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2章・プロローグ

精霊はこの世界を構成する魔素を素体にして存在している存在である。

それぞれが特質を司り、この世界を構成する様々なものを支え、管理する役目を担っていた。


その中でも女神は、この世界だけではなく、様々な世界を管理する組織の一部であった。それは人の所でいう「神」という概念と似ている。

実体を持たない魂だけの存在の女神達は、管理する世界が決まると、その世界を構成するエネルギー体を使って実体を得る事になる。


新しい世界を構成し、管理する事になったオリジンは、双子の姉達と共にこの世界に降り立った。

オリジンは生物が全く存在しないこの世界に、この世界を構成するためのエネルギーである魔素を使って様々なものを造り出す役目を担うことになった。

そして双子の姉達の役割は、全てを見通し世界の状況を報告するヴォールと、この世界の秩序を定めるヴァールとで、この世界を管理することになったのである。


その中でもオリジンは、暇つぶしと称して同じ様な自我を持つ事のできる「人形」を造った。


それが「人間」であったのだ。



***



テンバール城で王家の呪いに当たってから、約四年が経過しました。

あれから暫く寝込んでしまった私は、夢の中で王家の呪いの一部始終を見ました。

目が覚めて泣きながら母に報告をしたら、母は全てを語ってくれました。



テンバールの王は、力を手に入れて民を助けるべく、精霊界に渡る事を決意した。

だが、門があると謳われている場所の特定は未だに分からなかった。

精霊に聞いた所で彼らが教えるはずがない。だからこそ、その場所を特定するために王は精霊魔法使いに協力を求めた。


最初に人質にされた精霊魔法使いは、あえて国のために人質になった者達であった。

契約していた精霊達は純粋に騙され、いいように扱われてしまった。もしかすると精霊を慕っていた精霊魔法使い達も、こんなことになるなど予想していなかったのかもしれない。

惨劇は引き返せない所まで進み、そして激怒した大精霊達によって制裁を下された。


「大精霊達もね、王に呪いをかけようとしたわけじゃなかったの。自分達が何をしでかしたのか分からせようとして、同胞達の叫びを聞かせようと魔法をかけた」


ところがその力に便乗して、犠牲になった精霊の魂達が恨みを持って王に襲いかかった。


「その時代の王は死ぬまで精霊達の叫びを聞き続けたわ。だけど王が死ねば精霊の呪いは行き場を失う。呪いは逃げ道を求めて、王の血筋に沿うようになったの」


「それが、王家の呪い……」


「エレンちゃん。人間の言い分も、精霊の言い分も分かる貴女は、事実を知ってどうするのかしら?」


「かーさま、わたしは……」


ずっと思っていた事がある。私に助けを乞う魂達の叫び。あの叫びは純粋に、解放を求めていた。


「かーさま……私は人間よりも、今を生きる精霊よりも、囚われたままでいる同胞達が叫ぶ願いを叶えたいです……」


あの夢を思い出せば思い出す程、ぽろぽろと涙がこぼれた。

彼等は幾度も繰り返している。あの時に受けた苦痛を、屈辱を、苦しみを。そしてやり場のない怒りを。

その怒りを根元である王にぶつけるしかない精霊達は、またその繰り返す苦しみに喘いでいた。


「エレンちゃん……私の優しい娘なら、そう言うと思っていたの」


ふわりと笑う母は、私に対して怒るでもなく微笑んだ。

同胞達が受けた苦しみを、人間達が忘れている事実に怒りを覚えるのは当たり前だった。

直系とはいえ、代を重ねるほど薄くなっていく呪われた王の血。だが解放されることない同胞の魂。今の時代の王家には、既に同胞が受けた苦しみは届いていない。

苦しみ抜いた同胞の魂は、どこまで苦しめば良いのだろう?


「王家を許さないという思いは、あの時の惨劇は繰り返させない為に私達が引き継ぐべきだと思います。……私に、魂を解放することはできるでしょうか?」


「……難しいと思うわ」


申し訳なさそうに言う母であったが、私は母に縋ることはしなかった。

これまでに呪いが解かれていない理由。それは、母は王家を許していないということに他ならない。


界を異なる石碑の裏側に当たるあの場所で、私は王子達の声をずっと聞いていた。

精霊の呪いの本当の意味を知った王子達は、心から謝罪したいと願っている。

人間達の思い、精霊達の思い、助けを求める同胞の願い。

それらに挟まれて、私は息が苦しくなった。


「エレンちゃん。貴女が毎年、精霊際の時に出かけているのは知っているの」


母の告白に私の肩はびくりと揺れた。

私が色々なものに板挟みになっていることも分かっているようだった。


「杞憂かもしれないけれど伝えておくわね。人間と精霊の間では、子を成す事は出来無いの」


「……え?」


だとしたら、私は一体何なのだ。


「エレンちゃんはね、ロヴェルが半精霊になったからこそ出来た奇跡の存在なのよ」


母は笑顔で言うが、私は青ざめていた。


「これはとーさまには内緒にしてね? 本来ならロヴェルは10年前に死ぬはずだったの。わたくしはそれが許せなくて、ロヴェルの身体を本人には黙って造り変えたわ」


「……かーさま?」


母の言うことが信じられない。母は何を言っているのだろう。


「人間は元々わたくしが作り出した人形。それに自我を持たせたに過ぎない存在だったわ。……まさかあんなことをしでかすとは思わなかったけれど。だけど同時に愛しい存在でもあったの。それを見守り続けることはわたくしたちにとっての娯楽でもあった」


「……」


「元々ロヴェルにはわたくしの力を貸していたわ。その月日はロヴェルの身体に馴染むまで十分な時間だった。だからこそ可能だったといえるわね。わたくしの力に馴染んだ魂と記憶を、精霊の素体に移し変えたの。だけど、わたくしの力にどれだけ馴染んでいるとはいえ、元々人間としての素体であったが為に、契ってしまったら拒絶反応が起きたわ。……わたくしの力が強すぎたのね」


父が人間界に帰れなかった理由だった。


「とーさまとかーさまが契ったから、とーさまが半精霊化したと聞きましたがそれは違うということですか……?」


「ロヴェルが目覚めた時には、身体は既に造り変えていたわ。だからこそたった一年で目覚めたのよ。本来だったらそれだけで済んだはずなのだけど……わたくしはロヴェルを愛したわ」


「……つまり、契るはずがなかった所、契ってしまったが故に、とーさまの力は暴走してしまったと」


「ええ、そうなのよ。あの時は吃驚したわ~」


母もまさかこうなるとは思わなかったらしい。精霊として造り変えられた身体で、更に母の力を取り入れてしまった。

過剰に取り入れてしまった母の力に耐えきれず、暴走してしまったというのが真相だった。

さらに母の力の本質は創造である。生き物を造り出す元始の力は、混ざり合って私という存在を創った。


「エレンちゃん」


母は私を抱きしめて耳元で囁いた。



「わたくしがいうのもなんだけど、これ以上呪いを受けた人間に肩入れするのはおやめなさい」



それは、精霊として、女神としての母の忠告であった。





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