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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第二十二話


かつての大戦時、エルフと戦った人間は騎士だけではなかった。


帝国中より集められた騎士団と共に戦ったのは、傭兵や無法者。


国より支給される報酬を目当てに、最前線で戦った歴史に語られない戦士達だった。


エルフを滅ぼし、騎士団が英雄と呼ばれるようになっても彼らには何もなかった。


多額の報酬を得ても、名誉も名声も何もない。


ただ彼らの泥臭い戦い方が『騎士像』に相応しくなかった為に。


実力の劣る者達が騎士として持て囃される中、傭兵達は日陰に生きていた。


騎士が活躍して治安が良くなる程に、傭兵達は仕事を失っていった。


フィアラル山賊団のように、殆どの傭兵が山賊へ身を落とした。


「今の帝国に、貴方達の居場所はありません」


幼さを感じる声に、逸れ者達は顔を上げる。


かつての大戦の地へ集められた無法者達を前に、ファフニールは言う。


「騎士団は外部の協力を拒み、自分達だけで帝国の全てを救える、と嘯きました。傲慢にも」


自分達の半分も歳を取っていないような少女の言葉に、無法者達は意識を集中させる。


荒くれ者の集団だと言うのに、誰も声一つ上げなかった。


「その結果がコレです。騎士団は自分達の町を守ることが手一杯で南部は荒れ果てている。目に見える範囲で人間を救って満足し、残る人間からは目を逸らす。それが騎士団の独善です」


ファフニールは語り掛けるように、周囲を見渡した。


枯れ果てた死の森には、帝国南部のほぼ全ての無法者達が集まっていた。


アールヴの森へこれだけの人間が集まっても、気付きもしないことが騎士団の脆弱さを物語る。


「騎士団に帝国を守る力などない! 大衆の機嫌取りに『騎士道精神』などと言う物を掲げる偽善者達にそれを思い知らせるのです!」


最早、ファフニールを子供と侮る者など一人もいなかった。


目の前にいるのは自分達の指導者であり、救世主だ。


無法者達の熱狂する声を聞きながら、ファフニールは声を上げた。


「私に従う者は『東』を目指すのです! 昼も夜も休む間を惜しんで駆け、帝国の支配領域を抜けた先『東の果て』を目指しなさい!」


雄叫びを上げながら無法者達は走り出す。


獣のように興奮し、戦士のように熱狂し、我先にと森を抜けていく。


まるで何かに取り憑かれたように。


「お疲れ様ー」


全ての人間が走り去った後、熱を冷ますような軽い声が聞こえた。


拷問器具のような刺々しい服装をした女、ヒルドは感心したように拍手する。


「頭が軽い男達相手とは言え、よくあそこまで簡単に洗脳出来るわねー」


「…求めている物さえ分かれば人を操るのなんて簡単ですよ」


鞭よりも飴を重視する権力者は言う。


「金、名誉、糧、女…何であろうと私なら用意できます。俗物的な人間ほど、操り易い」


「そうねー。私はお金とかには興味ないけど、あなたは私の欲しい物をくれるから大好きよ」


ニンマリと嬉しそうにヒルドは笑った。


幼い外見のファフニールよりも、ずっと無邪気な子供のような笑顔だった。


「安心しなさい。私は忠義には報います。貴女の求める『戦場』を必ず用意してあげますよ」


その言葉に更に嬉しくなり、ヒルドはファフニールの近くに駆け寄る。


「キハハ! これだから、ファフニールちゃんは大好きー!」


感極まったヒルドは目の前の少女をハグした。


身長差故に、小柄なファフニールの顔がヒルドの胸元に埋まる。


「痛たたた!?」


ヒルドの付けている首輪の棘が後頭部に刺さり、ファフニールは悲鳴を上げた。


抱き締められた腕の中で必死にもがくが、見た目通りの腕力しかなく無意味だった。


ファフニールの抵抗さえも、子供のじゃれつきのようにヒルドは笑みを浮かべる。


どちらかと言えば、じゃれついているのはヒルドの方なのだが…


「痛い痛い! この、離せ! 愚か者!」


「あ…」


口調を乱しながら暴れていると、ようやくヒルドから解放された。


寂し気に手を伸ばしたヒルドをキッと睨み付ける。


「…何度も言いますが、こう見えても私は貴女より年上です。こういう事は控えて貰いたい」


何とか落ち着きを取り戻し、乱れた髪を直しながらファフニールは言った。


「えー。何度言われても信じられないなー。こんなに色々と小さいのに、私より年上なんて」


「………」


色々。


スッと思わずファフニールは先程まで顔に押し付けられていたヒルドの胸元へ視線を向けた。


それから自分の発育に乏しい胸を見比べてしまう。


「…もしかして、気にしてたー?」


「ッ! そんな訳ねえだ………ないです。いいですか。もうこの話はしないように」


怒りを押し殺したような無表情でファフニールは言った。


これ以上言うな、と目で念を押す。


「はーい。仰せのままに、雇い主様ー」


敬愛の感情が一切感じられない返事をしながらヒルドは頷く。


「まったく………む?」


その態度に呆れたような諦めたような表情をしていたファフニールが呟いた。


ヒルドから視線を逸らし、どこか遠くを見つめる。


「森に、何か…」


そう呟いたファフニールの視線は、森の入口付近へ向けられていた。








それは突然の出来事だった。


アールヴの森の惨状に放心していたアルファルの前に、森の中から獣が現れた。


否、その生物を獣と称するのは奇妙かもしれない。


緑に覆われた熊を思わせる身体。


肉食獣のようながっしりとした四本足。


顔に当たる部分には目も鼻もなく、裂けたような口が大きく開いている。


頭部には毒々しい真っ赤な花が一輪だけ咲いており、その怪物の恐ろしさを際立たせていた。


「何なんだよ、コイツは…!」


「わ、分かりません。この森にこんな生物はいない筈です…」


植物と動物の性質を併せ持った怪物を前に、二人は急いで距離を取る。


『植物の獣』は目の無い顔を二人へ向けて、足を止めた。


開きっぱなしの口からは荒い息と涎が垂れている。


(コイツ、人形か? 俺のゴーレムみたいに魔術で作られた…)


植物の獣が纏う魔力を感じ取り、アルはその正体を推測する。


この世の物とは思えない怪物。


無から有を生み出す土属性の魔術なら、作ることが可能だ。


(だが、それなら魔術師はどこにいる? どれだけ卓越した魔術師でも、人形を永遠に存在させることは出来ない筈)


ゴーレムは魔術師の魔力によって維持される仮初めの存在だ。


魔術師から与えられた魔力が尽きれば、その偽りの命は途切れ、土塊に戻る。


与えられる魔力が永遠でない以上、その命も有限だ。


『――――――』


獰猛な唸り声を上げていた植物の獣が、ふと何か囁いた。


叫び声ではなく、何らかの意味を持った声。


発音が酷くてアルの耳には詳しく聞き取れなかったが、それは確かに『言葉』だった。


ゴーレムが言葉を話す知能を持つなど、有り得ない。


「生きて、いるのか?」


アルの言葉を肯定するように、植物の獣が吠えた。


強靭な四本足で大地を蹴り、二人に迫る。


熊に似た巨体の割に狼のように迅速な動きだった。


(…有り得ない)


ゴーレムを生み出して牽制しながらアルは内心呟く。


土属性は無から有を生み出す魔術だが、限界はある。


扱う人間の魔力を超える物は生み出せず『生命』を創造することは出来ない。


完全なる生命の創造は人ではなく、神の領域だ。


「アル! 前に!」


思考に耽っていたアルは焦るようなアルファルの声でハッとなる。


植物の獣がゴーレムを物ともせず、アルへ向かって来ている。


咄嗟に対抗しようとアルはゴーレムを創造する。


先程より巨大で、獣に勝る腕力を持つゴーレムを…


「――――待ちなさい」


その時、獣の動きがピタリと止まった。


小さく何事か呟き、アルから離れていく。


森の奥から現れた少女の下へ駆け寄る。


「そのゴーレム。貴方が『軍神』アルヴィースですね」


ペットのように近寄ってきた植物の獣を手で制し、幼い少女はアルが作ったゴーレムを見た。


外見不相応の圧迫感を感じ、アルは警戒した目で少女を見る。


「君は…?」


「申し遅れました、私はファフニール。『永遠』のファフニールです」


ファフニールはそう言い、薄く笑みを浮かべた。

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