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この学院は何やら裏がありそうです。

教師に怒鳴られ、散り散りに教室に戻っていった生徒達は興奮気味に話し出す。


「英雄ロヴェルだった!! ほんとに英雄が来た!!」


遠目ではあったが、確かに噂通りの髪色をしていた。

白髪ではない、銀色の髪の人間は英雄しかいない。

英雄の前に馬車から降りてきた人物が白髪だったので、その違いは顕著に現れていた。


そして生徒達の会話は英雄の後に出てきた少女に集中する。馬車の中へと英雄が差し出した手を握った小さな手。

英雄と同じ光沢の銀の髪をした少女の姿を目にした瞬間、生徒達は一瞬時が止まった気がした。


「なんか、小さくてすっげー可愛かった!!」


「え、なになに? 誰が可愛かったの?」


生徒達は遠目で見ていたのでその顔は見ていないはずなのに、興奮のせいか想像を飛躍させて話していた。


「英雄ロヴェルが小さな女の子連れてたんだ。英雄と同じ髪色の女の子!!」


「ヴァンクライフト家って銀髪だった?」


「一年にいるじゃん。あそこは歴代栗色。英雄ロヴェルは精霊界に行っていたせいで髪色が変わったんだって噂だけど……」


そこで少女の存在に謎が生まれる。少女は英雄ロヴェルと同じ髪色をしていた。

人間に銀髪はいない。人間で銀髪は英雄ロヴェルだけだ。銀髪は元々、精霊の色であった。

彼女の謎に、生徒達は口々に推測を口にした。


「妹とか?」


「英雄ロヴェルに妹はいない。直系の娘は一年にいる英雄の弟の娘だけだろ?」


「じゃあ誰だよあの女の子!」


白熱していく会話に、ふと誰かが思い出したと叫ぶ。


「神の薬を施してくれるのは英雄ロヴェルとその娘って噂、知ってる?」


「え……なにそれ」


「治療院で噂になってたんだ。薬を持って来るのが、必ず英雄と一緒にいる女の子だって」


「英雄ロヴェルって結婚してたの!?」


衝撃的な事実の発覚に女性徒から悲鳴が迸る。

男子達は女子はこれだからと溜息を吐いた。

対照的に男子達が少女の存在に色めき立っていることが、女子達から溜息を吐かれていると気付かない。それほどまでに男女の白熱は対照的であった。


「いや、さすがに結婚位してるだろ。モンスターテンペストって今から14年前だろ? そのとき確か英雄は成人して直ぐだったはず……だから今31歳くらいか?」


ロヴェルの実年齢に生徒達から、そんな歳に見えなかったと悲鳴が上がった。

遠目ではあったが、英雄ロヴェルは最上級生である殿下とそう歳があまり変わらない容姿であったように見かけた。

少女と並んだ姿は歳の離れた兄妹に見えるほどだった。


「……まさか、英雄の子供?」


誰かの呟きに教室が一瞬で静まった。

行き着いた可能性に、生徒達の興奮は更に膨れ上がる。

事の真相を確かめるには親族に確かめるのが一番だと、生徒達はラフィリアがいる教室へと走った。



***



教室中の騒ぎにラフィリアは呆然としていた。

英雄ロヴェルが学院にやってきたという噂に、先程から事の真相を確かめに、知らない生徒や上級生にひっきりなしに呼び出されていたのだ。


「……そんなの私は知らないわ!!」


いい加減うんざりした頃、更に噂が上乗せされていた。


「英雄ロヴェルと同じ髪色をした女の子って誰!?」


その言葉にラフィリアはひくりと喉が鳴った。

それは叔父の娘である、エレンではないだろうか……?


「エレン? 叔父様と一緒にエレンが学院に来ているの……?」


ラフィリアの言葉に、周囲の者達の顔色が変わった。


「エレン? その女の子ってエレンっていうの!?」


ラフィリアは見慣れた光景にうんざりする。

誰も彼もがエレンエレン。領地で見た光景が、この学院でも起こっていた。

エレンは学院には入学しないと聞いていたのに、どういうつもりでここにいるのかとラフィリアは苛立った。


詳しく話を聞けば、教師総出でエレンは出迎えられていたらしい。

自分だって実家は公爵家だ。それなのに教師達にそんな態度など取られた覚えなど全く無い。

むしろ市井の出だというだけで、教師どころか貴族達にまで陰口を叩かれバカにされているのに。


(エレンの母親だってどこの誰だかしれないっていうのに!! この差は何なの!?)


ラフィリアは苛立った。

同じ学年にいる、何かと突っかかってくる父親の元妻の娘に日々苛立っているというのに、それに加えてエレンまでやってくるとはどういうことだろうか。

そして何故親族である自分に知らされていないのかとラフィリアは唇を噛んだ。


(確かめなきゃ……!!)


エレン達が向かったとされる先へ、ラフィリアは走っていった。



***



学院長室へと向かっている最中、周囲からのざわめきと不躾な目線に、私はうんざりしていた。

更に父達の歩く速度がとても早く、私は小走りでないと付いていけなかった。

この世界の男性は身長が高く、その分比例して足がとても長い。

そのコンパスで歩かれると、身長の低い私はどうしても小走りでないと付いていけないのだ。


精霊であるから空を浮遊することもできるが、人間が見ている前でそんな事をすれば何が起きるか分からない。

人前では迂闊に転移も出来ないと私は溜息をこぼした。

すると、直ぐ様私の溜息に気付いた父が、ごめんねと謝ってきた。


「おいで、エレン」


父の言葉に反射的に抱っこをせがむように両手を万歳の様に上げた。

父は笑って私を抱えてくれる。そしてそのまま私を片腕に座らせた。

その様子に前を歩いていた学院長が驚いて目を丸くしていた。

人間の体重であるなら平均的に27~29Kg程あるはずだ。だが、私の体重はその1/5程しかないので恐らくではあるが6kg程度。見た目30Kgほどありそうな子供を片手で抱えているのだから、それは驚くだろう。

父の首にすがりつく私を見ていた生徒達は、「可愛い……」と呟かれていた。


(しまった……絶対小さい子だと思われてる……)


事実小さいのだが、12歳には絶対に見えない容姿のせいか、私は父に流されたと後悔する。だが小走りでずっと付いていくのも辛い。

両方を天秤にかけた結果、私は早々に楽を取った。



父の肩にこてんと首を預けると、この体勢は非常に楽であると再認識した。更に父達に付いていく必要が無くなれば、その分周囲に目をやれる。

これは便利だと私は趣味に没頭することにした。


学院長の進む距離から換算して、この先は先ほど目星を付けていたホーエンツォレルン城に似た建物へと向かっているのが分かった。


(やはりあの建物は教員達が使っているのかな……)


頭の中はフル回転している。

建物の構造、道順、教室の数。

そこから計算していって、教室の平均的な大きさを予測する。それらを建物の大きさに当てはめていって、空白部分を探した。


(右の塔と下の階に何かあるな……)


思わずにやりと笑ってしまう。それに直ぐ様、父が気付いた。


「エレン、もう何か見つけたの?」


「おおよそではありますが。あと、中央の建物の下、何か"います"ね」


私の囁きに父が目を丸くした。

何か「いる」と私は断言した。この気配は間違いなく精霊だろう。

どうして学院の真下から精霊の気配がするのか、推測するだけでもただ事ではない気がする。

更に母は父が在学中にこの気配を感じていたと言っていた。

恐らくではあるが、この学院が出来た当初からその存在がある可能性が出てきた。


「さっきから変な感じはすると思ったけど……まさか、オーリが言っていたのはこれ?」


「そうだと思います。この学院、確実に裏がありますねぇ」


私の楽しそうな声に、父は苦笑していた。




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