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テンバール王国とヘルグナー王国。

ロヴェル達が退室した後、残ったラヴィスエルと近衛達は沈痛な面持ちで溜息を吐いていた。

エレンは王族であるアミエルが裏切りを働いていると一瞬で見抜き、それに対する情報収集の手段を提示した。その手段は流石精霊と言うべきか。


宮廷にいる精霊魔法使いでさえ、そんな手段は取れない。エレンを敵に回した瞬間、恐ろしい目に遭うことは学習済みだ。それを改めて目の当たりにしてラヴィスエル達は内心で怖気立った。


アミエルがヴァンクライフト家へ何か手を出すというのであれば、確実に報復を受けるだろう。

場合によってはアミエルのせいでエレンの報復を国まで受けかねない。それだけは避けなければとラヴィスエルは思考を巡らせる。


どういう理由があれ、国を売ったのであればアミエルは王族として断罪されなければならない。

エレンがもたらす情報でそれが確定するだろう。


「なんて恐ろしい……」


エレンに食ってかかった近衛は顔を青くして嫌な汗をかいていた。

自国が敵に回った瞬間を想像し、武器も防具も通用しない、丸裸にされる錯覚を起こした。

王族を守らねばならない立場にいる近衛達は、人間が精霊の前でどれだけ無力で小さな存在であるか悟ったのだ。


「お前達が我々を守る立場であることは分かっているが、エレンだけはだめだ。あれを敵に回した瞬間、国は滅ぶだろう」


「そ、そんな……」


「見ただろう。エレンは大精霊達を従えられる立場にいる」


「だ、大精霊……達……?」


「もうロヴェルが急に現れたとしても剣を向けるな。……あれ等はもう人ではない。神と同等の存在なのだ」


寂しそうに言うラヴィスエルに近衛達は何も言えずにいた。

小さな頃からロヴェルを見ていただけに、成長しない彼とその娘を見て、内心で酷く衝撃を受けていたようだ。


複雑な思いが空回ってラヴィスエルは溜息を吐く。

身内の裏切りに加えて親しい者が遠い存在になっている現実に少しばかり遠い目をしていたが、直ぐに気を取り直して近衛に命じた。


「エルネストを呼べ」


「畏まりました」


「ああ、あと例の布を。奴が来るまで休む」


そう言ってラヴィスエルはソファーに横になった。

待機していた側仕えを呼び、湯に浸した布を絞ってラヴィスエルは目元に被せると、直ぐに眠ってしまった。


近衛達は互いに頷いて気配を消す。一人は宰相を呼びに行き、他の者達は静かに定位置に戻って行った。



***



テンバール王国は元々、ヘルグナー王族の分家から成り立ったと謳われている。

ヘルグナー国は精霊信仰が盛んで、王家に代々縁ある精霊と契約できた者が跡継ぎとして認められていた。

だがそれは本家の一族のみが許されていたことで、分家はいくら能力があろうと血がふさわしくないと、精霊と契約するに値しないと冷遇されていた。


一部の分家の者達が己も能力があると息巻き、精霊が多く出没するという噂の未開の土地へと赴いた。

一族の教えを捨て、欲望のまま神聖な場所へと土足で上がり込む分家に本家は怒り狂った。

精霊の怒りを買うのを恐れたヘルグナー一族は、道を踏み外す分家を処罰していった。

しかし難を逃れた一握りの者達が、その未開の地で精霊と契約してしまったのだ。


その力の持ち主はヘルグナーと袂を分かち、その未開の地を切り開いて国を建てた。しかしヘルグナー国がそれを許せるはずがない。

ヘルグナー一族はテンバール王族を裏切り者の一族として敵と見なした。


そして長年のその教えを裏付けるように、テンバール王族は精霊の怒りを買って呪われていた事が発覚する。これにヘルグナーが当然だといわんばかりに声を上げた。


「元々が我々の一族ならば、我々の手で粛清しなければならない」


現王であるヘルグナー・ローレ・デュランは、一族のその信念に忠実な男だった。




ヘルグナー王家は、代々黒目黒髪の容姿をしている。この髪の色は、王家に縁ある精霊の色だった。

この色こそが精霊との絆の強さを表していると謳われていた。しかし元々祖先は金髪碧眼だったと聞く。

いまやその色を持つ王族はヘルグナーにいないが、テンバールの王族を見る度に忌々しい思っていた。


今年22になるデュランは黒目黒髪だが、王族縁の精霊と契約していない。

その精霊は遡ること12年ほど前、デュランの弟であるリュールが事故死して以来、それを嘆き悲しんで眠りについてしまい、それ以来姿を現していなかった。




テンバール王族は精霊の怒りを買って呪われているというのに、精霊の聖地と謳われているテンバール国内では、大精霊の契約が行われたりと裏切者達はその恩恵に肖っている。

本来ならばテンバールの恩恵は、ヘルグナーが受けるべき恩恵なのだ。


20年以上も昔、精霊とは何の縁もなかったテンバール国のヴァンクライフト家の跡継ぎが大精霊と契約した。

そして2年前、同じくヴァンクライフト家の護衛が大精霊と契約している。

それ以前にヴァンクライフト領では精霊による恩恵の噂が絶えなかった。



一体何が起きているというのか。


弟の存在が世に生まれて以来、ヘルグナーでは様々な災いばかりが起こっている。

それを打開するため、デュランはヴァンクライフト家に目をつけたのだった。




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