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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第十五話


「ビーンゴ」


探していた集団が目につく位置についた時、アルは呟いた。


動物の皮で作ったような粗悪な服装の集団。


皆、似たような恰好をしているが、背丈や歩き方に共通点はない男達。


山賊団だ。


「今日の誘拐、上手く行ったかねぇ? 俺達にも女が回ってくるといいけど」


「はっ、襲撃に参加もしてねえのに回ってくる訳ねえだろ。ボスが独り占めに決まってる」


「違えねえ。はぁ、もっと沢山の女を奪えたらなぁ」


ゲスな笑みを浮かべながら山賊達は笑い合う。


アルが近付いていることには気がついていないようだった。


弱い者を襲うことに慣れ過ぎて、警戒心が薄れているのだろう。


(…少し時間を食うが、見逃す理由はないな)


ワールウィンドに滞在していた時も、目立つ山賊の噂を聞けば動くこともあった。


だが、その頻度は少なく、数も大したことはなかった。


一般的に帝国は騎士団本部がある北部より南下するほど治安が悪くなっていくとされるが、ここまでとは思わなかった。


「何で戦争が終わっちまったのかなぁ。あの時は良かったのに」


その時、山賊の一人が言った言葉にアルの眉が動く。


「エルフ大戦は最高だったぜ。エルフってのは、基本的に人間と変わらねえからなぁ。おまけにどいつもこいつも美女ばかり! 捕まえ放題で抱き放題だったぜ!」


チリッ、とアルの視線に殺意が込められた。


その感情に反応してか、右腕に陣が浮かび上がる。


静かな殺気を感じ取ったのか、山賊達は振り返った。


「何だお前? 何見てんだよ」


訝し気な顔をする山賊を見て、アルは深いため息をついた。


「別に正義を語るつもりはないが、お前達を見ているとイライラするんだよ…」


こんな連中と同じだった自分を思い出すようで。


かつての自分を見ているようで、自己嫌悪で死にたくなる。


ドロドロと大地が溶け、粘土細工の兵隊達が作られていく。


巨人の数は十二体。


山賊達と同じ数だった。


「ま、魔術師か! しかもこんな…!」


現れた巨人を前に山賊達は浮足立つ。


大戦の参加者だけあって、魔術師の強さは身に染みているのだろう。


「一度だけ警告する。今までの行いを悔いて、真っ当に生きるつもりはあるか?」


どんな悪党にも一度は悔恨の機会を与える。


それがアルの決めているルールだった。


過去に取り返しのつかない罪を犯したアルだからこそ、他者が後悔して改心することを否定しない。


「わ、分かった! 俺達は山賊団を抜ける! それでいいだろう!」


「助けてくれ! 殺さないでくれ!」


恐怖からか、山賊の男は剣を捨てて命乞いをした。


地に落ちた錆び付いた剣を一瞥し、アルは男の顔を見る。


「…いいだろう。次、会った時に山賊だったなら必ず命を奪う」


キッチリと釘を刺し、アルは巨人達を粘土に戻す。


興味を失ったように山賊達に背を向けた。


「へ、へへ…ありがとう、よ!」


瞬間、炎の槍がアルの身体に降りかかった。


一発だけではなく次々と炎の槍が降り注ぎ、アルの身体を焼き払う。


「馬鹿が! 騙されやがって!」


嘲笑うように山賊達は叫んだ。


その手には、使い古された杖が握られている。


「魔術師は自分だけだと思ったか、馬鹿野郎!」


「高度な魔術を使う才能があっても、戦いは素人だな!」


燃える炎に向かって山賊達は口々に罵倒を続ける。


「がはははは!………待て、お前達あいつの杖を見たか?」


ふと我に返ったように一人の山賊が呟いた。


水を差されたように山賊達は見ていない、と答える。


杖を使わない魔術師。


大戦に参加した人間なら、誰であろうと知っている相手。


「…なるほど、お前達は元傭兵だな?」


炎の中で影が動く。


水気を含んだ粘土で炎を防いだアルの眼が、山賊達を射抜く。


「だから、騎士団製の杖を使っているのか。時代遅れの廃棄品とは言え、山賊まで杖を使うようになるとは時代の進歩も一長一短だな」


平坦な口調で話しているが、その隻眼は爛々と輝いて山賊達を見ていた。


「予想していたとは言え、好意を無下にされるのは気分が良い物じゃねえなァ」


冷たい殺意に山賊達は震える。


勝てる筈がない。


そう考え、山賊達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「警告は一度だけだと言った筈だぞ」


周囲を取り囲むように大地が盛り上がり、粘土の兵隊が形成されていく。


サイズは人間と同等だが、その数は周囲を完全に包囲しており、逃げ道を塞いでいる。


「戦争、懐かしいんだっけ?」


「た、助けて…」


「カハハ! 俺が思い出させてやるよ。戦争の恐怖ってやつをなァ!」


鬼神のような壮絶な笑みを浮かべ、アルは山賊達に襲い掛かった。


山賊達は半狂乱になりながら杖を振るうが、兵隊は身体が傷付くことも恐れずに間合いに飛び込む。


岩石の腕で杖や山賊の首を掴み、万力の如き力でへし折る。


それは、戦争とすら呼べない虐殺だった。








「………」


気まずそうな笑みを浮かべてアルはアルファルの下へ戻っていた。


山賊達相手に虐殺していたとは思えない表情だった。


普段は穏やかな平和主義でいながら、悪人相手にはどこまでも非情になれる。


どちらも偽りではなく、アルの本来の姿だ。


平穏を送りながらも、悪人を見て見ぬふりすることが出来ない。


平和を愛しながらも戦争を求めると言う『英雄』の性が抜けず、自ら争い事に首を突っ込んでしまう。


魔術師になる時に受けた魔術実験も影響しているのだろう。


騎士団から離れても、普通には生きられない。


「…あれ?」


歩きながらアルは首を傾げた。


アルファルを残して行った場所は、この辺りだった。


周囲の地形を把握するアルが間違える筈はない。


にも関わらず、アルファルの姿はどこにもない。


「まさか…」


先程の山賊達の言葉が思い出される。


誘拐、襲撃、ボス、まるで別のグループが存在するような口調だった。


アルが離れている隙に別の山賊グループがアルファルを誘拐して…


「あ、やっと帰ってきましたね」


「…何だ。いたのか」


嫌な予感がしていたアルは、聞き覚えのある声を聞いて脱力した。


安堵の息を吐きながら声の聞こえた方を振り返る。


アルファルはアルより少し離れた所にある木に寄り掛かっていた。


どうやら、木に隠れて見えない位置にいたようだ。


「いたなら早く言ってくれよ。誘拐されたかと思ったじゃないか」


「誘拐されかけましたけどね」


アルファルは近くの木をコンコンと叩きながら言った。


「…どういう事?」


「アルがいなくなってからすぐに動物の皮を来た人相の悪い人達が現れまして。問答無用で連れて行こうとしたので…」


そこまで言うとアルファルは困ったように背にしている木の枝を千切った。


「…殺したの?」


「いえ、それはやり過ぎかと思ったので。少し姿を変えて反省して貰おうかと」


その言葉を聞いて、アルは違和感に気付いた。


アルファルが立っている場所。


先程二人で話していた時には、あの場所に『木』など生えていなかった。


「ま、まさか、その木…」


「ええ、水の魔術で木に変えました。今は言葉も話せませんが、意識は残っている筈です」


アルファルの背にある木は五本。


何年も前からそこに生えていたかのように立派な木だ。


それが元々人間だったなど、誰も信じないだろう。


「木の気持ちが分かれば、少しは自然を大切にするようになるのではないでしょうか?」


「…元に戻るのか?」


「ほっとけば数日で戻りますよ」


アルは木になった山賊をもう一度見る。


命に別状はないだろうが、数日間木の姿になって過ごすのはどんな気分だろうか。


エルフも中々エグイ魔術を使う物だ、と自分のことは棚に上げて思ってしまった。


「そんなことより、この人達が言っていたのですが…」


木に触れながらアルファルは呟く。


「…この人達のボスはエルフ、みたいなんです」


期待と不安が混ざったような表情で、アルファルは言った。

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