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大精霊の怒り。

全員が席に着き、改めて話し合いを再開した。

ローレはリュールの側に居たかったようだが、近くにテンバールの王族がいるとエレンの膝の上に座っている。

エレンがローレの首くすぐっていると、ローレは何やら誘惑に抗っているように身体がぷるぷると震えながらも、直ぐにエレンの手に夢中になっていた。

背後で立っているヴァンが何やら不機嫌そうで、ローレに対して威嚇している。それを隣に立っていたカイがヴァンを小突いたりして、何とか気を逸らしていた。

テツは拘束を解かれ、護衛としてリュールの背後に立っているが、王族が近くにいるせいか心なしか顔色が悪い。


「さて、改めて話をしようか。うちの姪を探し出してくれたそうだね。礼を言う」


陛下がにこりと微笑んだ。それに倣い、隣にいたガディエルも礼を言う。


「俺がいた村に不審な貴族が出入りしていました。最初こそ俺への刺客だと思っていたんです。テツが偵察してくれた時に、呪われた者がいると報告をしてくれまして……」


「テツ? 君の後ろにいる護衛かな」


「はい。名はティオーツ。……本人は精霊だと言っています」


「何?」


「何だって、君は精霊なのか?」


リュールの知らなかったような口ぶりにエレンは首を傾げた。


「……私はあちらで黒猫の姿を纏っていらっしゃる、ローレ様の眷属。ローレ様のお力で人間の姿を纏っているだけに過ぎません」


「精霊が人型になるのは知っていたが……」


ガディエルがちらりとヴァン達の方を見る。虎の姿から人へと変化するのを知っていた。

力がある大精霊のみが人型になれると聞いたことがあった。


「ああ、なるほど。人型が取れるくせに力が弱いと思うたらそういうことか」


ホーゼがようやく納得したと口を挟んだ。


「わらわは夜を司る。姉様は昼。わらわ達は二人で一つ。姉様がいないと力が出せないのじゃ……」


エレンの膝の上で耳を垂らして落ち込むローレに、エレンはよしよしと頭を撫でた。


「昼の精霊……それはもしや」


「姉様は教会本部におるぞえ」


「やはり……」


それを聞いて目を丸くしているガディエルの様子に疑問を持ち、何のことだとエレンがロヴェルに問うと、その答えを教えてくれた。


「教会本部には女神信仰を象徴する女神像があるんだ。それを守る守護精霊がいるんだよ。それが真っ白な猫なんだ」


「あー、なるほど……」


その守護精霊と対となる精霊が目の前にいると思えば、確かにそれは驚くだろう。

エレンの膝の上にいるローレもまた、ヘルグナー国で黒髪が尊いと象徴になるほどだった。


そこまで考えて、エレンはまた何かに引っかかった。


(何故ローレはリュール様についているんだろう……)


リュールと契約は結んでいないようである。ローレがヘルグナーの王族を見守っていたならば、リュールはただの王族の一人というだけに過ぎない。

ヘルグナー国を裏切ったとされる先祖と同じ色を持ったリュールを庇う理由は何であろうか。袂を分かつ場にいたのであれば、テンバールの祖先はローレにとっても裏切り者に近いのではないかと想像した。

その気持ちであれば、リュールを快く思わなかったとされる他の王族と同じ側にローレはいただろう。

リュールに同情して側にいたとしても、他の王族を見捨てるには少しばかり理由が足りない気がしたのだ。


「……エレン?」


「え?」


ロヴェルの心配そうな声で意識が浮上する。

はっと顔を上げれば、部屋中の者達がエレンを見ていた。


「ご、ごめんなさい」


考え事をしていて話を全く聞いていなかった。怒られるかと思ったが、陛下は先程からエレンが考え事をしている理由を話せと言った。

ばつが悪そうにしながらも、エレンは膝の上に座っているローレに視線を落とした。


「……どうしてローレはリュール様の側にいるのかと、気になって」


「ひ、姫様?」


「長い間、ヘルグナーの王族を見守っていたんでしょう? 王族の一人に先祖帰りが産まれたからという理由だけじゃ、ローレがリュール様の側にいる理由には足りない気がするの」


「そ、それは……」


「何か隠しているわね? それが原因で、リュール様は狙われたのでは無いの?」


「……っ!!」


エレンの言葉は核心をついていた。ローレはびくりと震えている。エレンの言葉にリュールも驚いたようで、ローレ? と話を聞き出そうとした。


「それは……俺の魂が原因じゃなかったのか?」


「魂?」


「ローレに言われたんだ。その、……俺の魂が、ヘルグナーの初代王と同じだと」


「魂が、同じ!?」


周囲の者達もどういうことだと驚いている。それ以上に、エレンが驚いて大声を上げてしまった。思わずエレンが立ち上がり、膝にいたローレはころんと転がってしまった。


「あ、ごめんなさい!」


ローレを持ち上げて抱っこするが、エレンはそのままリュールの側まで駆け寄った。


「エレン!?」


エレンの行動にロヴェル達が驚く。しかしそれにエレンは気付かずにリュールを質問攻めにした。


「魂が同じというのはどういうこと!? 先祖返りではなかったの? 記憶は? その時の記憶はあるの!?」


「え、ちょ、ちょっと待ってくれ……!」


エレンは信じられなかった。同じ魂を持って転生している存在が目の前にいる。

己と同じような存在が、目の前にいたのだ。


「エレン、落ち着きなさい」


「あっ」


後ろからひょいっと持ち上げられて、ロヴェルの腕の中に閉じ込められた。


「一体どうしたの。珍しい」


「父様、リュール様とお話させて!」


エレンのお願いに、ロヴェルとガディエル、そしてカイがくわっと目を見開いた。


「駄目」


三人が同時に言った。

これに思わず、エレンはきょとんと目を瞬く。その顔はどうして三人が? と言わんばかりであったのだが、堪り兼ねた陛下の失笑がその膠着した空気を変えた。


「あっはっはっは! こやつら……本当に救えないぞ……っ!!」


他の者は呆れている。

一頻り笑った陛下は、エレンに言った。


「あー、エレン。私も気になるがそれは後にしろ。先に聞くべき事がまだあるだろう?」


「……はい」


しゅんと落ち込みながら、ロヴェルの腕の中でエレンは抱いたままのローレを持ち上げた。


「魂が同じという理由で、あなたリュール様に何かしたでしょう?」


「…………」


ローレは青ざめて固まってしまっていた。

その様子は、もしかしたら本人にもそのつもりが無かったのではないかとエレンは気付いた。


「まさかあなた……そうなると思いもしなかったの?」


「そんな……わらわのせいなのか?」


ローレがしでかした事で、リュール周辺の怒りを煽っていたとしたら。そんなことをしなければ、リュールはあの屋敷で今も家族に囲まれていたのかもしれない。


「そんな……そんな……」


ふるふると首を振るローレはなかなか理由を口にしなかった。

しかし、陛下が何かに気付いたようで、それを口にした。


「もしや……名か」


「……名前?」


「リュールという名は、ヘルグナーの初代王と同じ名だと思ってな」


「あなた、始祖の名を与えたの!?」


リュールは髪色が薄い。それだけでも状況が悪いというのに、裏切り者と同じ色を宿した王子に、初代王の名。

この衝撃は、ヘルグナー王族にとって赦せるものでは無かったのだろう。


「なるほど。命を狙われる筈だ」


王族だからこそ分かるのだろう。

色に拘る王族。ローレを慕い、黒が尊いとまでされてきたのに、ローレは裏切り者と同じ色を選んだのだ。

ローレに裏切られたと思い、違う精霊を欲した。それが今回の事件と繋がっている。


「これでヘルグナーの方は何となく分かったがね、問題は君だ」


陛下はにっこりと笑ってリュールを見る。

陛下に見つめられて、リュールは悪寒が走り、思わず背筋が伸びた。


「そこまで狙われている君が、どうして我々に手を貸す? 何が目的だ」


陛下の目はもう笑ってはいない。リュールを隣の国の王子と定め、敵として見ている。


「……精霊に聞いたのです。呪われた者と兄上……ヘルグナー王が共謀し、精霊の宝を盗もうとしていると」


ごくりと唾液を飲み込んだリュールは、真っ直ぐと陛下を見た。


「お願いです。ヘルグナーを消すのは止めて下さい!!」


「……消す? 戦争を止めるではなく?」


「ヘルグナーの上空には怒った大精霊様が沢山いらっしゃいました。……ヘルグナーを消し炭にしたいと仰っていると、ローレが教えてくれたのです」


「消し炭!?」


これにエレン達が驚いた。

どういうことだとエレンがホーゼを見ると、しれっとした顔でホーゼは当然ですぞと返してきた。


「我々の宝を盗もうとしておるのですぞ。そのような行動に出る人間など国ごと即座に消してやりたかったのですが、女王がそれはならぬと仰ったのです」


「母様が……?」


「国を……消す?」


呆然とする人間達を見て、ホーゼが威圧を放った。


「自惚れるでないぞ人間共が。貴様等は女王と姫様の温情で生きながらえておるだけに過ぎんのだ」


「ホーゼ、止めなさい!」


ホーゼの威圧に部屋の中にいた人間達や精霊が畏れを抱いて膝をつく。

エレンが慌てて止めると、ホーゼはしれっとした顔で威圧を消した。


「ホーゼ、ここはもういいから一旦城へ戻ってくれないか」


「御意」


ロヴェルが言うと、承諾してホーゼは消えた。


「……ごめんなさい。リュール様は国を消されると思って、隠れていた身を晒したのですね」


「あ、そ、そう、です……」


ホーゼの威圧のせいで未だに息が整わないのか、リュールは胸元を押さえながら真っ青になった顔で何とか返事をしようとする。他の者達も息が絶え絶えになっていた。

中でも陛下と殿下が大変だった。ホーゼの力に触れたせいで呪いが触発されてしまい、結界の中は呪いが犇めいて真っ黒に染まっている。中にいる陛下達から返事が無い。恐らく気絶しているだろう。


陛下と殿下の周囲だけ、黒い球体に覆われたような状態にまでなっていた。これは近衛達の目にまで見えてしまう程の濃さだった。

これでは話どころではない。休憩を挟むとロヴェルが提案した。陛下達の結界を広げ、呪いの濃度が落ち着くまで出入りは禁止だと、エレンや精霊達は部屋から追い出された。


「エレン様、こちらへ」


カイに手を繋がれて、ふと思った。今なら話せるのではないかと。


「あの……!」


エレンがリュール達に話しかける。三人の近衛とリュール達がエレンを見た。


「お話……できる?」


「あっ、と……」


リュールはエレンの後ろにいたヴァンとカイを見た。何故かこちらを睨み付けるカイの存在にたじろぎながらも、皆と一緒ならと苦笑しながらも返事をした。


「では、お部屋をご用意しましょう」


近衛の一人がそう言って、部屋へと案内してくれた。



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