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変わらない空のように。

エレン達は大精霊達に協力して貰うために精霊界へと帰っていた。

風の大精霊達の説明はロヴェルが行うが、母こと女王への説明はエレンが担った。


玉座の間へとエレンが向かうと、玉座の横に新たに設置されたソファーに沢山のクッションに埋もれながら、母がゆったりと座っていた。

オリジンは現在、妊娠四ヶ月目になる妊婦だ。まだ安定期に入っていないので油断は許されないと、万全の体制で精霊達が周囲に待機している。


「母様、調子はいかがですか?」


「ふふふ、今日は良いのよ」


精霊につわりは無いが、代わりに力が暴走する。

胎児の力の性質が安定しないため、母胎の力と反発して暴走を起こすのだ。

元々の力が大きいために下手をすると寝ている間に城が半壊しかねない。

母の周囲は結界で閉じられていて、常に見張られている。

まるで腫れ物に触るような扱いなのだが、「エレンちゃんの時より随分ましになったのよ!」と、慣れたように言われてしまうと、何だか申し訳ない気持ちになってしまった。


母の横に座って、芽吹いたばかりの小さな命に声をかけた。


「姉さまですよ。今日は良い子ですね」


母のお腹を撫でさせて貰う。ほんのり膨らんできたお腹の中に新たな命が宿っていると思うと感無量になる。


良い子良い子とお腹をさすっていると、ほんの少しだけ、力の流れが感じ取れた。


「……あれ?」


「ふふふ、姉さまに誉められて嬉しかったのかしら?」


オリジンが微笑ましそうに言うが、しかし四ヶ月目で既に力が扱えるのかと驚きの方が勝ってしまった。


「この子は天才ですか?」


「あらあら、ロヴェルと同じ事を言うのねぇ」


「えっ、それは心外です」


「あらあらあら」


おかしそうに笑う母の姿に何だか気恥ずかしくなる。

最近ではよく周囲に父に似ていると言われることが多くなった。その度に心外ですと答えるのだが、父が大喜びしてうざくて仕方ない。

この場に父がいなくて良かったとエレンは内心でホッとしていた。


「それで、エレンちゃんはどうするの?」


急に本題に入ったオリジンの言葉に、エレンは居住まいを正した。

オリジンは水鏡で一部始終を見ていた。これは人間の国同士の問題だが、その目的が自分達だと確定した際、私が人間に対してどうするのか、母は女王として問い掛けているのだ。


「人間の問題は人間が。それに変わりはありません」


「ええ」


「ですが父や私が直接狙われているとなれば、それは人間と精霊の問題となります」


「……そうね」


「でも本当は……」


「精霊が断罪を下せば、人間はただでは済まない。それを気にしているのね」


「はい……」


「あの女が関係してるなら、今直ぐわたくしが断罪したいのだけど……」


「わわわっ! 母様はダメです!!」


今妊娠中のオリジンが人間界へと赴けば、力が暴走して何が起きるか分からない。

ただでさえ現在のオリジンの周囲の空気は高濃度の魔素が溢れている。

アークが魔素の性質を確認しながら、魔素の濃度を薄める為に定期的に来ているほどなのだ。

それほどに現在のオリジンは不安定で、母胎にどんな影響が出るかも分からない。


「人間は人間で。実は腹黒さんに協力して貰おうと思っています」


「あら」


「二年前に言質を頂いています。こういう時こそ役に立って貰わないと!」


「ふふふ、それは妙案ね!」


水鏡で見る楽しみが増えるわ! と本音を漏らす母の言葉にエレンは内心で呆れていたが、肩から力が抜けたような錯覚がする。


人間として、そして精霊として。エレンはその行いが見られている立場だ。

更に女神として。その肩にかかる重圧は計り知れない。


今までのエレンだったら、家族に手を出すのは許さないと直ぐに断罪のための証拠を得るために走っただろう。

だが全てを見守るための存在である女神としての立場なら。

全てを見通し、そして全てに平等でなければならない。



月日が経つにつれ、エレンは人間界から離されていく感覚に陥っている。

自分と同じ歳のラフィリアと遊ぶ度、だんだんと体格が離れていった。

少女が女性として成長していく過程が、目を瞬く間に終わってしまう。

エレンを守ってくれているカイも、少年から青年へと成長を遂げていた。


自分だけが取り残されていく感覚。

殆ど成長しない身体を見下ろして、溜息を吐くことが多くなっていた。



生前の人間の感覚が邪魔をして、精霊として半端者なのだと自覚していた。

オリジンは女神として、そして母としてエレンを見守っているのだ。


女神として覚醒して二年。

まだ早いとは言われていたが、そろそろ覚悟しなければならないだろう。


(……それでも、私は……)


朧気になってしまっている昔の記憶に縋ろうとするが、今ではもう、あまり思い出せなくなっていた。それを寂しく思う。




エレンは城から庭に出て、空を見上げる。

澄み切った空の色は、人間界も精霊界も変わらない。


こんな、空のようになりたいと思いながら、暫くエレンは空を見上げていた。




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