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閑話・学院にいる王家達。

王家専用として用意された談話室で、現在学院に在籍している王家の身分を持つ四人はお茶を飲みながら読書をしたり、書類を整理したりと各自由に過ごしていた。

その中で年長のガディエルの様子がここ数日おかしい。

ラスエルとアミエルは呆れた目で、何度目かの書き損じをしたガディエルを横目で見ていた。


「ガディエルお兄さま、本当にどうなさったの?」


いつもの姿からは想像出来ない落ち着きのないガディエルにアミエルが心配そうに声をかけた。

従兄弟同士ではあったが、城で一緒に育った四人は兄弟の様に育っていた。

その親しみを込めて、一番下であるアミエルは皆をお兄さま、お姉さまと呼んでいる。


「お兄さまは今学院に来ている英雄の娘が気になって仕方ないのよ」


くすくすと笑うシエルにアミエルは驚いた顔をした。


「まあ、ガディエルお兄さまったら……」


「ち、違うぞ!! シエル、なんて事を言うんだ!!」


狼狽するガディエルを冷めた目で見ていたラスエルがふんっと吐き捨てる様に言った。


「そうですね、兄上にはお会いして下さるかもしれませんしね」


嫌みをぐさぐさと刺す弟に、ガディエルはばつが悪そうな顔をした。


「あのなラスエル……」


「どうせ僕が一緒にいてもエレン嬢は僕の事などご存じ無いですからね。ええ、羨ましい限りですよ」


「…………」


ラスエルは根に持っていた。以前、陛下の命でヴァンクライフトへと赴いた際、エレンと会って話をしたことがばれたのだ。

それまで一緒にヴァンクライフト家へと赴き、石碑の前で行動を共にしていたので裏切られたと思っているらしい。

任務で偶然にも会えた事は確かに幸運だった。そう思えるが、今では針のむしろの様であった。


「ラスエルお兄さまも変ですわ……」


「アミエル、ラスエルも英雄の娘にお会いしたいの。だけどお兄さまだけ会ったから拗ねているのよ」


シエルはくすくすと笑う。それにラスエルは図星だったらしく、姉上は黙ってて下さいと噛みついた。


「だけどね、たぶんお会いできないわよ?」


さも当たり前の様に言うシエルに、他の面々が固まった。どうしてそんな事を知っているのかと、その目は言っている。


「英雄の娘……エレン様だったかしら? 体調が優れなくてずっと臥せっているそうよ。明日の精霊の儀式だけは見せたいからってロヴェル様は学院を見回るのを止めて、今は付き添っていらっしゃるんですって」


刺繍をしている手を止めずに、そんな情報をぽろりとこぼすシエルにガディエルとラスエルはがたんと椅子を倒して立ち上がった。

それに驚くアミエルを余所に、シエルはあらあらと笑っている。


「あああ姉上!! エレン嬢が臥せっているというのは本当ですか!?」


「お前、どうしてそんな情報を先に言わない!?」


噛みつく二人にシエルは動揺することもなく、ゆっくりと一針一針刺繍を施している。


「だって、別に大した情報でもなんでもないもの。ロヴェル様は一日ずつ各塔を回ると推測されていたんでしょう? だから今日、貴族塔に来ると睨んだお兄さまは落ち着きが無いの。……残念だったわね」


最後の言葉は本当におかしいとばかりに音が低かった。笑うシエルに、ガディエルは苦虫を噛み潰した様な顔をした。


「姉上、そんな話どこで聞いたんですか」


「あら、誰もが気になっているじゃない。皆情報が欲しくて走り回っているのよ? それぐらいまとめられなくっちゃ」


今年14歳になる王女であるシエルは、王妃直伝の情報収集能力によって、学院の様々な噂を牛耳っている。

その能力の高さは既に陛下にも認められている程で、こうして時折周囲の度肝を抜くのだ。


アミエルはずっと黙ったまま聞いていた。その顔からは感情が読みとれない。


「そ、それより兄上、こうしちゃいられない。何かお見舞いの品などを……」


「そうだな! そうしよう!!」


暴走する兄弟を見てシエルはおかしそうに笑っていたが、更に気になる事も投げかけた。


「エレン様が気になるのは分かったけれど……お兄さま達はあの女は宜しいの?」


「……女?」


「昔二人で足繁く通っていらっしゃったじゃない。ヴァンクライフト家の女よ。今頃反省房に入っているわ」


「反省房?」


シエルの言葉に今度は二人とも何とも言えない顔つきをしていた。

それ程までにラフィリアは日常的に問題児であるという認識であった。


「今度は何をやったんだあのバカ女」


辛辣な言葉を吐くラスエルに、ガディエルも溜息を吐く。

二人は幼い頃、ラフィリアと遊んでいた。だが、本当に仲が良かったといえるのは最初の1年程だった。

段々と彼女の横暴さが目について距離を取り、文通だけに留めていた。

だが、この間の任務でその文通すらも止められた。

王家の者と文通をしていると自身が周囲に吹聴し、それを利用されて誘拐されたからだ。

ガディエル達はいずれこうなるのではないかと話し合っていた。ラフィリアに注意したこともある。だが、彼女は「私は大丈夫よ」と言って聞く耳を持たなかったのだ。


「エレン様とは従姉妹同士なのに温度差の素晴らしいこと! 殿方達との密会ですって。本当、あの女は噂に事欠かないわね」


「殿方達との密会……?」


訝しげに眉を寄せるガディエルに、ラスエルが「喧嘩でもしていたんじゃないですか?」と言った。


「喧嘩……? 相手は複数の様だが?」


「やるでしょう、あの女なら。バカ力の持ち主ですし。兄上、それより見舞いの品を見繕いに行きましょう!!」


「あ、ああ……」


ラスエルに促されて二人は出ていった。

談話室に残されたシエルとアミエルは、黙ったままだった。

それを破ったのはシエルの方であった。


「……気になるの?」


「何がでしょうか、お姉さま」


「大丈夫よ。どうせ精霊の呪いで近づけないんだから」


一針一針ゆっくりと刺すその手つきは優雅ではあるが、アミエルは怖いと感じてしまう。


「あなたも程々になさいね?」


くすくすと笑うシエルに、何だか針で刺された様な錯覚がした。





その後、見舞いの品を持ってロヴェル達が泊まっている部屋へと押し掛けたガディエルとラスエルは、扉の前で笑顔の英雄に門前払いを食らうのだった。





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