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アルフヘイムの杖職人  作者: 髪槍夜昼
第二章 ノスタルジア
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第十三話


「コレは…駄目だな」


凹凸の激しい道を歩きながらアルは呟く。


手に握っていた木の枝を見て唸った後、地面に捨てる。


「コレは太さが足りない。コレは、短すぎる」


道に生えている木から枝を取っては捨て、取っては捨てを繰り返す。


隣を歩くアルファルはそれを訝し気な顔で見ていた。


「…何をしているのですか?」


「杖作りの材料集め。前に持ってた物は壊れちゃったからさ」


そう言ってアルは背負ったリュックから先端の無い杖を取り出した。


ロプトルと戦った時に壊されてしまったエメラルドの杖だった。


中心部分から完全に切断されており、杖として機能していない。


「…私の勘違いでなければ、あなたは杖無しで魔術が使える筈ですが?」


首を傾げながらアルファルは言った。


アルは一般的な魔術師と違い、身体に陣を刻むことで魔術を使用する。


それ故に魔術を使う際に杖を持つ必要はなく、また人間は陣を二つ以上使えない為、別の魔術を使うことも出来ない筈だ。


「確かに、おじさんは杖無しで魔術が使えるよ。そもそも、身体に刻んだ陣と反発するから杖自体使えないんだけどね」


「では何故?」


「それはアレよ。君の耳と同じ理由かな?」


手に取った枝の具合を確かめながらアルは言った。


「杖を使わずに魔術が使える第一世代の魔術師ってのは、もう一握りしか生き残って無くてね。杖無しで魔術を使う所を見られちまったら、それだけで正体がバレてしまう」


先端にエメラルドを付けた派手な杖を振り回していたのは、目立たせる意図もあったのだろう。


平凡な魔術師や杖職人を自称し、出来る限り目立たないように生きてきたのだ。


「…あなた以外にはいないのですか。その、第一世代の魔術師は」


「殆どが戦争で死んだよ。俺以外に生き残ったのは、レヴァンって男とヒルドって女の子だけさ」


「レヴァンに、ヒルド…」


「この三人でアルフヘイムの三英雄とか呼ばれていた時代もあったかな。まあ、戦争が終わってすぐに俺は騎士団を抜けたし、三人揃っていた時期なんて僅かだけど」


懐かしむような、苦い思い出を噛み締める様な表情でアルは言う。


レヴァンにも、ヒルドにも、戦争が終わってから一度も会っていない。


あの戦争の後でもレヴァンは変わらず騎士団に残ったと聞くし、ヒルドに至っては騎士団の任務で戦死したと聞いている。


どちらも会うことの出来ない存在になってしまった。


「…さて、もう少し歩いたら休憩にしようか。この先に綺麗な川があるんだ」


「それは助かります。そろそろ水不足が深刻化する所でしたから」


アルの提案に、アルファルは嬉しそうに声を弾ませる。


長旅には慣れていないのか、少し前から元気がなかった。


髪飾りのように頭に付けている白い花も心なしか萎れて見える。


互いの過去を語り、目的を明確してすぐに二人はワールウインドを出た。


長く滞在していたとは言え、アルの知り合いは女将しかいなかった為、別れはあっさりと終わった。


アールヴの森は帝国の最南部である為、帝国の南西に位置するワールウインドから出て南東の方角だ。


長旅とは言えない距離だが、森から出たことがないアルファルに徒歩は辛いだろう。


アルはアルファルの様子を見て休憩することを決めた。


「コレは、本当に綺麗な水ですね…」


川に到着し、冷たい水に触れたアルファルが感動するように言った。


普段の冷たい表情とは打って変わって、どこかうっとりとした表情をしている。


「心が洗われますよー…」


「…そんなに?」


かつてないほどにテンションの高いアルファルに少し驚くアル。


水を与えられた植物のように上機嫌だ。


エルフは木から生まれるらしいが、性質まで植物と似通っているのだろうか。


「まあ、リラックス出来るのは良いことだ。好きに休憩してくれ」


リュックからキャンプセットを取り出しながらアルは呟く。


「…ちょっと、水浴びしてきますねー」


「ああ、好きに……って、何!?」


その爆弾発言に背を向けていたアルは慌てて振り返った。


「いやいや、君とは文化が違うのは知っているけどそれは駄目だって!?」


アルファルに混乱しながら叫ぶアル。


「野外で全裸で水浴びとか最早痴女になっちゃうから!? おじさんも狼になっちゃうかもよ!?」


動揺しているのか言っていることが意味不明だった。


一時期は奴隷を買い込んでいた時期もあったアルだが、女を金でどうにかする性格でもなかった為、根は純情なままだった。


「って、アレ?」


僅かに顔を赤らめたまま、アルは首を傾げた。


確かにアルが恐れていた通り、アルファルは川に入っていた。


何故か、服を着たままで。


「全裸が、なんですか?」


落ち葉を集めて作ったような独特なワンピースを纏ったまま、アルファルは川の中を泳いでいた。


「………何で服着ているの?」


「え? 周囲に人がいる時に裸になったりしませんよ。はしたないです」


「…服が濡れるよ?」


「ああ、その点は大丈夫です。この服は特殊な素材で出来ているのですぐに乾きます」


「…そう」


危惧していたことは起こらなかった筈なのに、謎の敗北感に打ちひしがれるアル。


何故か、ドッと疲れた。


キャンプセットの準備も後回しにして、その場に寝転んだ。


「あ、そうだ。先に言っておくと今日中にアールヴの森には辿り着けないから」


不貞寝したままアルは声を上げた。


それはアルファルの歩く速度から判断した結果だった。


少なくとも日が沈むまでに目的地に辿り着くことは出来ない。


「だから、今日は日が落ちる前に森の近くのグルーミィって町に向かうから」


「分かりました。判断は任せます」


旅に不慣れな自覚はあるのか、アルファルは特に異議を唱えなかった。


(…こう言う時の物分かりは良いんだけどなぁ)


時々、驚くようなことを言ったり仕出かしたりするのだ。


文化の違いと言ったらそれまでだが…


こちらの考えには気付いていないのか、アルファルは水に揺られながら鼻歌を歌っていた。


「…水の魔術師だと、やっぱり水を好む物なの?」


「そうですねー。私はそうですよ。はふぅ」


緩んだ表情のままアルファルは満足そうに息を吐いた。


「私はエルフですから、人間のように一つの魔術を極めたりはしないのですが、一番得意な魔術は水属性ですからねー」


一つの陣を操る人間とは異なり、エルフは様々な魔術を同時に操る。


得意な属性に個人差はあるだろうが、一つの魔術しか使えないエルフは存在しないだろう。


ロプトルも、姿を消す魔術と、ゴーレムを切り裂いた魔術の二種類を使用していた。


「ウルザブルン、だったか?」


「ええ、私は作った陣の内部を結界に変える水の魔術です。結界内の生物を癒すことも出来ます」


宿屋でアルの傷を癒し、ガラールの遺体から傷跡を消し去ったアルファルの魔術。


外敵から身を守り、内部の生物を癒す防衛に特化したエルフらしい魔術だった。


「…何と言うか、優しい力だな」


他者を守り、傷付いた者を癒すこと。


それは正にアルの望んだ騎士像そのものだった。


人を殺す道具しか作り出せないアルからすれば、羨ましかった。


意味のない感傷を口に出しそうになり、アルはそれを堪えた。

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