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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第四十二話


「レヴァン隊長! 大丈夫ですか!」


戦いの決着がついた頃を見計らい、エイトリが駆け寄る。


それに気付いていないかのようにレヴァンは無言で前を見ていた。


炎の中に消えたアルの方を。


「ッ…!」


自分の手が火傷することも躊躇わず、レヴァンは制御を放棄していた炎を握り潰す。


周囲を燃やしていた炎が消え、急激に魔力を失ったことでレヴァンの身体がぐらつく。


「レヴァン隊長!」


「…大丈夫だ」


悲鳴のような声を上げるエイトリへ声をかけ、レヴァンは火傷を負った手を前へ向ける。


そこには炎から解放されたアルが力なく倒れていた。


「俺はこのままでいい。それよりも、アイツを…」


「え?」


「アイツを、助けてやってくれ。頼む」


ヒューヒューと苦し気な呼吸音が聞こえた。


全身に火傷を負い、ぴくりとも動かないが、まだ生きている。


それを確認し、エイトリは急いでアルの下へ駆け寄った。


「せ、聖楯術式『スヴェル』」


エイトリは背負った身の丈程の杖を振る。


キラキラと氷の結晶のような物が杖から落ち、アルの身体に触れた。


それは未だ熱を持っていたアルの身体を冷やし、みるみるうちに傷を癒していった。


段々とアルの呼吸が穏やかになっていくのを見て、レヴァンは安堵の息を吐く。


「水属性の魔術ですかァ?」


興味深そうにそれを眺めていたヴェルンドが呟いた。


「そうだ。火傷治療に特化した医療魔術師。彼女が俺の補佐をしている理由だ」


「それはそれは。何とも都合が良い能力ですねェ」


ヴェルンドはそう言うと愛想笑いを浮かべた。


どこか含んだような物言いにレヴァンは不審そうな目を向ける。


「見応えのある戦いでしたよ。流石は騎士団長様の信頼するレヴァン隊長ですねェ」


「………」


「に、睨まないで下さいよ。ただ称賛しているだけじゃないですかァ」


怯えた様に帽子を深く被り、顔を隠しながらヴェルンドは言う。


「…ところで、逃げたエルフの方はどうしますかァ?」


アルが作り出した巨大な壁を見上げて言うヴェルンド。


一騎打ちはレヴァンの勝利で終わった。


故にアルファルを見逃すと言うアルの要求に従う理由は無いが。


「…悪いが、この壁を壊すことは出来ない」


「と言うと?」


「アルヴィースを倒すのに全力を出し過ぎた。この壁を壊す魔力が残っていない」


思えば、それがアルの狙いだったのかもしれない。


最初に壁を作り出し、一騎打ちで全ての魔力を使い切らせることが。


レヴァンを殺さず、アルファルを逃がす、アルの作戦だったのかもしれない。


「言った通り、エイトリは医療魔術師だ。エイトリにも、あの壁は壊せない」


「困りましたねェ。私も魔術は使えないので、お役には立てません」


然程困っているようにも見えない顔でヴェルンドは言った。


「エルフをグニタヘイズの連中に確保されるのは面白くないですが、今は騎士団長様の任務を優先するとしましょう」


「…前々から気になっていたのだが」


レヴァンは表情のない顔で饒舌に話すヴェルンドを見た。


その手の中で、僅かに残った火花が跳ねる。


「お前は、何者だ?」


「…どう言う意味ですかァ?」


「ただの技術開発部にしては情報を知り過ぎている。どうして、グニタヘイズがエルフを集めていることを知っている?」


現場の騎士ならともかく、ヴェルンドは技術開発部の人間である。


普段杖の作製や魔術開発しか行っていない人間が、どうしてグニタヘイズの目的まで知っているのか。


いや、そもそも…


「どうして、本部の人間がこんな辺境の地にいるんだ?」


ファフニールが目撃されたからこそレヴァンはアールヴの森を訪れた。


状況から察するにその情報を報告したのはヴェルンドだろう。


それは明らかにおかしい。


本部の研究者がアールヴの森に何の用があると言うのか。


「嫌だなァ、辺境の地だなんて。知らないんですかァ? アールヴの森に生える樹木からは良い杖が作れるんですよ?」


「素材を取りに来たと言うのか? 護衛も付けずに一人きりで?」


「南部は騎士の印象が悪いですからねェ。身分を隠して行動した方が楽なんですよ」


自分の服装を見下ろしながらヴェルンドは言った。


騎士に見えない幼い容姿を利用する為、敢えて騎士の格好をしていないのだ。


「俺はあまり思慮深い方ではないのでな。単刀直入に言おう」


「何ですか?」


「俺は、お前がグニタヘイズのスパイではないかと疑っている」


その言葉に、ヴェルンドは表情を無くした。


浮かべていた愛想笑いが消え、冷めた視線がレヴァンを貫く。


冷え切った殺意を感じ、レヴァンは目の前の相手に敵意を向ける。


「…流石に、失礼じゃないですかねェ」


気分を害したような口調だった。


氷のような怒りが、ヴェルンドの口から零れる。


「自分は騎士団の為に身を粉にして尽くしていますよ。今、騎士達に支給されている杖の殆どは自分の作品ですし、エルフの涙の開発にも関わっています」


「…ッ」


「あなたの知らない騎士団の最深部まで関わっています。この世界の『根』の部分も知らないあなた如きが俺を語らないでいただきたい」


ヴェルンドの眼には何も映っていなかった。


目の前のレヴァンも、周囲の風景も、何もかも。


この世の全てを知ってしまったような諦観だけが浮かんでいる。


コレは、一体何者だ?


コレは、一体何を知っている?


「お前…」


「レヴァン隊長! 一先ず応急処置は終わりました!」


その時、エイトリの呼ぶ声が聞こえた。


二人を纏っていた剣呑な空気が瞬時に消える。


「さあ、アルヴィースを護送する準備をしましょうか。レヴァン隊長」


軽くレヴァンの肩を押し、ヴェルンドは言った。


先程浮かべていた表情が嘘のように、明るい声だった。


それを見ても、レヴァンはヴェルンドの言葉を忘れることが出来なかった。


騎士団の最深部。


この世界の根。


それは一体…

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