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憶測のすれ違い。

城での話し合いから二日後、エレンはサウヴェルの元へ来ていた。

陛下達と話し合っていた内容は、直ぐにロヴェルがサウヴェルへ伝えてはいたが、ヴァンクライフト領での新たな事業の開拓としての具体的な内容はエレンの頭の中にある。

それを事細かに話していると、途中から把握しきれなくなったとサウヴェルはローレンに頼んで羊皮紙へと書き留めていった。


「兄上から聞かされた時も唖然としたが、ここまでとはな……。これほど具体的な内容だったら陛下も納得されるだろう」


「そうですね。そうなりました」


王子まで巻き込むあたり、陛下の乗り気が尋常ではない事が分かる。

正直な所、王族とやりとりをするのは気が進まないのだが、その見返りとして蜂蜜と蜜蝋を優先的に回してもらえるとなるとかなり大きい。

二つともとても貴重な品であり、薬の材料となる。特に子供は苦い薬を飲むのをとても嫌がる。

頑張って薬を飲んだら、ご褒美として蜂蜜を舐めさせてあげると言うと我慢してくれるのだ。


更にここ最近では、エレンの提案した感謝祭のお陰で、お菓子作りが流行していた。

特にパイに関しては、中に肉詰めもできると好評だ。


エレンの発言一つで、いつも沢山の物事が飛躍してしまうのだが、まさか王族の捜索の話し合いで何故かヴァンクライフト領の新しい事業に飛躍して、更に陛下を巻き込んでくるとは予想できなかった。

陛下はエレンが動くと国が動くと言ったそうだが、サウヴェルは思わずその言葉に納得してしまった。


「しかし蜜蝋でそんなことまでできるとは……」


蜜蝋で考え付くのは蝋燭くらいだろうか。

黒鉛と粘土で鉛筆。染料や顔料と蝋、タルクと呼ばれる滑石。それらと凝固材を混ぜて乾燥させて固めたものが芯となり、溝を掘った板二枚で芯を挟んで糊で接着し、そこから六角形や丸形にカットしたものが鉛筆や色鉛筆となる。

鉛筆などは技術的にまだ早いだろうから、最初は顔料を固めただけのパステルなどを作ってみる予定だ。凝固材は天然糊で代用するつもりだった。


「材料に糊が必要になるのですけど、それは獣の骨、皮、腸を煮たり、羊皮紙の切れ端を煮て作ることも出来るので、そういった物を扱っている商人とも連絡が取れたら良いのですけれど……」


「なるほど、当たってみよう」


サウヴェルは隣にいたローレンに指示を出す。肉の加工で残った物を使って再利用できればと思った。

この世界では羊皮紙が主流だ。他にもでんぷん糊という選択もあるので、糊に関しては大丈夫だろう。


「黒鉛ペンや画材に関しては、患者さんに絵を描かせる程度の量なのでそう沢山ではありません。どちらかといえば、直ぐに需要となる物の方を優先しましょう」


「蜜蝋で作る薬だな」


「はい」


「確かにこれは大きい。薬の需要は未だに多いし、隣の怪しい動きもあるからな……。分かった。こちらを優先して行おう」


「領内での養蜂では到底足りなかったから非常に助かる。ただ……良かったのか? 相手は王族だろう」


「それは……」


心配そうにこちらを見ているサウヴェルに、エレンは困った顔をしていた。


精霊とテンバールの王族との確執はそう簡単に消えるものでは無い。

下手をして近寄れば、また助けて欲しいと同胞の魂が手を伸ばしてくるだろう。

エレンが王族へと近寄ることは無いとしても、王族が何かをしてこないとも言えなかった。


「一応、カイ君とヴァン君が側にいてくれます」


「そうだろう。でなければ兄上が許さない」


苦笑しながらサウヴェルが言うが、エレンからしてみれば、それがかえって心配だった。

ガディエルに対してのカイの警戒が何だか怖いのだ。

ヴァンが王族に対して警戒するのは分かるのだが、一体どうしたというのだろう。


その事を思い出し、エレンが思わず黙り込むと、サウヴェルとローレンが互いに顔を見合わせた。

王族と何かあったのかと二人が心配している。

何かあったのかと聞かれ、エレンは物思いから意識を戻すと慌てて取り繕った。


「な、なんでもないの!」


「……ならいいが、何かあってからでは遅いのだぞ? 兄上ともきちんと相談するようにな」


「はい……」


隠し事がロヴェルにばれれば、とんでもない事になると三人は青ざめた。

そんな事にはならないとは思うのだが、エレンはカイの事が何だか分からなかった。

確かにカイの父親を助けた事はある。だからといって、ここまで気にかけてもらえるものだろうか?

エレンは少し前に悩み事を聞いて貰ってから、何だかカイの事が引っかかっていた。


黙り込むエレンにサウヴェルとローレンはまた顔を見合わせた。

エレンの様子がおかしいとふたりでこそこそと話し合う。


(エレンはどうしたのだ? 何か聞いているか?)


(存じませんが、このお話は既に陛下から許可が下り、ガディエル殿下とお話が進んでいると聞いております。その時に何かあったのであれば、カイから報告が上がるでしょう)


(そうだな。だが、エレンの様子がおかしいぞ?)


(はっ!? まさかこれは……エレン様は良いお年頃。まさかこれはもしかするとひょっとしまして!?)


(まて、落ち着けローレン!)


(当人達は好き合っているのにも関わらず、呪い故に近寄れない悲劇!)


(好き合っているだとーーー!?)


(わたくしめの想像ですぞ。ほっほっほ)


(おい!)


サウヴェルとローレンがごちゃごちゃと言い合っているのにも関わらず、エレンは考えごとに没頭しているのか全く気付く様子がない。

これは相当だと二人は真面目な顔つきになった。


(いや……しかし一理あるのか?)


(お二人は数年ぶりに再会したとの事。考えられない事ではありませんぞ)


成長したガディエルは最近では社交界で噂の的だ。

陛下とそっくりに育ったその顔は、まだ青さがあるものの、切れ者の風格を醸し出していた。

これからの成長が楽しみだと言われている。


エレンがガディエルに恋をしていたのなら、悩まずにはいられないだろう。

精霊と人間では、ロヴェルの件があろうとも簡単には相容れるものではない。

更にテンバールの王族は精霊に呪われている。周囲の反対は想像に難くない。悩んで当然だった。


(しかし……俺は素直に応援できんぞ。兄上が怖すぎる)


(仰る通りで御座います……)


エレンの応援はしたいが、その背後に立つ存在の大きさに二人はぶるりと震えてしまう。


「おい、二人で何をしている」


突如二人の背後から聞こえてきた存在に、サウヴェルは思わずびくりと震えてしまった。

ローレンに至っては殺気が一瞬膨らんでしまっていた。ローレンは驚くと手が出るタイプだった。


「ああああ兄上!?」


「背後に転移されますと思わず手が出そうになりますな」


ほっほっほと笑って誤魔化すローレンにロヴェルが訝しげな顔をする。まあいいと放って、エレンはいるかと声をかけた。


「父様? どうしたのです?」


ロヴェルは大精霊に呼ばれて席を外していた。

その間にエレン達は話を進めていたのだが、ロヴェルの様子からただ事ではない事が起きたのだけは分かった。


「エレン、カイ達はどうした?」


「隣の部屋で待機しています。……もしかして、見つかったのですか?」


「ああ、これから城へ行く。エレンも来るか?」


「はい」


「よし。ローレン、カイ達を呼んできてくれ」


「畏まりました」


一礼して部屋から退室したローレンの背中を見送って、エレンは先ほどまで悩んでいた風などどこにも見せず、ロヴェルと話し込んでいた。


サウヴェルはエレンを見ていて、何だか切ない気持ちになった。

エレンを応援してあげたいが、周囲は反対するだろう。サウヴェルもどちらかといえば反対する。だが、エレンを応援したい気持ちもあった。


「サウヴェル、何をぼーっとしている? お前も行くんだぞ」


呆れたロヴェルの声にサウヴェルはハッとする。思わずすみませんと謝罪し、ロヴェル達の会話に意識を戻した。



願わくは、エレンは幸せな笑顔であって欲しいとサウヴェルは思うのだった。



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