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彼等の正体。

村人達が遠巻きに見守っている中、貴族の指示によって護衛らしき者達が買い取った荷物を次々に荷台の後ろに積んでいく。

二台あった馬車が満杯になると、村人の方へは見向きもせずに貴族達は去っていった。


貴族が去った後、恐る恐る店の中を覗いた者達は目を見開いた。

店の中はがらんとしていて棚には何も残っていない。店の亭主は嵐が過ぎ去ったかのように呆然としていた。

一体何があったのかと村人達が問うが、亭主は分からないとばかり首を振っていた。



***



テツは木々に紛れながら貴族達から距離を取った状態を維持しつつ、後をつけていった。

馬車を守るように騎乗した護衛達が周囲に散らばって移動している。

始終周囲を見回しながら移動している所を見て、貴族が乗っているというだけにしてはやけに警戒している気がした。まるで王族を護衛しているかのようだ。


どのくらい移動しただろうか。

急に街道を外れ、森の中へと入っていく。しかし、馬車は木々の根に足を取られ、これ以上中へは入れないと分かると、荷台の荷物を馬に乗せ替え、荷物だけを運んでいく。

馬車を降りた貴族が何やら指示を出し、一人だけ馬に跨ると森の奥へと入っていった。


(……なんだ?)


護衛達は荷馬車の荷物を確認しながら馬へ袋の固まりを乗せていく。二つ程乗せただけで馬が安定が取れずにふらつくので、護衛達は自らも肩に荷物を担ぎ、馬を率いて徒歩で奥へと向かっていった。


荷物に気を取られている者が大半だとしても、護衛達の統率された動きから油断は出来ない。

遠目で護衛の数や位置を確認していると、脇で休憩している護衛達が目に入る。

テツはすっと身体を忍ばせ、男達の背後へと音も立てずに忍び寄る。そして茂みに身を潜ませて、会話を拾っていった。


「……しかし、なんでこんな場所にまで……」


「仕方ないだろう。ここは薄人が多い場所なんだ。精霊様のお怒りを考えればな……」


男達の言う「薄人」とは、髪の色が明るい者達を指していた。

この国では精霊との結びつきを精霊に肖って暗い色が尊いとされていた。ユイのような金髪で生まれた者達は、辺境やこのファーオ村のような場所へと押しやられてしまうのだ。

だからこそユイを隠すにはもってこいだとこちらに移り住んだのだが、精霊との結びつきが薄いと称して嫌悪している貴族が、こんな辺境の村へ近付くのはおかしい。ユイを狙っているにしては貴族の行動が目立ち過ぎていた。


「あの裏切り者どもの護衛とは俺達もついてないな……」


「王はあの一族を根絶やしにする為だと仰っている。今は我慢するしかないだろう」


「あいつらが精霊様の怒りを買う理由が分かると思わないか。護衛している俺達まで巻き添えを食らって精霊様の怒りを買わないか心配だよ……」


「言うなよ……みんな怯えているんだぞ……」


声を潜め、男達は渋面の顔をしながら話していた。

これを聞いてテツは首を傾げた。


(……裏切り者どもの護衛?)


この男達は誰を護衛しているというのか。

会話や服装から察して、国に仕えている騎士かもしれない。その地位の者達が「裏切り者」というのであれば、罪人の護衛ということだろうか?


(精霊の怒りとはなんだ?)


次から次へと疑問ばかりが浮かんでくる。

この国の者達は、薄人を嫌悪することはあっても罪人とはしていない。

小さな村であれば村八分にされる事は少なくないが、ファーオ村は少なからず薄人はいるので村八分にされるような事はない。

ファーオ村では、より一層の努力をするべきだという思想がある。

精霊に認めてもらえるよう、献身的に仕事に励めという意味で薄人を受け入れているのだ。


(……待て、王はあの一族を根絶やしにと言ったか?)


この国の王が嫌悪している一族など、考えなくても分かる。更に「精霊の怒りを買う」という言葉が、それを肯定している気がしてならなかった。


(まずい……このままではあの御方がお怒りになる)


テツはすっと後方の茂みの陰へと移動する。安全な位置まで来ると、この周辺の地図を頭の中に思い描いた。

貴族が向かった先には、山裾に面した小川があることを思い出す。

恐らく、その辺りに食料を運んでいるのだと検討をつけ、迂回して場所を確かめる事にした。


男達が口にしていた内容から検討を付けたにしても、嫌な予感がして仕方がない。

あの男ならば喜んで殺すだろう敵国の者を、こんな場所に隠す理由とは何だろうか。

鍛冶屋に持ち込まれた大量の武器の注文を思い出して、テツは青ざめた。


(まさか……)


二時間ほど捜索してようやく集団を見つける。

しかし、遠目で見ているだけでテツは青ざめてしまった。


(そんな……どうしてこんな場所に呪われた者が……)


煙の位置で焚き火の場所が分かる。

そこが中心だろうと検討を付けた所から少し外れた場所、そこからどす黒い何かが吹き出しているのが分かった。



***



ユイは幸せそうに膝に乗って眠っている彼女の背中をゆっくりと撫で続けていた。

気に入らない場所を撫でると、時折尻尾でぺしりと手の甲を叩かれる。

それすらも愛おしい。ごめんごめんと言いながら、元の場所を撫で続ける。

首をくすぐると、彼女の喉がごろごろと鳴る。こんなに撫でさせてくれるのは何時ぶりだろうか。


「……そういえば、君はいつも俺を励ましてくれるね」


昔のことを思い出していると、彼女が甘やかしてくれる時は己が落ち込んでいる時が多くなかっただろうか?

その度に、こちらの気をそらそうと「撫でなさいよ」と彼女が言ってくれている気がした。


小さな頃から側にいてくれる存在。

そっと寄り添ってくれる彼女は、それほどまでに大きい存在だった。


「君は優しいね。いつもありがとう」


気まぐれな彼女の行動は分からない。たまたまかもしれない。だけど、励まされていると感じているユイの思いは間違い無かった。

ユイは微笑みながら、幸せそうに彼女の頭を撫でる。

幸せなこの時間が続けばいいのにと思っていると、上の方から扉が開く音がした。


「……テツかな?」


膝からひらりと彼女が降りる。

まるで確認してきてあげるわよと言わんばかりにさっさと階段を上っていった。


「あ、待ってくれ」


慌ててユイもランプを持って階段を上ろうとすると、上の方からテツの声がした。


「ユイ様、ただいま戻りました」


「ご苦労様。……無事で何よりだ」


テツの姿を頭の先から足へと視線を移動させて、ユイがホッと胸をなで下ろす。

しかし、テツの顔色は青かった。その様子に一体どうしたんだとユイが聞いた。


「ユイ様、かなりまずい状況です」


「……どういうことだ」


訝しげな顔をするユイの視界から外れた場所で、彼女がぴくりと耳を動かした。


「呪われた者が近くにいます」


「……呪われた者?」


「あの貴族は刺客ではありませんでしたが、テンバールの王族を隠していました。鍛冶屋の武器の注文といい、恐らく戦争の火種かと思われます」


「な……っ」


絶句したユイは少しばかり呆然としていたものの、直ぐ様考え込んだ。

それをテツは黙って見守っている。


「……王は、一体何を考えていらっしゃるのだ」


「…………」


このままでは戦争は確実だ。戦争の大義名分の為に、テンバールの王族を拉致して隠しているとでもいうのだろうか。

精霊の怒りを買った一族を、精霊のためだと滅ぼすことを掲げている王の意図が理解できない。

精霊、精霊と生まれたときから翻弄されていたユイにとって、それが正義とは到底思えなかった。


「……その先陣に立つのは王ではない。民なのだぞ……」


ユイの拳が怒りで震えている。


「父上と母上と……大勢の民達の屍の上に立ち、それが精霊の為だとでも言うつもりなのか……?」


「ユイ様……」


「精霊の怒りを買っているというのならば、どうしてあの地は精霊の恵みに満ちている? 兄上の言うことは矛盾しているではないか! 精霊がそれを我々に望んでいるとでも? 馬鹿馬鹿しいッ!!」


吐き捨てるユイの言葉を、テツと彼女は黙って聞いていた。

だが、ユイは直ぐに何かを決意した目をして剣を握る。これにテツは慌てた。


「お待ちください! まさかッ」


「元凶がいるというのならあちらへ送り返そう。テツ、案内してくれ」


「なりませんッ!! 近付いてはならないのです!!」


青ざめた表情で必死に止めるテツの態度にユイが訝しがる。

いつもならば黙って付いてきてくれるのに、どうしたというのだろうか。



部屋の中は異様な沈黙で満たされた。

聡いユイは何かに気付いたようだが、それが何なのか分からないという顔をして少しばかり混乱している。

テツは掴んでいたユイの腕をゆっくりと外し、そして膝を付いて臣下の礼を取った。


「ユイ様……いえ、リュール様。俺は……俺達は呪われた者達の側へは行けないのです。俺はあなたをお守りするとあの人に誓った。あなたが呪われた者に近づけば近付くほど、俺達は側で守れなくなる!」


「……テツ?」


行くのはやめて下さいと必死に叫ぶテツに気圧されてユイはたじろいだ。

テツは何を言っているのだろうか。


「……俺達?」


テツの言葉に違和感を覚え、思わず口にすると、テツの足下から彼女がこちらを見上げていた。


「……わらわの事よ、リュール。わらわはこの国を見守るとあの人と約束した。わらわは夜を司る精霊。ローレ」


「俺はローレ様の眷属・ティオーツ。リュール様の母君と契約した精霊なのです」



突然の告白にリュールは呆然とした。

目の前にいる、ずっと家族と思っていた存在達。



髪の色だけが薄く、精霊との結びつきが薄いと言われて周囲から忌避され続けていたリュールは、兄から疎まれて事故を装って家族共々殺された。



愛していたものを全て腹違いの兄に奪われ、天涯孤独だった自分を救ってくれた存在は、精霊だったのだ。





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