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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第三章 ソロー
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第四十七話


「この世界で最も尊き種族は人間である」


集まった大衆の前で騎士団長を務める男はそう宣言した。


幾つもの村を滅ぼされ、先遣隊すら返り討ちにされ、怯える人々の恐怖を拭うように力強く告げた。


「強靭な肉体を持つエルフの方が人類を優れていると恐れる者もいるだろう」


片方しかない腕を振り上げ、アンドヴァリは大衆を見つめる。


彼らの中にあるのはエルフに対する恐怖と不安。


騎士の眼にすら同じ物が浮かんでいる。


「だが、生命の価値とは『成長』することにある。変化を止め、成長することを止めた者は生きているとは言えない」


生きることは成長すること、アンドヴァリはそう断言する。


「帝国が建国されて千年。人類は土地を切り開き、発展してきた! それは人類が誇るべき成長である!」


始まりはエルフよりも少なかった人類が、今では大陸の殆どを占める程に発展した。


短い寿命を懸命に生き、時と共に発展していくのは人類の強みである。


長い寿命を持ちながらそれに胡坐をかき、何も成長しなかったエルフとは違う。


「怠惰な支配者を何故恐れる? 我々の上に君臨し続けた怪物を何故憎まない?」


アンドヴァリは左腕で剣を抜き、振り上げた。


それを合図に空高く火柱が立ち上る。


突然の出来事に驚く人々の前で、炎は揺らめき赤黒く燃える巨人に姿を変えた。


人知を超えた光景だった。


コレは魔術。


エルフのみの神秘と恐れられていた力。


「見ろ! コレが人類が手に入れた力だ!」


成長する人類は、ここまで辿り着いた。


エルフは恐れる脅威ではなく、打倒できる敵となったのだ。


「革命の時は来た! 我々はエルフを超える!」


その宣言を聞いた時、その場にエルフを恐れる者は一人もいなかった。


大衆は熱狂と興奮に包まれ、心は一つとなったのだ。








人類の変化を予感してか、アールヴの森近辺では度々エルフによる襲撃があった。


森を出た僅かなエルフによる襲撃だったが、それでも魔術を操るエルフに人類は歯が立たず、一方的に攻撃されるのみだった。


今回の襲撃では、たった三人のエルフに十を超える騎士が負傷し、死者すら出ていた。


「くそ…化物共め!」


血塗れになった騎士の男は、倒れたまま目の前のエルフを睨む。


それは男よりもずっと若く、華奢に見える外見をしていながら、恐るべき力を持っていた。


身体に纏った風の鎧で全ての矢を弾かれ、剣すらも逸らされた。


そのエルフ達には戦意すらなく、まるで子供の悪ふざけのように無邪気に騎士達を痛めつけたのだ。


コレには勝てない。


そんな分かり切った絶望が男の頭を支配した。


「少し、遅かったようだな」


その時、絶望に支配された男の耳に声が届いた。


それは男の所属する騎士団の頂点。


騎士団長の地位を持つ男。


「エルフは三人か。丁度良い、まずは前哨戦と行こうじゃないか」


騎士の死体で遊んでいたエルフ達が騎士団長へ目を向ける。


人を遥かに超える悪魔を前に、騎士団長は恐れることなく微笑を浮かべた。


「――――開戦だ」


瞬間、大地が揺れた。


戸惑うエルフ達の足下が隆起し、地面から石の槍が飛び出す。


エルフの纏っていた風の鎧すら容易く突破して、それは華奢な足を貫いた。


「よっしゃ! 当たった!」


悲鳴を上げるエルフ達を嗤いながら、一人の少年が前に出る。


足を地面に縫い付けられたエルフ達へ向かって、手に握り締めた槍を投擲した。


その翡翠の槍は、動けないエルフ達に光を放ちながら迫る。


「創生『グングニル』…魔力解放!」


言葉を合図に、槍から放たれた光と熱にエルフ達は包み込まれた。


落雷のような轟音と焼けつくような熱が収まると、まるで削り取ったかのようにエルフ達は跡形もなく消滅していた。


「…チッ! 一匹取り逃がしたか!」


舌打ちをして少年は空を見上げる。


槍が爆発する寸前に逃れたのか、そこにはエルフが一人浮かんでいた。


仲間を殺した少年を睨みながら、何らかの魔術を使用しようと手を翳している。


「アルヴィース、前に出過ぎるなよ」


だが、それが放たれることはなかった。


魔術を放つよりも先にエルフの身体を炎が包み込み、全て灰に変えたからだ。


無感動にエルフを滅ぼした赤髪の男は、アルヴィースの頭を軽く叩いた。


「何言っているんだよ、レヴァン! 俺のお陰で一気にエルフを二人も倒せたじゃねえか!」


「だからと言って残り一人を逃がしてしまったら意味が無いだろう」


「俺がエルフを逃がすと思っているのかよ!」


憎悪の込められたアルヴィースの目を見て、レヴァンはため息をついた。


アルヴィースの事情も知っている為、それ以上は何も言わずに視線を余所に向ける。


「ヒルド。怪我人はどんな感じだ?」


「んんー。取り敢えず生きている人の傷は、全部治せる程度かなー」


陣が刻まれた顔を血塗れの騎士に向けたまま、ヒルドは答えた。


特に傷が酷い胸の切り傷を見て、懐から小さなナイフを取り出す。


「んッ」


ヒルドは軽く指先を傷付け、傷口に血を数滴垂らした。


すると、みるみるうちに血が固まり傷口が塞がっていった。


「相変わらず凄ぇな。血の一滴でこんなに効くのか」


「えへへー。凄いでしょ? もっと血を使えばどんな傷だって癒しちゃうよー?」


アルヴィースに褒められて、ヒルドは嬉しそうに笑った。


それに対し、レヴァンは渋い表情を浮かべる。


「その力は使うだけ血を消耗する。あまり無理はしないようにな」


「むー。無理なんてしていないよー! レヴァンおじさんはいっつも口煩いから嫌いー!」


「お、おじさん…俺はまだ二十歳なのだが」


ショックを受けているレヴァンを、アルヴィースはゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。


その場に相応しくない和やかな雰囲気に騎士の男が困惑していると、横にアンドヴァリが立った。


「君、立てるかね?」


「騎士団長…あの子供達は、一体…?」


エルフと同じ魔術を操る三人を見ながら男は尋ねる。


アンドヴァリは未だ言い争っている三人へ目を向けて答えた。


「彼らは魔術師だ。我々人類の希望だよ」

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