表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
14/104

第十四話


アルがワールウィンドを出た数時間後。


この町を訪れた二人組がいた。


「風、強いですね。少し寒くないですか?」


一人は十代後半くらいの少女だった。


身なりにあまり気を遣わないのか、やや飛び跳ねた黒い髪をした少女。


動物の爪で作られた首飾りを付け、化粧っ気のない自然な顔立ちをしている。


日に焼けた褐色肌をしており、細身ながら引き締まった体に騎士服を纏っていた。


騎士に配給される一般的な杖よりも長い、身の丈程の杖を背中に背負っている。


清廉な騎士とは程遠いが、明るく親しみやすい雰囲気の少女だった。


「………」


もう一人は三十を超えた男。


赤い髭を蓄えており、厳めしい顔をしている。


眉も髪も全て剃り落し、その威圧的な雰囲気に磨きをかけている。


鍛え上げられた肉体は火傷や古傷が多く、岩肌のように無骨。


騎士服の上から、革で作られた特注の赤いマントを羽織っている。


顔には不機嫌そうな表情を浮かべており、少女とは正反対に周囲を威圧する雰囲気の男だった。


「ま、まさか、こんな所までわざわざ来ていただけるとは、思いませんでした…感謝感激です」


アルとも会話した若い騎士が上擦った声で言った。


「そんなに恐縮しなくていいですよぉ。偶然、近くにいただけですから」


「は、はい。エイトリさん」


「私には別に敬語使わなくていいのに。多分、そっちが年上ですから」


同行者である少女『エイトリ』は苦笑しながら言った。


若い騎士とは違って、赤髭の男が放つ威圧感に慣れているようだった。


「………」


「え、えと、それでこちらが、町に現れたエルフです」


無言で見つめる赤髭の男に緊張したように、若い騎士は地面に置かれた木の棺を指差した。


簡素に作られた棺の中には、ロプトルの遺体が収められている。


「我々が駆け付けた時には既に死亡していました。殺したのは協力者の…」


「コイツは…」


若い騎士の言葉を遮るように、赤髭の男が口を開いた。


ゴツゴツとした腕を振り上げ、手を翳す。


憎いエルフの遺体へと。


「え?」


瞬間、ロプトルの遺体が業火に包まれた。


勢いよく燃え上がった炎は周囲を包み込み、若い騎士も赤髭の男自身さえも焼き尽くす。


「ぎ、ぎゃああああああああ!」


炎を被った若い騎士が悲鳴を上げてのたうち回る。


赤い光が視界を埋め尽くしており、身体は燃えていると言うのに恐怖に震える。


「…騒ぐな。俺の炎が同胞を傷付けることはない」


言われて若い騎士はハッとなった。


身体は炎に包まれていると言うのに、熱さを感じない。


視界は炎で埋め尽くされていると言うのに、息苦しさすら感じなかった。


「俺の炎は『敵対者』のみを焼き尽くす」


自分の生み出した炎に包まれながら男は言った。


それは異様な光景だった。


紅蓮の炎はロプトルだけを焼き続け、他の者には火傷一つ負わせない。


まるで神の選別のように、炎が焼き尽くす相手を選んでいる。


「用は済んだ。行くぞ」


「…燃やして良かったんですか? レヴァン隊長」


「問題ない。エルフの遺体を欲しがる好事家は大勢いる。残しておいては害になる」


『レヴァン』と呼ばれた男はそう言い、呆然とする騎士の足下へ視線を向けた。


「それに、奴らはしぶといからな。死体も焼かなければ落ち着かん」


焦げ目すらついていない木の棺の中には、灰も残っていなかった。








「暑い…」


炎天下を歩きながらアルファルは辛そうに呟く。


休憩を終え、再び歩き始めたばかりだが、予想以上に疲労を感じていた。


腰に下げた水筒を一つ取り、一気に傾ける。


「んぐ…んぐ…」


「何だか辛そうだね…」


急ぐように水を飲み干すアルファルを見兼ねたようにアルは言う。


「ぷはぁ………まだまだ、大丈夫ですよ」


陸に上がった魚のような表情でアルファルは言った。


「ですが、先程の川で汲んだ水が残り少なくなってきましたね」


「そうだなぁ。この辺に水場は…」


そう言うとアルはその場に片膝をつき、右手を地面に付けた。


片方しかない目を閉じ、意識を集中する。


地に触れた右手に、刻まれた陣が浮かび上がった。


「うん。このまま真っ直ぐ行った所にあるみたいだ」


「…地形が分かるのですか?」


「まあな。土属性だからか、周囲の状況が分かるんだ」


長旅で重宝しているアルの特技の一つだった。


魔術ではなく技能である為、魔力を無駄に消耗することもない。


「やはり、土と言う分野においてあなたは私より優れているようですね」


「エルフである君にそこまで褒められると、流石に照れるな」


「私も、負けていられませんね」


アルファルはそう言いながら水筒に残っていた水をその場に撒いた。


浸み込んだ水が地に陣を形成していく。


中心にエルフ語で『ウルザブルン』と描き、それを囲むように巨大な円を刻む。


「ウルザブルンは安全に生命を育む『土地』を作り上げる魔術です。それを応用すれば…」


青く光る陣へアルファルは種を投げた。


植物の種は地面に触れた途端に急速に成長する。


それは瞬く間に一本のリンゴの木に変貌した。


「…あむ。まだ甘みが薄いですね」


驚くアルを余所に、アルファルは呑気に取った実を齧った。


「傷を癒す以外にもそんな使い方が出来るのか…」


「これが本来の使い方なんですよ。自己治癒力を促進させるのは『成長』を応用しているんです」


適当に何個か実を摘み取りながらアルファルは言った。


「しばらくはコレで水分を取りましょうか。はい、アルも」


「ありがとう。しかし、本当にエルフの魔術は凄いな」


エルフの魔術に感心しつつ貰ったリンゴを齧るアル。


種から急速に育った割に、市場で売られてもおかしくない味だった。


この魔術がある限り、旅の食料が尽きることはないだろう。


「…ん?」


リンゴを齧っていたアルは唐突に首を傾げた。


「どうしたんですか?」


「ちょっと静かに」


先程のようにその場に片膝を付き、地に触れる。


触れた部分から大地に溶け込むように精神を集中する。


アルがこの技能を重宝している理由は、地形を把握する以外にもう一つあった。


大地と精神的に一体化することで知覚できるのは、周囲の地形だけではない。


その大地の上に存在する物。


大人数で大地を歩く足音など。


「…この先の水場に、大勢の人間がいるみたいだ」


「騎士のキャンプか何かですか?」


「いや、足音が不規則すぎる。騎士でコレはあり得ない」


アルは閉じていた眼を開いた。


その眼は、剣呑な雰囲気を纏っている。


「商人にしては数が多い。荷を運ぶ馬車の音もない」


「足音だけでそこまで分かるのですか?」


「コレでも、元軍人なんでね」


自虐するように言いながらアルはついていた膝を離し、立ち上がった。


「君は少しの間、ここにいてくれ」


訝し気な顔をしているアルファルに告げ、アルは返答を聞く前に走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ