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大暴れ。

その後、陛下が殿下を取り成し、事情を説明した。テーブルを挟んでリュールの向かいに座り、ようやく落ち着きを取り戻す。

リュールの名前を聞いてガディエルは目を見開いて驚いていた。その間に、陛下が近衛に椅子を用意するようにと命じていた。

近衛がテーブルから少し離れた場所に三つ並べようとして、ロヴェルが二つでいいよと断った。


「エレンは私の膝の上……」


ロヴェルは笑顔でエレンを持ち上げようとして、エレンに手をパシリと叩かれる。


「父様、子離れして下さい」


エレンはすたすたと自分で椅子に向かって座ろうとしたが、少しばかり椅子が高かった。ちょっとだけ飛んで、ふわりと着地する。エレンはこういう時、精霊で良かったなとつくづく思う。

横で椅子を用意していた近衛が吹き出しそうになって必死に堪えているのをエレンは横目で気付いていたが、気にしないでツンと澄ましていた。その椅子の後ろに、カイとヴァンも立つ。

手を叩かれたロヴェルは呆然とエレンを見ている。それを横で見ていたサウヴェルが大きな溜息を吐いた。


「いい加減、エレンを淑女として扱うべきです。このままでは嫌われますよ」


サウヴェルもそう言って椅子に座った。そこでようやく現実に帰ってきたロヴェルが叫んだ。


「何をちゃっかりエレンの隣に座っているんだ!」


一番右端に座っていたエレンの隣に座ったサウヴェルは、三つ並んだ椅子の中心にちゃっかり座っている。

エレンに気遣ってロヴェルを遠ざけようとしたらしいが、ロヴェルは直ぐに機転を利かせ、端に置かれた椅子を掴んでエレンの隣に置き、そこに座った。

この行動に、エレンとサウヴェルの他の面々も呆れて見ていた。


「ロヴェル……お前、まだ子離れ出来ていないのか。エレンもいい歳だろう」


呆れた陛下の言葉にロヴェルは鼻息荒く答えた。


「出来ないのではありません。敢えてしないのです」


堂々と宣い、足を組んでエレンににこりと笑いかけた。

エレンの顔はうざいと言わんばかりに眉間に皺が寄っている。

その様子をリュールは呆然と見ていると、陛下が溜息を吐きながら、これがうちの英雄だよとロヴェルを紹介した。


「英雄ロヴェル……?」


「そう。中身はただの子離れ出来ない親バカだな」


「可愛すぎるうちの娘が悪いんだよ」


「責任転嫁は止めて下さい。迷惑です」


陛下とエレンからピシャリと容赦ない突っ込みが入るのだが、エレンに構って貰えたのが嬉しかったのか、ロヴェルはごめんねとデレッと相好を崩した。


「では話を進めようか。君は精霊に連れて来てもらったと言うが、その精霊はどこにいる?」


陛下がリュールに向き直り、笑顔で訪ねる。

それに居住まいを正し、リュールが説明を始めた。


「ローレに頼んで連れてきて貰おうとしたのですが、ここまで飛ぶのには力が足りないと……大精霊様にお願いする事になりました。だけど、ここに一瞬で来たと思ったら……すごい音がして、ローレ達が消えていたんです。その音で、兵士達が来て……」


「騒ぎになったと」


「はい……申し訳ございません」


「音か……ヴァン、彼等を連れてきた大精霊はどこにいるか分かるかい?」


「少々お待ち下され」


ロヴェルの問いに、ヴァンが返事をして目を瞑った。暫くすると、ヴァンが「ホーゼ殿ですな。精霊城におりますぞ」と返事をした。精霊同士で念話していたようだ。


「そやつ等を連れて城に転移したら、他の精霊二人が弾かれたと言っています。そのまま精霊達が気を失ってしまったので、城で休ませていたそうです」


「弾かれた?」


サウヴェルの疑問にロヴェルが何か思い出したらしく、しまったともらした。


「……父様?」


「あー……。精霊がな、近付かないように……結界を……」


さっと視線を逸らすロヴェルに、周囲の者達の視線が集中した。

エレンが結界? と聞くと、ロヴェルが溜息を吐いた。


「王家の者に誤って精霊達が近付かないように結界を張ってたんだ。大精霊以上なら問題ないが、力の弱い精霊は抵抗出来ずに呪いに取り込まれてしまうからな……」


頭を掻くロヴェルにエレンは納得した。

城には精霊魔法使い達と契約した精霊達がいる。王家の者も彼らに近付かないようにと魔法使い達の塔は城の端にしてあった。

それでも気まぐれな精霊達は、ふらふらと周囲をうろつきかねない。近くに王族がいると、呪いの存在に気付いて逃げてしまうが、不慮の事故が起きてしまう事を想定して、ロヴェルが王族の部屋や本人達に個別で結界を施していたのだ。

大精霊が転移させた場所は陛下の部屋の側であった。それで弾かれてしまったのだろう。


「ローレ達は大丈夫なのですか!?」


精霊が弾かれて気絶したと聞いて、リュールは落ち着いていられない。

慌ててソファーから立ち上がると、ロヴェルの側まで行こうとして近衛に止められた。


「こっちに行きたくて城で暴れている……?」


聞こえてきた言葉にヴァンが首を傾げていた。

詳しく聞くと、弾かれて気を失っていた精霊達が目覚めると、城に残されたリュールを心配して暴れているらしい。


「何だか他人を見ている気がしないな」


サウヴェルの一言でエレンの周辺にいた男達がさっと視線を逸らしていた。どうやら自覚があったようだ。


「陛下達の結界を狭めれば平気かな。ヴァン、ここに精霊達を呼べるか?」


「ホーゼ殿に伝えましょう」


そんなやりとりをした次の瞬間、空間に突如現れた大精霊が、ぽいっとローレとテツを放り投げた。


「わああああ!?」


テツの叫び声が部屋に響き渡り、部屋にいた近衛全員が反射的に剣の柄に手をかけて構えた。

ローレは放り投げられても、空中で身体をくるりと回転させ、しゅたっと床に降り立った。


「リュール! 無事かえ!?」


黒猫のローレが叫ぶと、周囲の者達が猫だとざわめいた。


「ローレ! テツも大丈夫かい?」


リュールがほっとした顔をした瞬間、リュールの方を見たローレが毛を逆立てた。


「呪われた者!!」


フシャーと牙をむくローレに、リュールは慌てた。


「いい加減にしろ。全く……」


ホーゼがローレの首の後ろの皮を掴んだ。ぷらーんとなったローレは一瞬、何をされたのか分からなかったらしく固まってしまっていたが、次の瞬間には「離さぬか!!」と叫んで手足をばたつかせていた。テツは近衛達に囲まれて身動きが取れずにいた。

ホーゼの顔や手には、うっすらと赤く線が引かれている。ローレに引っ掻かれたのだろう。

ホーゼがリュールを見て、そちらへローレをぽいっと投げた。にゃあああと叫ぶローレを慌ててリュールが受け止める。


「お主を心配して大暴れだ。全く……」


疲れた溜息を吐いて、ホーゼがエレン達の方へ向いた。

エレンと目があって、エレンがにこりと笑いかける。


「ホーゼ、大義でした」


「おお、姫様。こちらへおられたのですな」


ふわりとエレンの前に立ち、頭を下げたホーゼは、そうだと何かを思いついてエレンにお願いをした。


「姫様、あれをして下さらんか」


「あれ?」


「おまじないですぞ」


そう言ってホーゼがローレに引っ掻かれた手を差し出した。

ああ、と苦笑してエレンがその手を取った。


「いたい、いたいの、とんでけー!」


エレンはそう言って、ホーゼの傷ついた細胞に力を与える。

すると傷がふわりと光って、見えなくなった。


「おお! 本当に痛みが飛んでいきましたぞ」


引っ掻かれた傷は地味に痛かったようで、ホーゼは喜んだ。

治れば痛みは確かに無くなるのだが、こういった遊びを精霊達はしたことが無いせいか、エレンのこのやりとりを面白がってやって欲しいと時折ねだるのだ。

このやりとりの発端は、訓練で傷を作ったラフィリアにしてあげた事がヴァン達から不思議がられて流行ったことにある。


エレンは女神の力に目覚めて少しずつではあったが、元素から電子、そして細胞へと力の及ぼす範囲が広くなっていた。

生命のレーベンや治療のクリーレンには程遠いのだが、小さな傷くらいならばこうやって細胞に力を与えて活性化させ、治すことが出来た。


エレンの周囲はいつもの事だと微笑ましそうにそのやりとりを見ていたのだが、陛下や殿下、リュール達は驚いて呆然としていた。

しかし、このやり取りは気恥ずかしいものがある。エレンは周囲の様子に気付いて、顔を赤くした。


「傷を治した……せ、精霊なのか……?」


ここでようやく、エレン達の事を全く知らないリュールが言葉を発した。

エレン達はそこから説明しなければならなかったのだと改めて気付いたのだった。





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