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予想外の再開。

ヘルグナーの上空で待機している大精霊から連絡を受けたロヴェルは、ラヴィスエルに伝えた。


「どうも動きがないようですね」


「やはり察したか……」


「陛下が挑発するからでしょう。娘の言う通りに連れ帰る許可だけ取れば良かったんですよ」


「それは悪かった。だが、これでヘルグナー王が噛んでいることは判断できただろう?」


微笑むラヴィスエルにロヴェルは肩をすくめた。


「何か別の手を考えなければ、このまま膠着が続くでしょうね」


「ふむ……」


思っていたより馬鹿ではなかったとラヴィスエルは独り言つ。

何かあれば直ぐに武力に打って出ようとする隣の国にしては予想外だとラヴィスエルは眉をひそめた。


「娘に相談してみますか?」


「…………」


そう提案したロヴェルを見て、ラヴィスエルは溜息を吐いた。


「お前がエレンに会いたいだけだろう……」


「当然じゃないですか」


ここ数日、城に籠もって大精霊からの連絡を待っている。

大精霊達も交代しながらヘルグナーの情報を集めているが、これといった情報は得られていない。

ところが、人間に全く興味を持っていなかった大精霊の一部は、人間達の話を耳にして興味津々に話を聞き入っている者もいるらしい。

これでは気が逸れて情報収集どころじゃないとロヴェルは溜息を吐いていた。


人間の生活を知らない大精霊達から、情報ではなく、これはなんだと始終質問が入ってくる。

予想外に上手くいかないとロヴェルは疲れ果てていた。


「思っていたよりも手間取るな」


「初めての試みなので予想外の事は起こりうるものでしょう。ああ、それよりも帰っていいですか?」


「ここにエレンを呼べ」


「帰りたい……」


泣き言を漏らすロヴェルにラヴィスエルが苦笑していると、突如、「父様?」と空から声が聞こえた。

二人してそちらへ目をやると、空中に漂っているエレンがいた。


「エレ~ン!」


「むぎゅう!」


がばりと娘に抱きつくロヴェルの腕の中から潰されたような声がした。


「……エレン、無事か?」


ラヴィスエルがエレンを心配すると、ロヴェルの腕の中でもがいていたエレンがぷはっと顔を出した。


「もー! 父様、苦しいです!」 


「ごめんよ。嬉しかったんだ」


しゅんと落ち込みながらも娘を抱きしめたまま離さないロヴェルに、エレンとラヴィスエルは相変わらずだと同時に溜息を吐いた。


「母様が父様の所に行ってあげてって言うのですが、何か進展があったのですか?」


オリジンは水鏡でこちらの様子を見ていたらしい。だがロヴェルの娘不足に気付いたらしく、エレンをこちらに寄越してきたことが分かった。


「流石俺のオーリ!」


嬉しそうに娘に頬ずりしているロヴェルに抵抗していると、呆れた顔をしてこちらを見ているラヴィスエルの存在に気付く。


「陛下、ごき、げんよう……も~!」


構い過ぎて怒りを買ったロヴェルはエレンからの反撃に遭う。


「あいた!」


べちん! とおでこを強打されたロヴェルは額抱えてうずくまった。

転移して逃げたエレンは、気を取り直してラヴィスエルに挨拶をする。


「娘離れが出来ない親には苦労するな、エレン」


「まったくです」


「俺は娘離れする気はないから良いんだ!」


開き直って胸を張るロヴェルにまた二人は溜息を吐いた。

このままでは話が進まないとエレンは父親の存在を放ってラヴィスエルに状況を聞いた。


「動きが無くて膠着状態だな」


「陛下が余計な事をしたせいでね」


一言余計だとラヴィスエルが言うが、エレンは何事かと目を瞬いていた。


「何をしたのですか?」


「…………」


エレンに追求されて分が悪いと感じたのか、ラヴィスエルは黙りこむ。

エレンが父の方を見ると、ロヴェルは肩をすくめて状況を説明してくれた。


「警戒されましたね」


「……すまん」


素直に謝るラヴィスエルに、エレンはそれ以上言うのを止めた。

状況が動いていないのならば、こちらから動かなくてはならないだろう。


「しかし、今のままでは効率が悪いのは確かです。場所をある程度絞らなくては……」


ヘルグナーの地図が欲しいと言うと、ラヴィスエルは近衛に持って来させた。

エレンはお礼を言って地図を受け取り、テーブルの上に広げて町の位置を確認していく。


「王都に隠れている可能性が高いと思っていましたが……」


「王都内は別の精霊を寄越して調べたそうだ。呪われた者はいなかったと報告が上がっている」


「逃げられても困りますから他の国にはやってはいないでしょう。人間ならば必ず食事が必要になります。護衛を含め、それなりに人数がいると仮定して……水場が確保できて、尚且つ食事がある程度確保できる場所……」


エレンは空気中の炭素から黒鉛を作りだし、そして鉄を加工して簡単なコンパスを一瞬で作り出した。

その軸を町に置き、おおよそ2~5Kmの範囲を大まかに丸で囲っていく。


「……エレン、それは何だ?」


「え? 何がですか?」


ラヴィスエルの言葉にきょとんと返すと、ラヴィスエルは興味津々でコンパスを指さした。その横でロヴェルは溜息を吐いている。

エレンは時折、こうして無自覚にとんでもないものを創り出す事があった。


「インクではない? 何故書ける? いや、これは絵に使う木炭か……?」


「あー……」


しまった、とエレンは己がまたやらかしてしまった事に気付いた。

とりあえず、これの説明は後でしますと脇に置いて、地図の説明に戻った。


「王族の女性が森での暮らしに耐えられるとは余り思えないので、恐らく町に近い場所に潜伏している可能性が高いと思われます。更に呪われているのは相手も知っているわけですから、精霊を奉る祠や教会のそばは避けるでしょう」


エレンはそう言いながら、少しずつ潜伏場所を絞っていく。

そうして絞られた場所は、相当狭い範囲と化していた。


「ふむ……」


「この絞られた場所に焦点を当てて情報を集めてはどうでしょうか?」


「良い案だ」


ラヴィスエルが誉めると、エレンは嬉しそうに笑った。

それを目にしてラヴィスエルは少しばかり驚いた。そういえば、エレンとこんな風に話をした事は少ない。

良い機会かもしれないとラヴィスエルはロヴェルに精霊への指示を任せて、先ほどのコンパスに話を変えた。


「それで、これはどういう物なのだ?」


「それは……」


エレンが説明しようとしたその時、近衛からガディエル殿下が参られました、と連絡が入った。


「通せ」


「はっ」


「ちょっと待て!」


ロヴェルが慌てて娘を抱える。扉から離れた位置に娘を逃がし、己の背に隠した。

それを見ていた周囲の者達は少しばかり呆れていたが、本人達からしてみれば一大事だ。

扉が開いて一礼する男性を目にして、エレンは目を見開いた。


「え……?」


ガディエルだと聞いていたのに、目の前に現れた男性が一瞬分からなかった。だれ? と思わず声に出してしまった。

それにガディエルが気付き、彼も目を見開いた。


「エレン……?」


今年18になったガディエルの容姿は、最後に会ってから見違えるほどに成長していた。

身長もロヴェルと殆ど変わらない。目の前の男性は、陛下にとても似ていた。


おずおずと父親の背後から顔を出してこちらを見ているエレンを目にして、数年前と容姿の変わらないエレンの姿に戸惑いを覚えたものの、ガディエルは嬉しそうにエレンに近づいた。


「お待ち下さい。それ以上娘に近づくのは止めて頂きたい」


ロヴェルが睨むと、ガディエルは呪いの存在を思い出したらしく足を止めた。

その顔は悲しそうな顔をしてエレンを見つめている。エレンはどうしていいか分からず、俯いてしまった。


「ガディエル、用件はなんだ」


陛下の一言で、場の空気が一瞬で変わった。

ガディエルは気を取り直し、何か報告している。


「父様……」


「エレン、一端帰ろうか?」


逃げるなら今だとエレンが父親の服の裾をツンツンと引っ張ると、その意図を正確に受け取ったロヴェルが小さく提案した言葉をラヴィスエルは聞き漏らさなかった。


「エレンにはまだ用がある。その場にいてくれ」


この言葉にロヴェルが舌打ちをした。

ガディエルもこの機会を逃す気は無いようで、陛下の言葉に便乗する。


「エレン、遠くからでも構わないから少し話をしないか。弟も会いたがっているんだ」


「…………」


王族二人のお願いにどうしようと父を仰ぐと、ロヴェルは流石に断れないと眉間に皺を寄せながら「護衛を同席させます」と言った。


「ヴァン! カイを連れて共に来い!」


ロヴェルが命じると、直ぐ様ヴァンが姿を現し、御意と一言だけ残して消えた。

そして暫くしてカイも転移して連れてくる。カイは少しばかり動揺していたようだったが、直ぐ様臣下の礼を取った。


「まあ、警戒するのは分かるがな」


そう言いながらラヴィスエルは苦笑している。ガディエルはこれからエレンと話せると嬉しそうな顔をしていた。


エレンは今から王族達を相手に話し合いをしなければならなくなったとロヴェルの背後でこっそり溜息を吐いていたのだった。



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