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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第四十四話


「………」


夜の静寂の中、レヴァンは一人で佇んでいた。


未だ目を覚まさないアルヴィースの治療が終わり、気を紛らわす為に一人になりたかったからだ。


既にアンドヴァリを通じて付近の騎士と連絡を取り、護送の準備は出来ている。


明日の朝には拘束を施したアルヴィースをアンドヴァリの下まで護送することが出来るだろう。


「………」


レヴァンにとってアンドヴァリは、魔術師になる前からの上官である。


エルフに対抗する手段として魔術を考案し、三英雄を生み出した本当の英雄だ。


迷いなく自身の行いを正義と断言する堂々とした姿は人々を魅了し、現在の帝国騎士団を築いた。


時にその深すぎる思考が理解できない時もあるが、レヴァンはアンドヴァリを信頼していた。


だが、


アンドヴァリは騎士団を正義と信じるが故に、冷酷な一面もあった。


成果を得る為に犠牲を出すことを躊躇わず、三人の魔術師を作る為に百人以上の犠牲者を出した。


敵対者にも容赦がなく、エルフ大戦では一人残らずエルフの虐殺を指示した。


アンドヴァリは情に動かされるような人間ではない。


反逆者となったなら、例えレヴァンだろうと顔色一つ変えずに粛清するだろう。


「…ッ」


その男が、アルヴィースを罪人と認めた。


エルフを擁護したアルヴィースを捕らえ、自分の下へ連れてくるように命令を下した。


アンドヴァリは『説得』すると言っていたが、本当にそれだけだろうか。


騎士団の最終決定権は騎士団長にある。


彼がアルヴィースを処刑すると決めたなら、それを誰が止められる。


「俺は…」


騎士団と親友。


どちらかの選択を迫られた時、自分はどうするべきなのか。


どちらを選ぶべきなのか…








「それで、アルヴィースさんの容態はどうですかァ?」


「…身体の方はもう大丈夫よ。薬が効いて眠っているけど、明日には目を覚ますと思う」


加勢の騎士達と共に治療に当たっていたエイトリは疲労を滲ませながら、ヴェルンドに答えた。


「でも、魔術師としては…まだ重症かも」


付け加える様に言いながら、エイトリは苦い表情を浮かべた。


「身体に刻まれた陣が火傷で潰れて機能しなくなっている。全身の傷が完治するまでは魔術は何も使えないと思う」


三英雄は身体に刻んだ陣で魔術を行使する。


それは杖を持たなくていいと言う利点があるが、当然ながら身体が欠損すれば陣は不完全になる。


アルヴィースは手足が欠損した訳ではないが、レヴァンに付けられた火傷はエイトリの魔術で完全に癒すことが出来なかった。


三英雄と讃えられるアルヴィースの魔術が、失われてしまった。


自身の無力さにエイトリは苦い顔を浮かべていた。


「それは好都合ですねェ」


「…好都合?」


「いえ、弱っていた方が運びやすいじゃないですかァ。拘束を厳重にする手間が省けましたよ」


どこか冷めた様子でヴェルンドはそう言った。


訝し気な顔をするエイトリへ視線を向ける。


「そこまで熱心に治療する必要はないですよ。相手は罪人なんですから」


「罪人って…そんな言い方! あの人は英雄なのよ!」


「うわっ! ちょっ! 暴力反対ですって!」


エイトリに胸ぐらを掴まれ、慌ててヴェルンドは叫んだ。


「う、浮いてる! 俺の身体が浮いてますから!」


「レヴァン隊長の親友で! 帝国を救った騎士なのに!」


「そ、そのレヴァン隊長が彼を罪人と認めたのでは…?」


「ッ…」


パッとエイトリは乱暴に手を離した。


アルヴィースはレヴァンと共に帝国を救った英雄の一人。


しかし、今ではエルフを擁護した反逆者として護送しようとしている。


エイトリは分からなくなってきたのだ。


何が正義で、何が悪なのか。


「…私はレヴァン隊長を信じる。あの人は間違ってない」


「ゴホッ…そうですか。まあ、それも一つの選択ですよねェ」


何が正しいか、と言う判断を他者に委ねる。


それもまた一つの道だ。


「そう決めたなら、レヴァン隊長をよく見ていることです。表面的な部分だけではなく、彼の心までよく理解した方が良い」


「レヴァン隊長の、心…?」


「それでは、俺はこれで」


ひらひらと手を振り、ヴェルンドは考え込むエイトリへ背を向けた。


「待って! あなたはどうなの?」


「どう、とは?」


「あなたは何を正義と信じて、行動しているの?」


エイトリの言葉に、ヴェルンドは少し考える様に口を閉じた。


すぐに首を振り、困ったように肩を竦める。


「そもそも、俺は正義なんて信じてないですよ」


正義と平和を重んじる騎士にあるまじき発言だった。


「レヴァン隊長のことを理解して欲しいと言いましたが、俺のことは理解しなくていいですよ」


「え…?」


「だって俺には『心』が無いですから」


そう吐き捨て、ヴェルンドは立ち去った。








「…話し過ぎましたかねェ」


エイトリから離れてすぐにヴェルンドは呟いた。


「正直、あの人には余計なことはして欲しくないんですが」


見ていられず、つい口を出してしまった。


感情的になり易いのはヴェルンドの悪い癖だった。


レヴァンに対しても少し熱くなって喋り過ぎたかもしれない。


警戒されない方が行動しやすいと言うのに、余計に警戒を煽るようなことをしてしまった。


「…それで俺に何か用ですかァ?」


ヴェルンドは周囲を見渡しながら言った。


近くに生えていた木が揺れ、木の上から白髪の巨漢が落ちてくる。


「フェンリルさんでしたか。俺が頼んだ要件は果たしてくれましたかァ?」


「エルフの娘か。逃がした」


「…だと思いましたけど、もう少し悪びれてくれませんかねェ」


深いため息を吐きながらヴェルンドは肩を落とした。


「それよりも、俺様を英雄レヴァンの下へ案内しろ」


「えぇ…俺のお願いを無視しといて自分の要求は通すんですかァ…」


「奴は俺様の獲物を奪った。だから、奴を次の獲物とする…!」


感情の高ぶりに比例して、フェンリルの身体が強い魔力を放つ。


押し潰されるような重圧を感じながら、ヴェルンドは冷めた表情を浮かべた。


「次は出し惜しみなどしない! 初めから全力だ! このフェンリルの全力を以て、英雄レヴァンを破壊してくれる!」


アルヴィースに敗れたと言うのに、フェンリルは自信を失っていなかった。


まるでまだ何か切り札を残しているかのように、余裕を保っている。


「…だから、全力で戦ったら駄目ですって。何の為に拘束陣を付けていると思っているんですか」


呆れる様にヴェルンドは自分の額に手を当てる。


「何度も言っていますが、全力で戦ったら死にますよ」


「構わん! 俺様は戦士だ! 戦いの中で死ねるのなら本望よ!」


「…どちらにせよ。今のレヴァン隊長と戦うのは止めた方がいいですよ」


「何故だ?」


フェンリルは飢えた狼のような目でヴェルンドを見た。


言葉こそ理解しているが、フェンリルの精神構造は獣に近い。


自分が納得しなければ、例えヴェルンドを殺してでもレヴァンと戦うだろう。


「あなたは自身の力を証明する為に英雄に挑むのでしょう?」


「ああ、そうだ」


「でしたら、今の弱ったレヴァンと戦うのは止めた方が良い。殺した所で強さの証明にはなりません」


「………」


ヴェルンドの言葉を聞き、それを吟味するようにフェンリルは口を閉じた。


英雄を殺すことだけが目的なら今のレヴァンは絶好のチャンスだ。


だが、それは英雄を超えると言うフェンリルの目的を達成したことになるのか。


全力のレヴァンを正々堂々と打ち破ってこそ、自身の力の証明になるのではないか。


「…それもそうだな。今は止めておこう」


「理解していただけて何よりです。ところで、エルフの娘の話ですが…」


矛を収めたフェンリルに安堵の息を吐きながらヴェルンドは言う。


「どの方向に逃げたのか、分かりますか?」

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