであり、自身の使える魔力は限られている。


それに、結界を破る時の為に魔力を温存する必要もある。


「ッ…」


今は攻める時ではない。


結界が弱まる時間帯まで防御に徹するべきだ。


そう頭では分かっていながらも、アルヴィースは感情を抑えることが出来なかった。


「ぐあっ!」


どこかで悲鳴が上がった。


アルヴィースの視界の端に、宙を舞う鮮血が映る。


また、誰かがエルフに殺されたのだ。


共にエルフを倒す為に集まった仲間が、次々と殺されていく。


「…エルフめ!」


ギリッとアルヴィースの口から音がした。


仲間を助けることの出来ない無力感に怒りが湧く。


感情のまま槍を振るうアルヴィースの前で、泥が跳ねた。


『…何を狙っていやがる?』


ズズ…と空間に染み出すように一人のエルフが現れる。


アンドヴァリがロプトル、と呼んでいた男のエルフだった。


「お前は…」


『何故、あの時に見せた槍を出さない? 何を待って…』


木製のナイフを手に、不審そうにロプトルはアルヴィースを見た。


しばらくエルフ語で話した後、何かに気付いたように言葉を止める。


「ああ、人間は高尚なエルフ語が分からないんだったなァ。お前らの言葉で話してやるよ」


「人間の言葉を…!」


「当然だろう。ボクらエルフは人間よりも上位に位置する種族だ。今までお前らの言葉を使わなかったのは人間なんぞに語る言葉などなかったからだ」


どこまでも傲慢な物言いにアルヴィースの眼に殺意が宿る。


アルヴィースが思わず槍を強く握り締めるのを見て、ロプトルは好戦的な笑みを浮かべた。


「そんな軽い槍でボクを殺す気か? ならやってみると良い! お前にエルフの持つ魔術ホンモノを思い知らせてやるよォ!」


ヒュッと風を切るような音と共にロプトルの姿が消失する。


それに焦らずにアルヴィースはロプトルが消える直前まで立っていた足下へ目を向けた。


アンドヴァリが言ったように大地は雨でぬかるんだままだ。


泥は姿を消したロプトルの足跡を捕らえ、その位置を教えてくれる。


(…来た!)


目の前で泥が跳ねるのを見て、盾にするように槍を横に構えた。


前に突き出した石の槍に、見えないエルフの刃が触れる。


瞬間、音を発てて石の槍が両断された。


「なっ…!」


「キヒヒ! バーカ! エルフの刃が、その程度の槍で防げるとでも思ったかァ!」


姿を現したロプトルが間髪入れずナイフを振り上げる。


武器を失ったアルヴィース。


その無防備な首を切り捨てる為に。


「な、めるな!」


勝利を確信しているロプトルの顔に向かって、アルヴィースは泥を蹴り上げた。


跳ねた泥はロプトルの顔にかかり、その眼を潰す。


「チッ!」


咄嗟に身を退いたロプトルを逃さないようにアルヴィースは前へ出る。


壊れた槍を捨て、腰の剣を抜いた。


『風よ。我を包み、森を荒らす侵略者から護り給え』


眼を抑えたまま、ロプトルは早口で詠唱した。


アルヴィースの目の前でロプトルの姿は消える。


闇雲に振るった剣は、虚しく虚空を切った。


「くそっ…逃がしたか!」


そう悔し気に吐き捨てた時、アルヴィースの頭上から大きな音が響いた。


バキバキ、と何かがひび割れるような音が聞こえる。


それは、今まで雷雨を防いでいたゴーレムの悲鳴だった。


「しまった! もう限界か…!」


背中で雷雨を受け続けたゴーレムの身体には亀裂が走り、今にも壊れそうな悲鳴を上げていた。


「―――終わりです。これ以上は持ちません」


結界の向こう側からよく響く声が聞こえた。


降伏勧告と言うには穏やかで、まるで幼子を諭すようにベイラは告げる。


「土の帳が崩壊する前に立ち去りなさい。でなければ、今度こそ雷霆は貴方達を滅ぼすでしょう」


ベイラの言葉を受けても、戦場から逃げ出す人間は一人もいなかった。


それを見てベイラは悲し気に息を吐くと、その眼に決意を宿らせた。


「どうあっても退く気が無いと言うならば…」


ベイラは冷徹な目でアルヴィースを見た。


「貴方達の罪の象徴である魔術使いを先に滅ぼしてあげましょう」


その言葉には明白な殺意があった。


大樹に刻まれた陣が不気味に光り、黄金の光が空に収束していく。


先程までの雷雨とは比べ物にならない膨大な魔力。


ベイラの持つ全ての力がアルヴィースに向けられている。


「最後です………森を離れた貴方達は、魔術を得るべきではなかった」


魔力が解放される。


桁外れの魔力は光の柱となり、地上のアルヴィースを滅ぼす。


その瞬間だった。


パキッと戦場には不釣り合いな程、軽い音が響いた。


「な、に…?」


驚くベイラの傍で大樹に亀裂が走り、刻まれた陣が弾けて消える。


強い光を放っていた陣が弱まり、小さくなっていく。


「来たぞ、時間だ!」


どこからかアンドヴァリの声が聞こえた。


それだけで十分だった。


崩れかけていたゴーレムを消し、アルヴィースは新たな槍を作り出す。


「創生『グングニル』」


光が弱まっていく結界に向かって、走り出す。


遂に約束の時間が来たのだ。


後は、弱まった結界を破壊するだけ。


「穿て、グングニル!」


魔力を込めた翡翠の槍を渾身の力で投擲する。


槍は狙い通り、真っ直ぐに陣が刻まれた大樹に向かっていき、炸裂する。


解放された魔力は火薬のように弾け、大樹を巻き込んで爆ぜた。


大結界が破られた瞬間だった。


「そん、な…結界が…ッ」


呆然と立ち尽くしていたベイラの胸を、鉄の刃が貫く。


口から血を零して倒れるベイラを見下ろしていたのは、アンドヴァリだった。


「結界は破られた! 雷霆の魔術もこれで消える! 進軍だ!」


事切れたベイラには目も向けず、アンドヴァリは高らかに叫ぶ。


それは騎士達に勇気と熱狂を与えた。


「この勢いのまま、エルフを攻め滅ぼすぞ!」


「「「うおおおおおおおおおおおおォォォ!」」」

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