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独擅場。

あのままヴァンに寄り添ったまま眠ってしまったらしい。私は目をこすりながら自分の横にいたはずの父の姿を探した。


「……とーさま?」


きょろきょろと部屋の中を見渡すが、父の姿は無かった。少しだけ寂しさを感じながら後ろを見ると、私が起きたと気付いたヴァンがにっこりと笑った。


「おはようございます、姫様」


「ヴァン君、おはようございます」


父やヴァンのお陰で、昨日あれだけ悲しかった胸のもやもやがすっきりと晴れていた。

私がにっこりと笑うと、ヴァンもほっとしたらしく私の額に頭を擦り寄せて、おでこをこっつんと合わせてきた。


「いつもの姫様ですな」


「ごめんなさい。心配をおかけしました」


「いいえ!! 姫様が謝罪する必要など御座いません! あの小娘許せませんぞーー!!」


ヴァンの中でラフィリアは敵だと認定されてしまったらしい。


「あ、あの! ヴァン君、ラフィリアはね、私の従姉妹なの」


「……従姉妹殿ですと?」


「そう。だからね、あまり敵意持って欲しくないな……私、サウヴェルおじさまは大好きだもの」


私が泣いてしまったせいでこれ以上関係を拗らせてしまう事は避けたかった。


「むぅうう…………善処します」


(その言葉は「いいえ」じゃないですかーー!?)


どうしようとあたふたしていると、扉ががちゃりと音を立てて開いた。


「あれ? 眠り姫は起きたのかな?」


「とーさま、おはようございます」


「おはよう、俺のお姫様。朝食の用意が出来ているけどどうする? とーさまと一緒に支度しようか?」


「ひとりでできます!!」


ぷんすかと怒ると父が落ち込んでいた。

お部屋から出て行ってと父を追い出してチェストへと手をかけようとして、私は思い出した。


「……ヴァン君?」


「はっ!! し、失礼いたしました!!」


ベッドで虎のまま何食わぬ顔で鎮座していたヴァンを追い出すと、私は溜息を吐いてチェストを開けた。

下着を用意してメイドを呼ぶと、一緒にお風呂へと向かう。



お風呂に入ってから髪の毛をメイドにお願いしてドレス用のチェストを開けてもらうと、そこにはイザベラとローレンがこれでもかと用意した私の服がずらりと並んでいた。

チェストを開ける度に何だか増えている錯覚がするのは気のせいだろうかと、少し現実逃避をしたくなった。


「エレンお嬢様、本日はいかが致しましょうか?」


「とりあえず朝用でお願いします……」


貴族とは面倒くさい。どうして日に何度もドレスを変えなければならないのか意味が分からない。

私はまだ身体が小さいのでコルセットなどを用意されないのだけは救いだった。



***



服を着替え、廊下で待っていた父におまたせしましたと声をかけた。

がちゃりと扉を開けると、そこには人化したヴァンとカイも待っていた。


「美人さんになったね」


でもやっぱり可愛いと言われながら父から頬にキスを受けると、お返しに私も父にキスを返した。


「エレン様、おはようございます」


「カイ君おはようございます」


にっこりと笑うと、カイもホッとした顔をしていた。もしかしてカイにも心配をかけていたのかと少し気恥ずかしいものを感じる。


だけど昨日の事を蒸し返すのはダメージが大きい。自ら暴露することもないだろうと、早速話題を反らす作戦に出た。


「カイ君はもうご飯は食べたのですか?」


「いえ、俺はまだです」


「じゃあ一緒に食べましょう!」


「えっ……あの、それは……」


るんるんで提案すると、父に止められた。


「エレン、護衛は別室で待機して食べるんだよ」


「えー……」


しょぼんと落ち込むとこればかりはねと父も苦笑していた。

貴族というのは本当に面倒くさい。自分は精霊界で気ままに過ごしていたので、人間界のルールにたまに嫌気が差すことがある。


「じゃあ、また後で!」


バイバイと手を振りながら、父と手を繋いで食堂へと向かう。背後ではカイがお辞儀をしていた。

ヴァンは一緒に付いて行こうとしていたが、カイに止められていた。

背後で何か言い合いが行われている。大精霊に物怖じしないその態度に父が笑っていた。


「心配しなくて大丈夫だよ。あの二人、何だかんだ仲が良いみたいだ」


「えっ? そうなのですか?」


意外だと驚くと、父も同意する。


「喧嘩するほど仲が良いというやつなのかな?」


「違うと思います」


詳しく聞くと、昨日ヴァンの魔法の有能性を見せつけられて、カイはヴァンを上に立てて話をしたようであった。

だけど精霊だからこそ人間界では通用しないものもある。そこをカイはヴァンに指摘して、互いに協力し合いながら歩み寄りをしたらしい。


「……カイ君すごいですね」


まだ14歳なのに、相手の立場を立たせてから話し合いが出来るなど、早々出来るものではないだろう。


「小さな頃からアルベルトと一緒に騎士団付属の練習所に出入りしていたからね。そういう上下関係は上手く渡り合えるみたいだよ」


私は目をぱちくりとしながら、父と一緒に食堂へと向かった。この人間界は本当に上下関係に煩いと納得してしまう。徹底された教育を施されているのだろう。



食堂へと着くと、既にサウヴェルやガディエル達は食事を終えていたらしい。


「食後に殿下とお話をする事になるけど大丈夫かい?」


「問題なんてありませんが?」


「同席するのは俺とサウヴェルとローレンだ」


「分かりました」


父と一緒にまったりと食事をしながら、今後の予定を聞いていた。


「殿下も屋敷に泊まっていたんですね」


「ああ、まあ一応ね。……サウヴェルが宿の扉を壊したし」


「あっ」


そういえば、あの宿の扉はどうしたんだと思ったら、側に控えていたローレンが修理人を派遣いたしましたよと笑顔で教えてくれた。


私と父は余り食べれないので、ほんの少しの料理だけを用意してもらっていた。

少ししか食べれない私達に料理人の方では何やら思うことがあったのか、食事をする度に一品が凄く豪華になっていく。


食べられる物は何がありますかと料理人に聞かれた際、何となく作り方を教えた所、見事にプリンを再現する事に成功させた程の腕前を持っている。


プリンは皆が絶賛するほどに大人気となった。だが、砂糖が高価なのでなかなか食べられるものではない。

だがこの蒸し料理は具合が悪くても食べられるはずだと、スープを卵でとじた茶碗蒸しの様なものを治療院でも出したところ、急速に作り方が広まっていた。


「そういえば、殿下がこのプリンに驚いていてね」


「美味しいですもんね!!」


「作り方を教えて欲しいと言ってきたらしいよ」


「あらあら~」


「どうする?」


「ただじゃ教えられませんねー」


私がにやりと笑うと、父もにやりと笑った。



***



食事を終えてサウヴェルの書斎に向かう。

そこには既にサウヴェル達が待っていた。


「こんにちは、皆様」


お辞儀をして部屋へと入ると、皆が立って一礼してくれた。

おいでと父に促されて殿下とは向かいに、少し離れた位置に座る。


「昨日はご協力ありがとう御座いました。お陰様で無事、ラフィリアが戻って参りました」


「あ、ああ……」


私の言葉にガディエルが何とか返事をする。彼等の顔色は悪い。そう、ラフィリアの誘拐に王家が関わっていた事が分かったからだ。


「殿下、このお手紙の理由を教えていただけますか?」


「そ、それは……」


「殿下はこのお手紙についてどう思われますか?」


「……」


「お手紙にはこうあります。"任務でヴァンクライフト領に行くことになった。良ければ会えないだろうか?"」


手紙には任務に支障が出るのでなるべく一人で来て欲しい、何日頃には到着するなど、かなり細かい詳細が書かれていたのだ。


「この封蝋に押された印章は王家の物だとお分かりですよね? そしてこの手紙の内容……出された方の特定はもうお済みなのでしょう?」


「……任務の内容の詳細もここまで事細かに書けるのは陛下しかいない」


「そう。手紙のやりとりをしていたというのを知っていただけではここまで細かい指定などできません。ラフィリアは陛下の指示によって浚われた。それが我々の見解です」


「だが、私達は……」


「存じなかった、そう仰りたいのですよね? それは分かっています。ですがこれは我々の家と、王家の問題だと思いませんか?」


「……ああ、そうだ」


「ご理解頂けて光栄です。では、一応お約束はしたので薬の件に話題を移しましょう」


本題に入ったとガディエル達に緊張が走ったのが伝わってきた。サウヴェルと父は、黙ってくれている。

本当ならばサウヴェルも言いたい事があるだろう。結局は王家の企みによってラフィリアを浚われたも当然なのだ。

だがラフィリアは事前から素行の問題があったので、サウヴェルも強く出られなかった。


「これらの事を踏まえ、薬の詳細を王家へお伝えすることはできません」


「そんな!?」


「ですが、お薬はお約束通り殿下にお渡しします。それを調べるも患者さんに渡すもお好きにして下さい。そして、今後も薬は調達してお渡ししましょう」


「……製法を教えていただくことはできないのか?」


「教えられません」


「……エレン」


「信用に値しません」


「……っ!」


「それに教えた所で、あなた方には理解できません」


「どういうことだ……?」


「この人間界でこの薬を作ることはできません」


「……なんだと」


「かといって、精霊界に住む精霊ならば作ることができるのかといえば、それも出来ません。精霊と人間の構造は違いますので」


「じゃあ一体なんなんだ、この薬は……!?」


「教えません。試しに彼の精霊に聞いてみれば良いのはありませんか?」


ヒュームとその精霊はその為に連れて来たのだろうと促せば、ヒュームはおずおずと身を乗り出した。


「とーさま、薬を」


「はいどうぞ」


抗生物質を二錠だけ渡すと、ヒュームはアシュトを呼んで、薬のことを調べさせた。


『きゅう? きゅ?』


首を傾げるアシュトにヒュームは焦る。


「アシュト、……分からないのか?」


『ヒュー、これ、人間界にないと思う』


「えっ!? じゃあ、精霊界の薬なのか?」


『精霊は薬なんて飲まないよ?』


「じゃあ、材料は精霊界のものなのか?」


『……ちがう、と思う? アシュ見たことない』


きゅっ? と首を傾げるアシュトに、ヒュームはじゃあなんなんだと混乱していた。


「薬はこちらでご用意します。あなた方がそれを作ることはできません。ただそれだけです」


「そんな……」


「お話を進めますね。その薬は抗生物質。病気の元を殺す薬ですが、同時にお腹の中にある元気の元もまとめて殺す薬です。病気の元がなくなるまでそれを飲み続ける必要がありますが、でもその代わりにお腹は酷く下ります。そういうのを副作用といいます」


薬の説明を始めた私に、ガディエル達は最初目が点になっていたが、直ぐ様気を引き締めて話を聞いていた。


「薬を扱う点での注意事項、そして今後の衛生管理を徹底させてください。でないといくら薬があっても予防しなければ薬の需要はいつまでも追いつけません」


更にこの薬は人間界では作れないと私は宣言した。その貴重性も相まって、ガディエル達は焦りが見えていた。


ラフィリアを出汁にされて薬のことを聞き出そうというのならば、それに敢えて便乗しよう。

ですが陛下。甘く見ていただいては困りますと私はにっこりと笑う。


(引っかき回しておいて、ただで薬が手に入るなんて思わないで下さいね)


そんなことを思っていたら、隣に座っていた父にばっちりと見られていた。


「エレンが何か企んでるなぁ」


「今更ですよ、とーさま」


私達の隣でそれを聞いていたサウヴェルが、なぜかガディエル達と一緒に青くなっていたのだった。




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