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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第二十八話


生まれて初めて学んだことは、この世は弱肉強食だと言うことだった。


多くの子供が餓死する中、一人の子供が腐った食べ物を手に入れ、今日を生き延びる。


グルーミィの町に法はなかった。


この町には子供も大人も関係ない。


自分で食事を得なければ、明日を生きれない。


例えどんな手段を使ってでも。


『………』


言葉を覚えるよりも早く、ナイフの握り方を覚えた。


文字を覚えるよりも早く、人の殺し方を覚えた。


十五を迎える頃には、最早生きる為に殺しているのか、殺す為に生きているのか分からなくなっていた。


『こんにちは。グルーミィの子供達』


ある日、グルーミィを一人の騎士が訪れた。


獣のように飛び掛かる孤児達をあしらい、目的を告げる。


『君達の中に騎士団で働く気のある者はいないかな?』


武力で強制することはなく、騎士はあくまで提案をした。


『大戦が終わった今、我々はエルフから得た技術を使って疫病の治療法を探している。その為には沢山の被験者が必要なんだ』


柔和な笑みを浮かべ、騎士の男は語る。


初めて見ると言うのに、どこか相手を安心させる笑みだった。


選択権は自分達にある。


協力する気があるなら何人でも受け入れるし、誰も協力しなくても構わない。


そう、男は穏やかに語った。


『当然、働いている間は給金は与えるし、健康管理の為に食事も与えよう』


明日の食事にも困っている少女達に、その提案を断ることは出来なかった。


全ての孤児達が男について行った。


そして、


行われたのは、凄惨な人体実験だった。


臨床試験。


それは、まず少女達の身体に疫病を植え付け、その上で薬を試す実験だった。


正義の名の下に行われた非人道的な実験の中で、殆どの孤児が息絶えた。


その場所も、グルーミィと何も変わらなかった。


弱ければ、ただ死ぬだけだ。


少女は執念で生き延び、やがて特効薬『エルフの涙』は完成した。


口封じも兼ねて少女には多額の報酬が支払われ、そのまま騎士団に入った。


付けられた異名は『永遠のファフニール』


人体実験の影響で成長が止まってしまったことを皮肉って、そう呼ばれた。


『………』


騎士団で一生を終えるつもりは、初めからなかった。


事情を知る騎士達が自分に向ける目。


まるで実験動物を見る様な目が、ファフニールの復讐心を煽った。


自分達の犠牲も知らず、騎士団を讃える者達が憎かった。


『金を集め、力を蓄える。全て全て、この偽善者共を殺し尽す為に!』








「あああああああァァー!」


へし折れた杖を投げ捨て、ファフニールは絶叫した。


杖を握っていた腕も骨が折れてしまったのか、妙な方向に曲がっている。


その激痛すら物ともせず、ファフニールは殺気立った目をアルファルへ向けた。


「お前なんかに! エルフなんかに私の邪魔をされてたまるか!」


成長を止めた身体。


いつまで生きられるかも分からない薬漬けの肉体。


それを全て正義の行いと断じる偽善。


「私は、私の理想郷を作る! 見捨てられた者が報われる国を! 『グニタヘイズ』を!」


五年かけて賛同者を集めた。


三英雄の一人も懐柔した。


騎士団を相手にする戦力も揃っている。


あと、少しなのだ。


「私に協力しろ! お前の力があれば『アレ』を復活できる! 『アレ』さえあれば、アンドヴァリも騎士団も殺し尽すことが出来る!」


「何のことを、言っているのですか?」


結界を展開したまま、アルファルは訝し気な顔をする。


そんな態度を見て、ファフニールは更に激怒する。


「エルフを拷問して聞き出したんだよ! 歴代の族長に受け継がれる力の在り処! それは族長の死と共に次のエルフに引き継がれていく!」


興奮した目でファフニールはアルファルを見た。


憎悪と歓喜の入り混じった表情を浮かべる。


「そして、前の族長ベイラが殺された時、エルフの生み出した神秘はお前に移った!」


暗い希望を抱き、ファフニールはアルファルへ近づく。


「お前の力を、私に…わ、たし…に…」


ぐにゃり、とファフニールの視界が歪んだ。


思わずふらついたファフニールの足が、何かを蹴る。


それは、異形の杖の中心部に取り付けられていた深緑色の宝玉だった。


コロコロと意思を持っているかの如く地面を転がり、目玉のようにファフニールを見た。


「何…が?」


まるでアルファルを守ろうとしているかのように玉石が独りでに弾け飛んだ。


矢のような速度で飛んできた玉石を躱すことは出来ず、玉石はファフニールの胸を貫く。


肉も骨も貫き、淡い光を放ってファフニールの身体に溶け込む。


瞬間、ファフニールの全身に陣が浮かび上がり、青い光を放った。


「あ、ああ…!」


ドクン、と心臓の鼓動が不自然に高まった。


全身に刻まれた陣に魔力が巡り、魔術が発動する。


刻まれた陣は、


「…水の、魔術」


アルファルの前でファフニールの身体が溶けていく。


手も足もなくなり、顔もドロドロと形を失う。


完全に原型を失った黄金の液体に触れた部分から、木々が黒い煙を上げる。


それは灼熱の黄金だった。


マグマのような高熱を持った黄金は、まるで意思があるように蠢く。


ファフニールの放っていた魔力が急激に増幅するのを感じた。


否、ファフニールの魔力が増えていると言うよりは、


「別の何かが、取り憑いたみたいに…!」


カッと黄金の光が周囲を包み込む。


アルファルは思わず目を閉じ、衝撃に備える様に身を屈めた。


焼けつくような熱風を感じて慌てて口も閉じる。


ビリビリと肌が震え、大地が揺れた。


「…何、コレ」


光が収まり、目を開けたアルファルの前にいたのは見たこともない生物だった。


蛇とも竜ともつかない怪物だ。


外見は伝説上のドラゴンに似ているが、背には翼を持たない。


巨大な二本の腕を持つが、足はなく蛇のように腹這いで動いてる。


黄金の鱗に覆われた身体は胴が長く、手の生えた大蛇のようだった。


『―――――――』


のっぺりとした顔に一つだけ付いた深緑色の眼球が、ぎょろりとアルファルを見つめた。


まるで、餌を見つけた肉食獣のように。


単眼に歓喜の色が宿った。








同時刻、アールヴの森から少しばかり離れた地点にて。


「おお、凄ェな。アレはドラゴン? 翼がないからワームか? どちらにせよ実物は初めてだ」


遠目に見える怪物を眺めながら小柄な体格の男は呑気そうに呟く。


神話のような光景を前に、然程驚いた様子もなかった。


「ファフニールの奴、遂に見つけたのか? いや、単に暴走しているだけだな。一体何故…」


少年と呼んでも違和感のない若々しい容姿の男は、原因を探ろうと目を凝らす。


そして、巨大なワームの傍に立つ、小さな影に気付いた。


輝く新緑色の髪と妖精のような容姿。


「――――――あの子は」


続けて何か言葉を発しようとした時、男の身体が僅かに震えた。


それに露骨に顔を顰め、男は片耳を塞ぐように手を当てる。


「…はい。何ですか?」


『そちらはどんな様子だ?』


風に乗って聞こえる声に、男は息を吐く。


「状況はあまり良くないですねェ。ファフニールが暴走しました」


『…何? 一体何が原因だ?』


「さあ。ファフニールにしか分からないでしょうし、もう口を利くことも出来ないでしょう」


遠目に見える少女の姿を確認しながら、男は白々しく答える。


エルフの少女の存在は、敢えて報告しなかった。


「ただ…」


森の入口付近から走るアルを目撃し、言葉を続ける。


「先日報告したヒルドのみならず、アルヴィースの姿も確認しました」


『アルヴィースだと? 騎士団を去った奴が何故?』


「分かりませんが、偶然とは思えませんねェ。英雄がここに二人も…大丈夫ですか?」


『既にレヴァンを向かわせている。奴は私の、騎士団の剣だ。例え二人が相手だろうと問題ない』


だと良いけど、と男は口には出さず思った。


レヴァンの実力は知っているが、旧友を相手に剣が鈍らないか不安だ。


この騎士団長様は実力を見極める観察眼を持ちながらも、そう言う所が疎いのだ。


『ヴェルンド。お前には引き続き、監視を任せる』


「了解しましたァ」


ヴェルンド、と呼ばれた男は見えてもいない相手に頷く。


通信を切り、興味深そうに森へ目を向けた。


「さて、どうなる?」

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