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精霊達への説得。

エレンが城へと戻ると、丁度説得を終えたロヴェルと鉢合わせた。


「父様」


「やあ、俺の可愛いお姫様」


頭の天辺にキスをされてエレンがくすぐったそうにすると、ロヴェルはオーリへの説明は終わったの? と聞いてきた。


「はい。父様の方も終わったのですか?」


「勿論だとも。皆、協力的だったよ」


「……え?」


エレンは首を傾げる。エレンとロヴェルが精霊だとしても、その親族の人間に対しては、過去の人間とのやりとりから、辛辣な意見を持つ者も多かったはずだ。

だからこそ皆が協力的だとは思えなかった。少なからず揉めるはずだと、この場はロヴェルに託したのだ。

数日は揉めるだろうと思っていたのに、どうやったのだと疑問が顔に出ていたらしく、ロヴェルは笑いながら事の次第を教えてくれた。


「エレンが領地で栽培してくれていたやつがあるだろう? あれのお陰さ」


エレンは目を瞬かせていた。しかし、直ぐに理由が分かったらしい。


「父様、まさか……」


「いや~、まさかここまで彼等に気に入られているとは思わなかったよ」


ロヴェル自身も、まさかここまで効果を発揮するとは思わなかったらしい。

そうなると見返りとして暫く、屋敷中で甘い匂いを充満させなければならなくなるだろう。


「……あの匂いを充満させると、屋敷どころか周辺の人達まで寄ってくるのに……」


「う~ん。困ったね!」


匂いに釣られた者達が興味を持ってしまうと収集がつかなくなって大騒ぎになりかねない。

ロヴェルはそれはその時と既に腹をくくってしまっているらしく、特に何か策があるわけではなさそうだ。

どうしようかと思案していると、エレンはふと思いついた。


「収穫祭としていっそお祭りにしてしまいましょうか」


「……収穫、さい?」


「豊作を祝うお祭りです。精霊達に感謝を捧げて祈るために、豊作になった作物で食べ物やお酒を作ってお供えし、そして自分達も食べて祝うんです。その時に一緒に作ってしまえば攪乱になるのではないでしょうか?」


「あ、それいいね!」


サウヴェルに提案しようとロヴェルは笑顔になる。


「それはそうと、父様」


「ん? なんだい?」


「精霊達をお菓子で釣るのはこれっきりにして下さいね」


「あっはっは!」


ロヴェルは大笑いをするが、エレンは溜息をこぼす。

実はお菓子はオリジンを始めとする精霊達が大好きで、食べたいと大興奮してしまうのだ。

胎児にも何かしらの影響が出るのか、いつもは収まっている暴走が起きやすくなる。

周囲の精霊達は気が休まらないだろう。


以前、プリンを屋敷の料理人に作ってもらった事がある。それを水鏡で見ていたオリジンが食べたいと言い出した。

ヴァンもカイ達と一緒に食べていたので、その感想を聞いていて余計に興味津々だったのだろう。

そして、一口食べて母の顔つきが変わったあの瞬間だけはエレンは忘れられない。



協力してくれる精霊達のお菓子の量を把握するために、エレンは父に事の次第を聞いた。



***



大きな広間に大精霊達を集めると、ロヴェルは事の次第を説明して協力を求めた。

しかし人間との確執は根が深く、協力しようと申し出てくれるのは数名だけだった。

広範囲を要する国の情報を拾うのに、数名だけじゃとても心もとない。


「だいたい、何故我らが人間ごとき相手にそのようにこそこそせねばならないのです。姫様に手を出すのであれば、奴等など一気に滅してしまえば良かろうて」


「そうですよ。なんて回りくどいのでしょう」


「そもそも姫様が人間に肩入れするのは、人間界に入り浸っているのが原因ではないのか。人間界へ行かなければ人間も手出しできまい」


大精霊達の主張はもっともだとロヴェルは頷いた。

だが領地の人間が戦争に巻き込まれれば、手に入らなくなるものがあると深刻そうにロヴェルは話した。


「手に……入らなくなる?」


大精霊達が首を傾げる。人間界に何かあったかと互いに質問するが、誰もが首を傾げるばかりだった。


「エレンに頼まれて、フランとオープストが領地で育てている作物が幾つかある。他にもニーゼルとレーゲン、ボーデンにリヒトが関わっている」


「……それがどうかしたというのですか」


「それらを使って、何が作られていると思う? 時折エレンが皆に食べてと差し出すだろう。そう、菓子だ」


エレンがうろ覚えで作り方を屋敷の者へと教えた物。それらは料理人の試行錯誤で進化を遂げ、プリンだけではなく、ガレットを始め、パイやクッキーなどになって配られていた。

砂糖の原料である作物を領地で栽培し、そして麦にも力を注ぐ。豊作になった影響で、保存も利くとどんどんお菓子は作られていった。

エレンはそれらを精霊達にお礼として配っていたのだ。


この甘い菓子に夢中になった精霊達は、時折エレンに催促するほどになっていた。


「な、なんですと……!?」


「このまま戦争になれば、俺の領地の者達は最前線に送られて作物が作れなくなる。勿論、この菓子を作っている者もだ。そうなれば暫くは……いや、戦争で料理人が亡くなれば二度と作れないかもしれないな……」


ロヴェルはどうしようもないと重い溜息をこぼす。

精霊の力が借りれないなら仕方ないと、ロヴェルは部屋から出ていこうとした。


「ま、待って下され、ロヴェル様!!」


慌てる精霊達の見えない所で、ロヴェルはにやりと笑う。


「菓子が作れなくなるとは本当なのですか!?」


「なんてことだ……あれだけは人間を評価できるというのに……」


「そんな、誰も作り方なんて知らないわよ……。エレン様が持ってきてくれる紅茶と、くっきーとやらが一番の楽しみなのに……」


ざわざわと騒ぎだす大精霊達に、ロヴェルは更に畳みかけた。


「協力してくれる者にはエレンに頼んで菓子の詰め合わせを報酬として差し出そうと思っている」


「なんですと!?」


「つ、詰め合わせ……!? それはつまり、沢山の種類の菓子を一度に貰えるということですか!?」


非常に食いつく精霊達にロヴェルはにこりと笑った。


「ああ、エレンに伝えよう」


「ああ素晴らしい!!」


「茶葉もお願いしたいわ!!」


もはや崇拝の勢いで菓子を持ってきてくれるエレンは今まで以上に大人気だ。

精霊は殆ど食さない為に、食の喜びや楽しみを知らない。

それを少しだけ食べれるからとお土産として持ち込んだエレンのお菓子は、精霊界にとって革命だったのだ。



***



エレンは己の父の両頬を摘んでぎりぎりと絞っていた。


「いひゃい、いひゃいひょ! へれん!!」


「もう! 父様ったら勝手に約束して!!」


「おへん、おへん!」


「……それで、結局何人手伝って下さるんですか」


頬を離して仁王立ちする娘の姿に、両頬を赤くしたロヴェルは冷や汗をかきながら言った。


「あー……沢山?」


「は?」


「50……いや、100?」


「はああ!??」


精霊が精霊を呼び、手伝うと菓子の報酬が手に入ると噂が飛び交っているらしい。


「……もしかしたら全員という事ですか?」


「多分?」


えへっと笑う父の足のすねを、エレンはとりあえず蹴った。

すると地味に痛かったらしく、ロヴェルは足を抱えてうずくまってプルプルと震えていた。


「うー……力に訴えるとはラフィリアの悪影響か……」


「何を言っているんですか! 母様の安定期がまだだというのに!!」


「あ、そうだった……」


どうやら本当に忘れていたらしく、ロヴェルも青くなる。

精霊同士で噂になっているなら、既に大騒ぎになっているだろう。

オリジンだって菓子の詰め合わせは欲しがるはずだ。だが妊娠中で人間界に行けるはずもなく、手伝いなんてできるはずがない。

お菓子が欲しいとかんしゃくを起こして暴走を起こしかねないと親子は青ざめていった。



二人は腹をくくった。オリジンに再度、事態の説明をするために玉座の間へと向かうのだった。




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