見つかってしまいました。
「ねぇねぇ、とーさま。あの人たち知り合いなの?」
「ああ……ついにバレちゃったかーどうしよう?」
首をこてんと傾けて、のほほんと返してくるこの27歳の父ことロヴェルは、私ことエレンの頭を撫でながら朗らかに放つ。
つい先ほど立ち寄った町の露天で串に刺さった肉を買ってもらい、父と一緒に頬張っていた所、突如後方から聞こえてきた呆然とした声につい二人で振り返ってしまったのがきっかけだった。
「ま、まさか……ロヴェル、様……?」
その声と共にどさりと何かしらの荷物が落ちる音。
父の名前だとつい振り返ったそこには、こちらを呆然と見て口を半開きにした男が二人いた。
「うっわーやばい、逃げよう」
そう言って父は私を急に抱えあげ、いきなり転移。
町から離れた場所に瞬間移動した私達は先ほどのやりとりをしたという訳であり……。
「なんで逃げるの?」
「知らない間に有名人になってて、いきなり囲まれたら怖いだろう?」
「……そうだったね、英雄さん」
「やめてー!」
両手で顔を覆い、じたばたと照れる父に呆れながら手にしていた残りの肉をもぐもぐと咀嚼する。
そんな私を見て、父は自分の分の串をとっさに私を抱える為に捨ててしまった事を思い出したらしく、じめじめと落ち込み始めた。
めんどくさいなーと私は酷い事を言いながら、残りの肉をあーんと言いつつ差し出す。
それに嬉しそうにぱくりと食いつく父は、子供から見ても可愛いと思う。身内贔屓ですが。
精霊界で過ごしていた私達は、そろそろ人間界に出て力を馴染ませる事になった。
だけど父は実家に帰ることを良しとしなかった。どうやら良い所の出らしいのだけど、帰ると確実に大騒動になったり一悶着あるとのこと。その理由が、冒頭の「英雄話」だったのだ。
更に私という稀有な存在もあった。私の存在がバレると人間に力を悪用される恐れがある。
そんな懸念を含んでいたため、私は目深にフードを被って世界中を父と一緒にまったり旅をしながら、時折母を交えて人間界を観光……いや、修行をしていた。
父の見た目はすっごい美形。元は栗色の髪の毛に碧眼だったが、精霊界にいた影響……もとい、母と契った事で白銀の髪の毛に紫の瞳に変化したそうだ。
母の髪は白金。目は赤。父は元の碧眼と母の赤が混ざって紫に変化した。
私の髪の毛は父に似て白銀のストレート。目はオーロラというかミスティックトパーズというか、紫を基にして角度で色々な色に変わる目をしている。
私の目はチタニウム照射技術なの? と、ちょっと意味が分からない仕様なのだが、現代科学の技術の結晶の様で大好きです。
顔は母そっくりで、白銀の髪のストレート具合と、両サイドの髪が少し外に跳ねている癖は父の遺伝子を受け継いだ。
父が小さかった頃の母はこんなに可愛かったんだなーとか言いながら、母にも私にもデレにデレてて軽くウザい毎日を過ごしている。
「さっきの人達はとーさまの知り合いでしょ? なんで逃げたの?」
「髪の毛も目の色も変わってるのに気付かれるとは思わなかったからビックリして?」
「……逃げようって宣言して逃げた人がビックリ?」
「それは言わない約束だよ!」
「事前にそんな約束なんてしてないもん」
何度も言うようですが、父はひっじょーに美形なのだ。町を歩けばすれ違う人が男女関係なく全員振り返るレベルなのに、それで目立たないとか思ってる辺り本当に危機管理が無いと思う。
ちなみに私は目深にフードを被って顔を隠してる。父と母のDNAはぶっちゃけ恐ろしい事になっているからだ。初めて自分の顔を水鏡で見て絶句したのは仕方ないだろう。
父は心配性で、私が誘拐されないかと常に私を抱っこして移動している。まぁ、この身長じゃ歩幅も違うので仕方ないのだが。
母も一応側にいるといえばいるのだが、精霊なので姿は消している。
精霊界の玉座で水鏡を使って父を見守ってはいるが、母は精霊から大精霊を束ねる精霊界の女王である。
この世界の元始を司る力の持ち主は、人間界に姿を現すのは少しなら大丈夫ではあっても、長時間居続けると周囲に多大な影響を及ぼすらしい。なので父が母を喚ぶ時は直ぐに駆けつけられるように水鏡でストーキン……いえ、待機している。
私はまだ小さいので力の影響は大丈夫なのだが、親から受け継いだ遺伝子のおかげで、生まれながらに作り物の様な、人間味の薄い顔をしている。
人間達は私を一目見ると揃って惚けた顔をして、私の目が宝石なのかと確かめようと、手の指を目に向かって伸ばしてくるので非常に怖い。
「追いかけてきそうだね」
「あいつ等は確実に追いかけてくる」
昔何かあったのか、ぶるりと震えた父はまた私をだっこして歩き出した。
「あーあ、巻く前にあいつ等の記憶を消せば良かった」
非常に無情な事を言っている父は、それでものほほんと構えていた。
父が英雄だったという事をすっかり忘れていた私達は、直ぐ様英雄の帰還を上に報告され、国中で大騒ぎになる事を失念していた。
人相書きが触れ回り、見つかるなり人々に追いかけ回され疲弊するという事態に陥るのだった。