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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第三十一話


ある者はそれを神と崇めた。


ある者はそれを悪竜と恐れた。


それに決まった形は無い。


ただ病毒のように唐突に現れ、破壊を齎すだけの存在。


生物ではない。


それは生と死を超越した存在であるが故に、この世界に存在できない。


ごく限られた条件で、ここではない何処かから堕ちてくる存在だ。


『…虫けら』


ワームは目の前に現れたアルを睨み、忌々しそうに呟く。


「見つけたのはこっちだ。光の柱を追えば見つかると思ったぜ」


居場所が分からず一方的に攻撃されるよりは接近した方が良いと思い、アルはワームの前に現れた。


状況は多少改善したが、まだまだ悪い。


雷霆の放たれるタイミングが分かるようになっただけで、防ぐ手段はない。


ただワームに炙り出されただけだった。


『貴様らは何度滅ぼしても、蛆のように湧き続ける。身の程を知れ! この世界に貴様の居場所はない!』


「…何て言っているか分からんが、俺を罵倒しているのは伝わるぜ」


ワームの叫びは激情に満ちていた。


底知れぬ憎悪。


この世から人間を滅び尽しても、尚尽きぬ程の憎しみ。


「何を、そこまで憎む…?」


言葉が伝わらないと知りながら、アルは思わず呟いていた。


その憎悪は人では理解できない神の域。


人類を愛する神の愛が人間に理解できないように。


人類を憎む神の憎悪も人間には理解できない。


『ガァァァァァァァー!』


獣のようなワームの怒号が響き渡る。


激震する身体が帯電し、その口に光が収束していく。


「チッ! 来たか…!」


アルは大地に触れ、大量の粘土を空中で混ぜ合わせる。


作り上げるのはワームより高い白き門。


「創生『ビヴリンディの門』」


盾を構えたゴーレム達で形成された巨大な岩石の門。


鉄より強固に作った構築物に更に魔力を込める。


「『魔力付与エンチャント』」


ボゥ、と白き門が薄い緑の光を放つ。


門の表面に模様のような陣が刻まれていき、大気に巨大な盾が展開された。


無から有を生み出す土属性の魔術。


その真価は、既存物の複製ではなく、新製物。


この世には未だ存在しない物を作り上げること。


雷霆がビヴリンディの門に直撃する。


それは門の半分を削り取り、破壊したが、アルの下まで届くことはなかった。


『何だと…!』


突破し損ねたことに驚くワームの前で、半壊した門が開いていく。


ワームの前に姿を現したアルは、その手に『槍』を握っていた。


魔力付与エンチャント………創生『グングニル』」


それは一メートル程の一本の槍だった。


半透明の翡翠色をしており、穂先に近付くに連れて段々と深い色合いになっている。


穂先から石突きまでびっしりと陣が刻まれ、赤い光を放っている。


穂先は槍にしてはどこか丸みを帯びた形状をしていた。


『き、さま…!』


「受けろ、雷神。コレが我がミストカーフの、本領だ!」


流星のようにアルは大地を駆け抜け、その手に握った得物を突き出す。


ワームが急いで光を収束させるが、それよりもアルの方が早い。


雷霆が放たれるより先に、翡翠の槍がワームの身体に届いた。


『ぐおおおおおおおおおおォォォ!』


ゴーレムの拳ではびくともしなかった黄金の鱗が砕ける。


翡翠の槍は鱗を貫き、ワームの肉を抉った。


鮮血が舞い、絶叫が響き渡る。


だが、それだけだ。


(…浅い、か!)


まだ、致命傷とは言えない傷だ。


極限まで魔力を込めた槍は、黄金の鎧を突破したがそれでも威力不足だ。


貫いた先から血肉が再生し、ワームを殺し切ることが出来ない。


『貴様ァァァァ!』


「ッ!」


頭上から強い魔力を感じ、アルは慌ててワームから離れた。


直後、アルのいた場所に雷霆が放たれる。


アルはその余波を受けて、槍を握ったまま地面を転がった。


体勢を立て直し、前を向いた時にはワームの身体は元通りに再生していた。


突破した筈の鱗まで完全に再生している。


(コイツ…)


アルは嫌な予感を感じた。


この怪物を見誤っていたのではないか?


あの雷霆のみを危険視していたが、魔術を封じた所で殺すことが出来るのか?


そもそも、神に『死』と言う概念が存在するのか?


『………………』


「…?」


思わず絶望しかけていた時、アルは首を傾げた。


何故か、アレほど騒がしかったワームが動きを止めていた。


何も語ることなく、ただ自分の身体を見下ろしている。


傷一つない身体の具合を確かめる様に。


『…チッ、もう持たないか』


ワームが忌々しそうに呟いた時、ぐにゃりとワームの右腕が歪んだ。


鋭い爪を持った右腕は粘土のように形を崩し、腐り落ちていく。


『もう時間が無い。一刻も早く滅びろ、虫けらァ!』


腐った右腕を再生することなく、ワームは再び雷光を口に集める。


向けられた光を注意しながら、アルは腐り落ちた腕に視線を向けた。


ドロドロに溶けた液体の中に浮かぶ物。


それは、ワームの巨体から不釣り合いな程に小さな『人骨』だった。


(アレは…!)


人間の右腕の骨だ。


成人男性よりも尚小さい、少女の骨。


ファフニールの骨。


(アレがファフニールの骨だとするなら…)


目の前の怪物は魔術で巨大化しているが、やはりファフニールの肉体そのもの。


ファフニールが別の存在に変身してしまった訳ではなく、


あくまで肉体はファフニールのままだと言うことだ。


身体が独りでに腐り落ちたのにも納得がいく。


人間の器をここまで大きく変化させて、長時間持つ筈がない。


「そう言う事か。ファフニールが使ったのは、変身魔術ではなく召喚魔術。自分の身体に『神』を降ろした………それとも、お前が無理矢理取り憑いたのか?」


『ハッ、小賢しい虫けらが。それを理解した所で何が変わる?』


ワームは嘲るように息を吐いた。


言葉が分からずとも、ワームの感情は手に取るように分かった。


「つまりだ。神だなんだと言いながらも、お前は人間に取り憑く悪魔と何も変わらないってことだ」


『…何だと?』


「お前をこの世に留めている魔術が、依り代になっている肉体が崩壊してしまえば、お前はこの世界に存在できなくなる」


神とは超越者だが、この世界に存在しない。


人の手の届かない所にいるからこそ、神なのだ。


「俺が殺す必要なんてない。お前は勝手に世界から追放されるんだ」


『蛆虫が知ったような口を! 我は神だ! 我が決定は神の裁きなり!』


激高したワームの口に光が収束する。


しかし、同時に更に強い光が森中を包み込んだ。


大地が、木々が、全てが青い光を放っている。


『何、だ…コレは…!』


「おお、コレは凄いな。まさか本当に森を全部包み込むとは…」


強いが、それと同じくらい温かさを感じる青の光。


覚えるのある心地よい感覚。


それは、アルファルの魔術だった。


『ぐ、おお…!』


ピシッとワームの鱗に亀裂が走った。


鱗に刻まれた陣が崩れる。


この結界内ではあらゆる魔術は破壊され、力を失う。


神をこの世に定着させていた魔術も、例外ではない。


『おのれェェェェェェー!』


残る力を振り絞り、ワームの口から雷霆が放たれる。


それを前に、アルもまた崩れかけていたグングニルを握り直した。


「往生際が、悪いぞ!」


身に迫る雷霆に合わせ、グングニルを投擲する。


アルの手を離れたグングニルは流星となり、雷霆に真正面から衝突した。


「消えろ、神性。この世界にお前は必要ない!」


流星は雷霆を打ち破り、ワームの頭蓋を撃ち抜いたのだった。

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