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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第四十一話


『こんなことは、やめるべきです』


まだ英雄と呼ばれる前の騎士は言った。


『何故、そう思う?』


『魔術を人間が使うなど不可能です! 今まで多くの子供に実験を行いましたが、誰一人として成功例はいないじゃないですか!』


義憤に震えながら若き騎士は訴える。


これまで犠牲となった子供達の顔を思い出すと、目頭が熱くなった。


『…成功率が低いことは重々承知している。それでも、エルフに対抗するにはこうするしかないのだ』


『しかし!』


『ならば、ここで私を殺し給え。私を殺して、君がエルフに対抗する方法を考えるといい』


騎士団を率いる男は、そう言って若き騎士に自分の剣を渡した。


その眼に迷いは無かった。


もし他に方法があるのなら、その犠牲になることに一切躊躇いがなかった。


『研究は確実に進んでいる。ここで情に流されて成果を破棄することは、これまで犠牲になった全ての者の死を無意味にする愚行だ』


男の眼には強い執念があった。


様々な葛藤を乗り越えて出した男の決断を、若き騎士は否定できなかった。


『…では、せめて………俺に実験を施して下さい』


『本当に良いのだな? 君も知っての通り、生存率は高くないぞ』


『構いません。それで誰かが救われるのなら…』


『…分かった。君の尊い献身を決して無駄にしないと誓おう』


そうして、若き騎士…レヴァンは人類最初の魔術師となった。


崇高な理想も目的もなかった。


ただ、幼い子供を犠牲する罪悪感に耐え兼ねただけだった。








月明かりの下、二つの力がぶつかり合う。


「『グングニル』」


片方は、全てを創造する土の魔術。


翡翠の槍を振るう度に、溢れた魔力が大地を隆起させ、周囲の地形を変える。


「『枝の破滅』」


片方は、全てを破壊する火の魔術。


黒炎の剣の一振りで隆起した大地を焼き払い、周囲の地形を平坦に戻す。


「チッ!」


アルは舌打ちしながら地面にグングニルを突き立てる。


大地に雨が浸み込むように魔力が浸透し、広がっていく。


「これなら、どうだ!」


津波のように、大地が揺れる。


魔力が浸透した部分から次々と槍が生え、レヴァンへと迫った。


「焼き尽くせ」


自分に迫る槍を見て、レヴァンは軽い動作で剣を振るう。


ただそれだけで黒炎が槍と大地を焼き尽くし、眼に見えない魔力さえも破壊する。


剣の形になっても炎の性質は変わらない。


「…やっぱり、この程度では駄目か」


然程驚いた様子もなく、アルは呟いた。


生半可な攻撃ではレヴァンに届かない。


一騎打ちに勝利するには、あの炎を突破する必要がある。


「レヴァン。この槍を覚えているか?」


握り締めた槍を大地から抜き、アルは思い出話をするように言った。


「覚えているさ。剣の訓練を嫌ったお前が好んでいた武器だ」


「ははは、そうだよ。俺は昔から、人を斬る感覚ってのが苦手でね」


話をしながらアルは手にしたグングニルに宿る魔力を研ぎ澄ましていく。


表面に刻まれた陣が放つ赤い光が段々と強くなる。


「だから、人を殺した感覚が手に残らない武器を選んだんだ」


両足で大地を踏み締め、グングニルを握った右腕を振り被る。


二人の間には距離が空いており、槍の間合いではない。


だが、既にレヴァンの位置はアルの射程圏内だった。


研ぎ澄まされた魔力が赤い光となって、翡翠の槍を包み込む。


赤と緑の光の奔流。


「穿て『グングニル』」


臨界を突破したグングニルがアルの手を離れる。


グングニルはただの槍ではなく、投擲槍ジャベリンである。


その真価は所有者の手を離れた時にこそ発揮される。


込められた膨大な魔力が石突きから放出され、槍は独りでに加速していく。


放たれた一つの流星は、意思を持つようにレヴァンの下へ向かった。


「枝の破滅よ、焼き払え!」


迫る流星を前に、レヴァンは黒炎の剣を振るう。


その表情に先程までの余裕は無かった。


膨大な魔力を感知して、炎が膨れ上がる。


身を守るように前に突き出した黒炎の剣に、流星が触れた。


「ぐ、おおおお…!」


炎に阻まれて流星は動きを止めた。


しかし、それだけだ。


黒炎はグングニルの表面を削ることすら出来ない。


それどころか槍から放たれる魔力に打ち負けて、段々と炎が小さくなっていく。


「圧されている、のか、この俺が…!」


レヴァンの炎は敵対者に合わせて強化される。


それは強力過ぎる魔術を制御する為、必要以上に火力を出さないように考えた制限だった。


制限された力では、本気のアルを破ることは出来ない。


「俺も、負けられないんだ…!」


レヴァンの顔に陣が浮かび上がる。


顔から足まで全身を埋め尽くすのは、火属性の陣。


あらゆる制御、制限を破壊し、レヴァンは全力で魔術を振るう。


「殲滅しろ!『ムスペルヘイム』」


レヴァンの手にしていた黒炎の剣は形を失う。


制御を失った炎に自ら焼かれながら、レヴァンはそれを振るった。


炎に包まれた槍が、僅かに溶け始めた。


「ッ! エンチャント!」


全身に陣を浮かび上がらせたアルが更に魔力を放つ。


崩れ始めたグングニルに魔力を与え、炎を突破しようとする。


「うおおおおおおおお!」


「あああああああああ!」


互いの魔力の余波で傷つきながら、全力で魔術を行使する。


破壊と創造。


それぞれの分野を極めた者同士の戦いは、槍が完全に溶けたことで決着がついた。


「…くそ、やっぱり届かないか」


最後にそう言い残し、アルは制御を失った炎に飲み込まれた。

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